113. もうすぐ春です (1)
少し間が空きました。113話目です。
ロガリア学院の卒業式も無事終了し、卒業した者たちが次のステップへと準備を始めたこの期間は、王都中央騎士団にとっても平和なひと時だ。
この期間を終え、春ともなれば、騎士志願者たちが王都中央を目指し、見習い騎士として1年間訓練に入る。
夏になると、昨年度の見習い騎士たちの配属選定に入り、各騎士団による優秀な人材の争奪戦という名の会議が始まる。
それはさておき、つかの間の平穏な時期のある日、王都中央騎士団応接室にて、相対して座っているのはマイクとマイカの双子の姉弟。
勿論、遮音結界は展開済み。
ロガリア学院の冬季休暇中のルーフェスに請われウィステリア家に行ったマイカに、事の顛末を聞いていたマイクはその内容に眉間に皺がよるのを否めない。
「・・・・あんだけ、嫁不足を謳っといてそれか?杜撰というかなんというか・・・バカらしい。」
呆れて物も言えないとばかりに、脱力した声音で呟く。
マイカも似た心境なのか、力の抜けた口調で続ける。
「あははは・・・私もルーフェス君が何か必死だったから~・・・何かあるのかなとは思ってはいたけど・・・・よもや自分がそんな対象として招かれたなんて、考えもしなかったよ。と、いうかマイクは知ってたんだね?何で教えてくれなかったのさ?言ってくれてたらもう少し・・・何ともならなかったとは思うけど。」
姉のマイカとヴィーがウィステリア家の嫁候補なんてものにあげられているという、イザークからの事前の話がなかったら、あんな風にルーフェスから言われても、マイクも嫁候補として誘われてるとは思わなかったかもしれない。
「・・・・ごめん、そういうのって、直接本人と交渉するものであって、俺が先に言うのも違うって思ってたから・・・でも、こんな事になるなら言っておけば良かったよ。」
「ふ~ん・・・?」
「でも、マイカも何で文句言ってこなかったのさ?」
実際にバカにされたような待遇をされたのに、怒りは湧かなかったのか不思議に思ってマイクはマイカに問う。
「え~?それこそ何で?ご親切にも教えてあげなきゃならないのさ?そんな義理なんか、これっぽっちもないのに。あのままで行けば、普通の神経持ち合わせてる女性なら、あの人たちのお嫁さんになんかならないよ。それはあの人たちの責任で、更には状況を今まで把握しようともしないウィステリア家ご当主の責任だよ?」
違った。
何とも思っていないわけでもなかった。
「・・・・手厳しいね。」
苦情を言って状況把握を手伝ってやるほど、自分は親切ではないと暗に言うマイカに、苦笑いする。
「そう?今まで同じ目にあった女性が何人いたのか知らないけど、そことの関係もどうなっている事やらって感じだね。あんなことを続けてるんだったら、信用自体を無くしてそうだ。それに、当主側に嫁候補を探してもらってる時点で、甘やかれ過ぎだし、バッカじゃないの?って思うけどな。」
手厳しい上にかなり辛辣だ。
表面上は意に介さないように見えても、相当不快に思っていたのだろう。
「まあ、俺もそう思うけど・・・・・でも、ヴィーを上手い事それから外させたじゃん?」
「ヴィーを同じ目に合わせるのも確かに嫌だったけど、それ以上に・・・・・」
「何?」
「あの人たち、何をどう勘違いしてたのか知らないけど・・・・ああいや、美的感覚が違ったのかな?」
「何だよ?」
「揃いも揃って、無精ひげ伸び放題!頭髪もあれが男らしいとでも思ってんのかな?しかも風呂に入ってないのか何か色々・・・匂いがヤバかった。」
「・・・・ああ~、身だしなみ・・的な?」
「まあね、戦闘中だったり、そういう身支度が出来ない危機的状況ならまだしも、男性女性に関わらず、初見の人間に相対する配慮が無さ過ぎ。あんな連中にヴィーを近づけさせるなんて、考えただけでも嫌だよ!・・・・・・・・・・多分、ヴィー、暴れるよ?そりゃあもう、暴れん坊の如く、自分の魔力切れなんて考えないよ?だって・・・・不潔そうな無精ひげだよ?高い確率でヴィーのトラウマを刺激する。」
無表情に淡々と述べていく。
「そんなに・・・・?」
「そう、そんなに・・・・酷かったんですよ?だって、そういう輩が集団で来るんだよ?マイクお兄ちゃん。」
「うわぁ・・・」
不潔で他人に配慮がないと思われる集団に、何度取り囲まれたのかは定かではないけれど、自分がそんな目に合うのは全力で遠慮したいが、可愛い下の弟子をそんな目に合わせるなんて言語道断!
それは2人とも同意見なのだ。
しかし、この2人の清潔度の基準が日本人感覚なら、かなり厳しい事になっているかもしれない。
そうすると、不潔で他人に配慮がないと思われる集団と切り捨てられるのは少し不憫だ。
「それに!・・・・・ああ、ごめん。これは、もういいや。」
「何?今更・・・・気になるから、この際言っちゃってくれよ。」
「・・・・・う~ん、これ以上はさ、詳しい事情も知らない私が言っても、だたの悪口みたいになるから、やめとく。忘れて。」
「・・・・・ここだけの話にしておくから、気になった事がまだあるなら、教えてくれよ。」
「・・・・ヴィーにも言わない?」
「ああ、言わない。」
ただの悪口みたいな情報でも、実際にマイカが感じたことはマイクは看過出来ない。
しかし、それがヴィーに伝わる事を躊躇する。
それは良く判るので、言わないと約束をする。
良い兄弟子・姉弟子のままでいたいのは共通項らしい。
「さっき、状況を当主が把握してないって言ったけど、同じ嫁側の立場である当主夫人は、何で何も動かないのかなって思った。”私は何も関わってません”みたいにふるまってたし。一族の長である当主が見合い擬きをセッテイングしているなら、それこそ当主夫人が、招いた女性たちをフォローするもんじゃないのかなぁってさ。そうしたら、こんなことが今までずっと放置されているはずないよな?・・・・・ってね?」
「・・・・うん、確かにおかしい気がするというか、色々拙いというか、どうしたいのかわからないね?」
「でも、外部から見える事だけであれこれ言うのも・・・違う気がするから。」
「・・・・そうだね、もう関係ない事だもんな。」
「そだね・・・・・」
「「・・・・・はぁ・・・・」」
納得出来ない気持ちがあるものの、これ以上はいくら2人で話し合ってみても、堂々巡りなのを感じて溜息を吐いた。
しかし、モヤモヤ感が払拭されるわけではない。
2人は黙って暫く、お茶を飲んだ。
「ところでさ、嫁繋がりの話で悪いんだけど、も一つ報告しておくよ。」
「何?」
何かを思い出したものの今度も少し言いにくいのか、誰に聞かれる筈もない遮音結界の中、マイクに近づき小声で話す。
多分心情的なものなのだろう。
「精霊の街の・・・・・長さまから・・・・・求婚されました。」
「・・・・・・・・・・えっ?」
マイクの笑顔がピクっと引き攣った。
「・・・・・・・精霊の街の長のキミドリ様から、求婚されました。」
「・・・・・・・・・・えっ?」
マイクの笑顔は引き攣ったまま。
マイカの左眉が、くっと上がった。
「・・・・・・・精霊の街の長のキミドリ様から、求婚されました。」
「・・・・・・・・・・えっ?」
「繰り返しのお約束は3回までが限度だったな?よし、他の事項をお知らせいたします。今年ロガリア学院の・・」
「わぁ!聞こえてます!聞いてます!」
求婚の話を本当に終了させるべく別の事を話しだしたマイカに焦り、慌てて取り繕うようにマイクが叫んだ。
だが、マイカは素知らぬ顔で続ける。
「基礎科にショーノ家の双子、ヨシュアとヒイロが入学するそうです。学院が春期休暇の間に学院寮に入るために、この王都中央に上京してくるとの事。連絡するので時間があったら会ってあげてくれとの伝言を預かってまいりました。以上、伝達事項でした。」
「ええっ?!あの2人が?なんで俺がそんな事・・・!って、マ、マイカ!謝るから!キミドリ様に求婚されたって?!それで?!」
それは俺の仕事かよ?と内心文句を言いたいが、優先順位はそれではない。
「ピンポンパンポーン・・・本日の伝達・報告は終了いたしました。またのご利用をお待ちしております。ピンポンパンポーン。」
どこかの電話受付嬢のようなセリフを言うとマイカは立ち上がり、そのままスタスタと応接室を出て行こうとすると同時に、バシュッ!と張られていた結界が壊れる音が響く。
「遮音結界、強制解除。」
「おわっ?!遮音結界、構築展開発動――――!ごめんなさい!ちゃんと聞きます!お願い!お姉ちゃ―ん!!」
マイクは必死に謝り倒し、熱海での別れのシーンが有名な某小説のお宮さんの如く縋りつき、部屋を出て行くのを思い止まらせた。
体調は回復してきましたが今度MRIを受けることになりました。
結果次第では手術になりそうです。
そうすると、再び間が空いてしまうかもしれません。
という感じなので、暫く不定期更新になります。




