112. イズモの里帰り (2)
112話目です。
3人でもふもふ状態でいても、イズモの部屋の圧迫感が半端ない。
特にクオの9本の尾のもふもふが、わさわさしていてかなり幅を取っている。
なので、もう一度仕切り直しすることとなった。
現在は人型になり、朝食後のお茶を飲んでいる。
「まさか、イズモが成人の儀をこのような短期間で終えてくるとは・・・予想外であった。」
「そうだな~、大抵は2~3年、悪くすると50年近くかかる奴もいるもんな。」
「・・・・2~3年?50年?!何故そんなにかかるんですか?」
何を言ってるんだ、当たり前だろう?と顔に書いてある表情でイズモを見る、サイとクオ。
「各国の精霊の街での行われる成人の儀の内容は、それこそ街ごとに違うという話だが”やり終えるのが難しい”、それが我らの認識でもある。」
「サイの言う通りだぞ?お前と同じく成人の儀を受けるべく旅立った者たちは、お前以外まだ帰って来てはいないと思うぞ?」
「・・・・え~っ?」
「というか、ラフューリング王国だったか?・・・あの国は、ほとんどの民が人間ってこともあって、精霊の街の場所の特定も、かなり難しいはずなんだがな?」
「その国の精霊の街の成人の儀が一番難解という話も聞いたことがあるしな・・・」
「え?精霊の街の場所の特定が難しい?なぜですか?」
ラフューリング王国の魔獣とも人間とも意思の疎通が出来なかったイズモは、どうしたら良いのか判らず、迷子状態ではあった。
だが最後の手段として、国中巡れば何とかなるのではないかと思っていたのだ。
「何故って・・・当たり前だろう?あの国は人間と精霊との交流が、ほとんどないからだ。」
「お前、その国の人間と友達になったと言っていただろう?そのような話はしなかったのか?」
「・・・・・してません。あの国の魔獣とは意思の疎通が出来なかったし、最初に会話をしたのが友達になったそいつだったし、精霊の街の大まかな場所を教えてもらったのもそいつなんです。」
「・・・最初に会話した者から、精霊の街の情報を得たのか・・・?なんという強運だ。」
「・・・そう言えば、その友には精霊に血が入っていると言っていたか?だからか?」
「いえ、貰った食べ物から精霊の加護の気配は感じていましたが、本人はその事を知らないようでした。」
「では何故?」
何故ヴィーが精霊の街の位置を大まかではあるが知っていたのか?
本人に訊ねてみたことはなかったが、マイカと親しかった事から彼女から土産話程度には聞いていたのではないかとイズモは推測した。
その証拠は、ヴィーから貰った”オニギリ”だった。
あの”オニギリ”から精霊の加護の気配が感じられたから。
「おそらく”精霊の街”の客人となった身内から聞いていたのではないかと思います。あいつに教えて貰ったのは、大まかな位置でしたから。」
「・・・・・ふむ、そうか・・・・それでも、運が良いことに変わりはないな。」
「はい。その後に、精霊の街で再び会いました。その時に、そいつに精霊の血が入っている事、先祖返りだという事が判ったんです。」
「「先祖返り?」」
「たまに、外の世界を見たくて精霊の街から出て行く精霊もいるのだそうです。そのうちの実体化出来る者が人間と結婚して、数は多いのかどうか判りませんが、子供が生まれることもあって、その血筋の者なんだそうです。」
「精霊の街を出て、人間と結婚して子を儲けるなど・・・・・・自由だな、ラフューリング王国の精霊は・・・・」
「・・・・このラヴィンター皇国なら判るが、ほとんど交流がないのに・・・大丈夫なのか?」
「そこまでは、俺にも判りません・・・・精霊の街の中の人達はあまり外界を気にしていないようでしたし。」
そのくせ、その外界からの客が自分達と同等に闘えるとなったら喜び勇んで仕掛ける。
訳が判らない。
だが、不思議と精霊の街に害意がある者は客人とならないようだ。
「・・・・・・ふむ、だが、私の息子が見事成人の儀を終えてきたことは確かだ。しかも、こんなに短期間で!ふふふふふふ・・・・・・こんなに嬉しいことはない!」
「そうだ、イズモ!成人もしたことだし・・・・・今度は俺と一緒に番いとなるものを探しにでも行くか?」
「何?!私を除け者にして、私の息子と嫁探し?!一人で行けば良いだろうが!クオ!」
「いいだろ?旅は道連れ世は情けというではないか?」
「知らん!」
「いえ俺は、嫁はまだまだ先で良いですよ?」
(何が悲しくて、すぐ嫁なんて探しに行かなくてはならないのか?
時間はたっぷりあるのだ、もっと色んな事をしてみたい。
まだ、具体的に何とは決めてないが。)
本当は自分と同じ”記憶持ち”を探そうと思っていた。
だが期せずして見つけることが出来た。
それが、イズモに余裕を与えているようだ。
「「!!」」
「聞いたか?、クオ?余裕有りき者の言葉!」
「くそ~、それでも俺は番いを探しに行くぞ!」
大人2人は、信じられないとばかりにイズモを凝視したと思ったら、笑顔で実に悔しそうに愚痴る。
無駄に器用だ。
しかしイズモは、ふとクオの言葉に引っ掛かりを覚えた。
「・・・クオさん、番いを探しに行くって?」
「ああ、クオはやっと重い腰を上げるらしくてな、番いを探す旅に出るそうだ。」
「本当?クオさん?」
「うむ、本当だ。この国で待ってばかりいても見つかりそうもないのでな。思い切って世界を巡ってみようと思ったのだ。昨日は、サイがその門出を祝して酒を振舞ってくれたのだが・・・」
「思いのほか深酒をしてしまって、うちに泊まったんですね?」
「その通り・・・・で、存外早くに成人の儀を終えたお前も一緒に巡ってはどうかと考えたのだが、振られてしまったという訳だ。」
「・・・・・父上が一緒に行かれたらどうですか?」
「私が・・・?」
自分がクオと共に行く事を考えもしなかったのか一瞬キョトンとしていた。
その後、考え込むように目を伏せた。
「それは~・・・・サイはこれでも皇国の仕事があるのだから、無理だろう?」
「・・・・・いや、いやいや!待て!今まで働き詰めだったのだ!私とて、もう一度そういう旅に出ても良いはずだ!息子は成人した!独り身なのだ!・・・・・・・ちょっと行って、休職の手続きを取ってくるゆえ、しばし待っておれ!いいな?クオ!!」
そう言うと、その場で魔狼の姿に戻り、風のように窓から出て行った。
どこからか、「玄関から出入りして下さい―!旦那様―!」という叫びが聞こえる。
そして、何かがぶつかったり、壊れたりする音が追って聞こえた。
色々何かを壊したらしい。
「「・・・・・」」
「・・・・だそうだが?お前はここで留守番するか?」
にやにやと、訳知り顔で聞いてくるクオ。
突然、旅に出ると皇国に許可を取りに行った父親が、旅に出たまま音沙汰が無く、いつ帰って来るのかと国からの催促とか応対を自分がしなくてはならなくなるのが簡単に予想出来る。
(そんなのは、御免だ。)
「・・・・・・・・・一緒に行きます。」
イズモは、深い深い溜息を吐いた。
体調を崩し、更新がままならなくなってきました。
申し訳ありませんが、少し間が空くかもしれません。




