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理不尽な!?  作者: kususato
110/148

110. ガクとイザーク (3)

110話目です。

 「胸がないのは、外から見てても一目瞭然だったわ・・・でも・・」

 「ガク、腰周りの肉付き加減を知っているのは、何故だ?」

 「何?もしかして、ガク・・・・・・ヴィーの腰周り・・・・触った?」


 「えっ?」


 俺、また、地雷踏みました?


***********************************



 「いや、待て待て、待ってください!!片腕に子供抱っこしただけです!王都中央で仕事を手伝だった時に、移動に時間を取られるのと魔獣との遭遇回数を減らそうとしただけです!他意はないです!」


 「子供抱っこ?私より背が大きくなったヴィーを?・・・・・まあ、あなたなら出来そうね。」

 「え?そんなに大きくなったの?!2年でそんなに?!」

 「ああ、そうか。少年だと思っていたのなら、邪な思いはないか、ふむ・・・・・・・・本当だな?嘘偽りはないな?いや、もしや俺の知らないうちに男色になったか?もしくは両刀?」


 三者三様の受け答え。

 一番疑っているのが、若さまという事実。

 というか、有らぬ性癖まで疑われている?!


 「若さま・・・・!」


 もう、顔を両手で覆って酷い!と走り去りたい思いに駆られてしまいます!

 絞り出す声も涙声です。


 「冗談だ。」


 しれっと、そんな事を!

 うおおおおお・・・・!俺の若さまが冗談を?!

 どこで覚えてきたんですか?!そんな質の悪い冗談!!

 北騎士団?北騎士団なのか?!



 「そうか・・・・あれが、14歳のリヴィオラだったのか・・・・」


 少し寂しげに呟かれる言葉に。

 ああそうか、若さまは可愛いリヴィオラを予想していたのか。

 リヴィオラ本人には申し訳ないが、これは”嫁候補”の事が白紙になって良かったのかもしれない。


 傍らでは、シェリルさんがシュンに”リヴィオラとマイカのウィステリア家の嫁候補の話はなくなった”と話している。


 俺と若さまは、そのまま暇乞いをして店を出て来た。

 北区に暫く滞在する為に、港にほど近い宿を目指して歩きながら俺たちは話しをしている。


 「2年間あの子に会おうとせず手紙も出さなかったのは・・・・俺は成長したリヴィオラに会うのが怖かったのかもしれん。」

 「怖かった・・・ですか?」

 「ああ、今まで俺を怖がりもせず、笑顔を向けて屈託なく話し、無防備に抱きついて来る存在などいなかった。ましてやそれが小さな女の子だ。」

 「・・・・」


 胸中を明かす若さまは、俺が今まで見たことがない表情で話す。

 自嘲されているのか憂いているのか、判断がつかない。

 若さまはリヴィオラの変化の、何を恐れていらっしゃったのか。


 

 「頭を撫でれば嬉しそうに笑い、抱き上げれば楽しそうに声をあげて笑う。怖れてなどいない、信頼されていると判る強張りのない幼子の体温と柔らかさが、ひどく心地良かった。」

 「・・・・」

 「そうやって俺を受け入れてくれたリヴィオラが成長して、その頃と違ってしまっているのを知るのが恐ろしかったんだな、俺は・・・情けない話しだ。」


 情けないのは俺の方です。

 若様が小さかったリヴィオラを大切に思っているのは、判る。

 判るのだが・・・・実の所、やはり何を恐れていたのか、また恐れていらっしゃるのかが俺には理解出来ないでいる。

 それが、ただただ申し訳ない。


 「そのような経験は俺には皆無なので・・・若さまの御心をお察し出来ずに、申し訳ありません。」

 「はっ?」

 「え?」

 「「・・・・」」


 そ、そんな、何で判らないんだ?みたいに睨まれても・・・。


 「お前・・・ここに来る前にリヴィオラを子供抱っこしたのだろう?」


 それが、何か関係あるのか?え?また。腰周りの肉付き加減の話しに戻った?!


 「え?しましたけど・・・・走って移動して、落とさないようにする方に意識が向いていましたので、情緒的な何かは感じませんでしたが?・・・・・・ああ、でもそういえば無意識に頭を撫でてました、俺。」


 「・・・・・嫌がらなかったのか?」

 「・・・・・喜んではいませんでしたが、甘受してくれてる感じがしましたね。しょうがないな、と。頭の形も良くて髪もサラサラで触り心地が良い・・・・・・・・今思えば、俺、初対面のあの子に何してるんでしょうね?」

 「・・・・・・・・・そうか・・・・ククククク・・・」

 「若さま?」


 「・・・いや、何でもない。次は、会いに行くことにする。」

 「リヴィオラにですか?ですが・・・」

 「それからどうするかを決める。」

 「若さま・・・」


 先程までの自嘲気味の雰囲気を払拭した若さまは、幾分すっきりとした表情になっていた。

 何がきっかけだ?どこでだ?

 判らん。



 「俺もあの子を抱っこしてくる。」

 「えっ?!」

 「俺もあの子の頭を撫でてくる。」

 「ええっ?!・・・・もしかしてヤキモチですか?」

 「・・・・・さあな。」

 「会って話して、抱っこして、頭を撫でて・・・・・今の若さまのそれが、ヤキモチかどうかを決めるんですね?」

 「・・・・・・・ああ。」

 「今はまだ、女の子じゃないって話しですけど?」

 「構わないし、関係ない。・・・・というか、14歳の女の子に会って話すのと頭を撫でるのは大丈夫でも、抱っこはギリギリではないか?」

 「そうですね、人によってはダメかもしれません。だから、女性になる前にしちゃうつもりなんですね?」

 「そうだ。」

 

 若さま、そこはかとなく変態くさいですね・・・・・とは、どうしても言えなかった。



******************



 「イザーク達帰っちゃったな?・・・・あれ?結局、今のヴィーにこ、ごほんっ・・・付き合っている人がいるかどうか聞きに来ただけ?」

 

 帰り際の心ここにあらずな(てい)で店を出て行く様子を思い出しつつ、シュンがボソっと呟いた。

 茶器を片付けながら、それにシェリルは応えずにいる。


 「・・・・・」

 「シェリル?」


 「・・・・ねえ?シュン、イザークからヴィーを”ウィステリア家の嫁候補”したいって話しがあった時、私が受けましょうってあなたを説得した理由を覚えてる?」

 「理由・・・?ああ、うん。」

 「初めてあの2人を並べて見た時は、体格の差がありすぎて、あらやだ魔王に(かどわ)かされた幼女みたいって正直思ったわ。」

 何気に酷い。


 「シェ、シェリル・・・」

 「イザークの顔を見たってそれほど変化はなかったわ、ただ怖いだけで。」

 「シェリル~・・・」

 「でもね、ヴィーを扱う手が、仕草が・・・・力加減に細心の注意を払ってるのが、丸わかりで笑えたの。」

 「ああ、うん。そうだったね。」


 初対面で、おっかなびっくりヴィーに接していたイザークの当時の様子を思い出し、微笑ましげに笑い合う。

 体格の良い強面の青年が、体の小さなリヴィオラに振り回されるのを見るのは面白かった。

 すぐに力加減を覚えたのか、触れていいものか戸惑うイザークは半日ほどしか見れなかったが。

 触れることに躊躇しなくなったイザークには余裕も生まれ、ヴィーを俵担ぎにして笑わせていた。



 「頭を撫でれば嬉しそうにして、抱き上げれば楽しそうに笑う、無条件に懐いてくる。小さくて可愛くて柔らかくて暖かいそんな生き物がいる事を実感したのが、イザークにとってヴィーが最初だったじゃないかしら。」


 「生き物・・って・・」

 シェリルの言葉の選択に、呆れながらも不満の声を出す。


 「ごめんなさいね、言葉が悪かったかしら?でも、それは私たちのヴィーという子供でなくても良かったと思うのよ?居れば、イザークの妹でも、親戚の子でも、それこそ他の動物でも・・・・そういう存在が彼にはいなかった。・・・・ご家族からの愛情が足らないって言っている訳じゃないの。」


 「家族以外の存在に認められたかった?」


 「う~ん・・・・友人として、生徒として、騎士として、家族以外にも認められていたけど・・・そういうのじゃなくて。全く関わりない者にそのままの自分を受け入れもらうって、イザークには難しいことだったんじゃないかと思うわ。そして彼自身が、守りたい慈しみたいと感じられる存在に出会うことも。」


 「だから”嫁候補”?」

 「そう、本当にお嫁さんにするとかじゃなくて、そういう存在になったヴィーとの繋がりを絶ちたくないと思っているのが判ったし、拠り所しても良いんじゃないかなと思ったから、了承したの。ヴィーが成人するまで時間が結構あるし、その間に別に大切な存在が見つかるならそれでもいいなと思ってもいたから。」


 「・・・・でも、実際は見つからなかった?」

 「さあ?それは判らないわ。2年間成長していくヴィーの事を知ろうと積極的に行動しなかった事を考えると、まだかもしれない。でももう、今のヴィーの状態を知ってしまった、嫁候補の話も白紙になった事で、どう動くのかしらね?」 


 ロイナス、イザヨイ、イザークの3人の中で、イザークをシェリルは1番心配していたようだ。


 ロイナスは見目が良いし、感情も割とストレートなので、嫌われはしない。

 言わなくても良い事をつるっと言ってしまうのもご愛嬌だろう。

 イザヨイは見目は良い上に、結構策士で腹黒い面が見え隠れするが、世渡りはうまそう。けれども素の自分を中々出さない。

 こちらもこちらで心配ではあったが、見た目に反して結構素直なイザークを気にかけていた。

 無理をしている事に気づくのを環境が許さず、自分自身も気がついていないように感じられてならなかったからだ。



 「・・・・でも、実際は全部、推測でしかないんだろう?もう、いいじゃんか。あいつらだって、もう大人だろう?」

 「ふふふふふふ・・・、取られそうで怖い?」

 「・・・・・」

 「そうね、シュンの言う通り、全部推測だわ。本当の結果がわかるのはいつかしら?もしかしたら、検討はずれで結果なんか判らずじまいかも。」


 元は自分の教え子とはいえ、奥さんが他の男を心配しすぎるのは面白くないのだろう、更にそれに自分の子供も関わっているのも気に入らないらしい。

 シュンは少し拗ね気味だ。

  

 「ヴィーの変化の方が先かもよ?男性に変化して、ヴィーの方がお嫁さん連れてきたりして!」


 「ええっ?!俺は、出来ればヴィーには女性になって欲しい!それで、ヴィーを欲しいって男が挨拶に来ら”許さーん!”ってちゃぶ台返しするんだ!!それにまだ”父様と結婚するー”って言ってもらってない!」

 「あらあらあら・・・・”チャブダイガエシ”って何かしら?まだそれに拘ってるの?諦めれば?」


 呆れたように諭すが、聞かないのは判っている。

 夫の変な拘わりを諦めない、子供っぽい態度も可愛いと思うシェリルだった。


 「絶対、諦めない―――――――っ!!」

 「はいはい」

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