102. 冬季休暇 (17)
102話目です。
「何が恥ずかしいって、歯医者さんに行って歯科医の医師がものすっごい良い男で、その人の前で大口開けて情けない醜態を晒さなきゃないくらい恥ずかしいの!!」
「何言ってるか判らないわ~・・・ハイシャって何?」
この世界に歯医者とか眼医者とか外科医などの、専門医はいないことをうっかり失念していたヴィーはシェリルに判らない単語を使ってしまい、焦った。
マイクはものすっごい”良い男”を、”良い女”に変換して想像してみる。
確かに恥ずかしいが、恥ずかしい種類が違う気がした。
それに歯医者さんって、男性も女性も常に半分以上マスクで覆われてる顔しか見ない確率高いじゃんと。
「う!じゃ、じゃあ!お尻の病気になって、その病気を診て治療してくれるのがものすっごい良い男で、その人の前でお尻を出して、しかもじっくり見られるくらい恥ずかしい!では?!」
「あら・・・それは、恥ずかしいわねぇ・・・」
マイクは再びものすっごい”良い男”を”良い女”に変換して想像してみる。
(恥ずかしい!ものすっごく恥ずかしい!!想像だけで悶絶しそうに恥ずかしい!)
医療関係なんだから、やっぱりマスクで・・・と考えたが、話がマスクでこもっちゃって聞き取れないと意味ないと、話す時だけ外したりずらしたりする人がいたことを思い出した。
「わ、解ってくれた?!だから!私も身内の母様が相手だから半端なく恥ずかしい事でも何とか我慢出来るけど、それを医療関係じゃない、他の人に話されるのは許容出来ないよ!!」
「・・・・・・そうね、判ったわ。聞かれても医療関係者以外には話さない。」
「平にお願い致します・・・・!」
どれだけ自分が恥ずかしい思いをしたのか判って貰おうと、訳のわからない奮闘をしたヴィーだが一応の理解を得られて安心した。
そして、多少冷静になって家を見渡してみれば、人が増えている。
今だに呆然とヴィーを見ているヒイロとヨシュアだ。
今の話きかれちゃったかなぁとか思いつつも、2年前と違って大きくなった双子の弟たちを見て、嬉しそうに声をかけた。
「久しぶり。ヒロ!ヨシュ!大きくなったね!」
「「・・・・・・」」
目の前に来ても、ぼーっとこちらを見ているだけの2人で手を振って、もう一度呼びかけた。
「ヒロ?ヨシュ?」
返事がない。
ただの屍のよう・・・・ごほんごほん。
「・・・・・あれ?」
反応が返ってこないことに、困惑しながらシェリルとマイクに「どうしたらいい?」と視線を向ける。
その様子を暫く見ていたマイクは、待てと手でヴィーに合図し双子の方を見てふんっと、鼻を鳴らしてシェリルの方に向き直る。
「シェリル、申請書に添付する書類は書き終えたの?」
「え?ええ。」
「じゃあ、それヴィーに渡してくれ。俺たち、もう行くからさ。」
「ええ?泊まって行かないの?」
「悪いんだけどさ、俺がそんなにのんびりもしてられないんだ、仕事もあるしね。それと、あれにも説明しといてよね?」
あれと指差すのは、今だにこちらの世界に戻って来ない双子。
そして、小声で付け足す。
「何がショックだったのかは、察しはつくけど。あとで説教しといて?」
「判ったわ。あらあらあら・・・・あの子たちも考えが浅いわね~・・・・お姉ちゃんが小さいままでいる訳ないじゃない。自分たちだって大きくなったのに。」
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2年ぶりに会ったのに、会話も出来なかった弟たちの様子を思い浮かべて小さい溜息を吐く。
あんなふうに固まったままになるほどショックを受けなくてもいいじゃないか・・・。
確かにかなり容貌は変わったと、自覚はしているけれど。
今更どうしようもないじゃん。
髪は伸ばせるけど、背は縮めることは出来ないし。
というか、顔自体はそんなに変わってないと思うんだけどなぁ。
「ねぇ、マイク兄、私は2年前に比べてそんなに変わったかな?」
「そうだなぁ・・・前のヴィーを知ってる奴からしてみればな。俺は、変化していく過程をたまに見てたからそれほどじゃないし、シェリルは成長を見越してたから子供の変化は嬉しいことなんだろうな。でも双子にとってみれば思っても見ないことで、劇的だったんじゃないか?」
「そっか・・・・・・・」
嫌ったりはしないとは思うけど、距離は開いちゃう気がする。
自分の努力ではどうにもならない事で、弟たちと疎遠になっていくのは理不尽な気がするけど、それなりの付き合いになっていくんだろうなぁ・・・ちょっと寂しいけど。
「ヴィー、あいつらに時間をやれよ。」
「え?時間?」
「そ、受け入れて、飲み込む時間。あいつらまだまだ子供なんだよ、ヴィーも子供だけどな。」
「・・・・・マイク兄は、大人?」
「それを言われちゃうと些か、耳が痛い気がしないでもないでもない。」
「どっち?」
「鋭意努力中・・・・かな?」
「・・・時間かぁ・・・うん。」
「そうそう、この後更に、双子ちゃんは衝撃の事実を知ることになるんだから。」
「衝撃の事実・・・・?」
マイク兄に呆れた顔をされた。
「今回、何でシェリルママに会いに来たのかもう忘れちゃったのか~?あんなに大騒ぎしたくせに。」
「おお!そうだった!・・・・・大丈夫かな?」
「うん、だからさ、それも含めてあいつらに時間をやれって言ってんの。なるようにしかならないんだからさ。」
「・・・・・・・・・そだね。マイク兄たちは?」
「何?」
「何とも思わないの?その、気持ち悪い・・・・とか?」
今更ながらに自分が中性であることを、マイク兄がどう思っているかが気になった。
情けなくなっている気がして、そっちには顔を向けられない。
「思わないね。」
「即答だね。」
「即答するよ。」
「・・・・何で?」
「男でも女でも、中性のままでも、ヴィーはヴィーだから、かな?」
「・・・・・・・・・・・・・うん、ありがと・・・・」
「あ、でも!さっきも言ったけどね?出来れば、髭面な胸毛なすね毛ありんこなヴィーは見たくないんだよ~!」
「・・・・・・・・善処します。」
「なんて、日本人的なお答え・・・!」
「ふふふふふふ・・・・」
ああ、受け入れてくれる人がいるって、有難いなぁ。
条件付きだけど。
でも、きっと私が最終的に男になることを選択しても、マイク兄とマイカ姉は受け入れてくれるんだろうなぁ・・・・・ふふふふ。
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久方ぶりに顔を見せた娘(予定)が心配そうに視線を送りながらも、マイクに連れられて出て行った。
その扉を暫く見つめたあと、すたすたと今だに棒立ちしている息子たちに近づき、スナップが効いた平手で後頭部を叩き、スパーン!スパーン!といい音を響かせた。
「「痛っ!」」
頭を叩かれた2人は、後頭部をさすりながら叩いた本人の方を見た。
「寝ていた頭起きたかしら?ヒロ?ヨシュ?」
「「母様・・・あれ?」」
キョロキョロと家の中を見渡してみても、目当ての人も先ほど睨み合っていた奴もいない。
もしかして、今のは白昼夢?!と現実逃避しかけた時、母シェリルから不穏な気配が漂う。
「「!!」」
ゆっくりと歩いて、椅子に座り足を組んで、テーブルに両肘を着いて2人を見やる。
双子は青ざめて、びくっとした。
「あなたたちは何かしら?2年ぶりに家に帰ってきた姉様にご挨拶も出来ないのね?無視するなんて・・・そんな子に育てた覚えはなかったんだけど・・・・躾のし直しが必要かしらねぇ・・・?」
「ご、ごめんなさい!姉様の髪が短くなっててビックリしちゃって!」
「ご、ごめんなさい!姉様の背がいっぱい伸びててビックリしちゃって!」
そんなつもりはなかったとしても事実姉を無視した形になり、母シェリルの機嫌が相当悪いこともあって、ヒイロとヨシュアは怯えながらも訳を話す。
まずはごめんなさい、そして理由を話さないと問答無用で凶悪鍛錬が課せられる。
「背丈だったら、あなたたちも伸びたでしょ?姉様だって、伸びてたって不思議じゃないわよ?髪が短かったのは、ヴィーのことだからきっと単純な理由よ、王都中央がここより暑かったとかね。」
その通り、ピンポーン大正解。
「「でも、黒髪がサラサラの円な瞳の小さな・・・可愛い僕らの姉様だったのに・・・・・・あんなに・・」」
「あんなに?」
「「あんなに凛々しくなっちゃって!」」
「僕、前より大きくなったから姉様を抱っこ出来ると思ったのに!」
「僕、前より強くなったから姉様を守れるようになったと思ったのに!」
「「あんなに凛々しくなっちゃって!」」
「抱っこなんて出来ない!」
「何か大人っぽかったし!」
「「また、置いていかれるって思ったんだ!!」」
「・・・・・それがショックだったの?」
「「・・・・・うん・・」」
「そうだったの・・・・判ったわ。でも、男の子の方が成長遅いけど、女の子よりは期間が長めよ?そのうち追いつけるわ。」
「「・・・ホント?」」
「ええ。」
まだ、ヴィーに追いつける望みがあるんだと安心したのか、嬉しそうに笑った。
そんな2人を微笑ましそうに見ていたシェリルは、更に笑みを深めて言う。
「そんな2人に、お知らせがあるわ。」
「「え?何?」」」
「ヴィーは、姉様じゃないの。」




