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理不尽な!?  作者: kususato
101/148

101. 冬季休暇 (16)

101話目です。

 ヴィーにはトラウマがある。


 幼い頃、筋肉ムキムキの硬いヒゲを生やしていた祖父に頬ずりをされた時、幼児の柔らかいほっぺは耐えられなかった。

 酷いみみず腫れと数箇所の裂傷、そこからばい菌が入り幼いヴィーの頬が何倍にも膨れ上がる。

 そしてとても痛かった。


 命に別状はないものの、痛さと何倍にも膨れ上がった自分の顔。

 かなりのショックを受け、大好きだった祖父が一気に大嫌いになった。

 髭をたくわえている人が怖くて怖くて堪らなくなった。

 双子の弟たちには不細工だと笑われ、周りの遊び友達だった子にも笑われた。

 硬いヒゲは柔らかい頬には凶器だったのだ。

 しかも、あまり清潔ではなかったのだ。



 自分の可愛い孫をそんな状態にしてしまった祖父は、猛省した。

 今まで、無邪気な笑顔で相対してくれていた孫に怖がられ、嫌われてしまったことも祖父には大打撃だった。

 それから、祖父は髭をたくわえたりしていない。

 清潔第一。

 毎朝、毎晩必ず髭を剃る。

 ヴィーに会う前は必ず剃るようにした。

 そして、幼い孫に精神誠意謝り倒した。


 「じじが悪かった。可愛い儂のヴィーに怪我させたじじの髭は駆逐してやったぞ?何度生えてきても、ヴィーには髭が生えたままでは絶対会わんと誓うから!じじを許してくれ!じじを嫌わんでくれ。」

 

 自分よりも何倍も大きくて、何倍も多く生きてきて、何十倍も何百倍も強い祖父が地面に手を着いて懸命に謝っている姿に、最初は怖がっていたヴィーも、最後にはちょこちょこ近寄って祖父の頭をなでなでした。

 その時祖父はブルブル震え、ヴィーの小さな手に頭を撫でられながら声を出さずにそっと体を囲い込んだ。

 「ごめんね、ジジ様。ヴィーはおヒゲは大ッ嫌いだけど、ジジ様は大好きだよ?」


 ヴィーの祖父であるゼル・ミルドーラは、今現在も髭を剃り続けている。


*********************** 


 しかし、ヴィーのトラウマは完全に払拭されたわけではない。

 体も精神も成長して、硬そうな髭を見ただけではどうという事はなくなったが、自分にその髭が生えることになると全然大丈夫ではない。


 「ソウカ、オトコニナルトヒゲガハエル・・・・ヨウニナルノカ」

 ヴィーの目が開きっぱなしで言葉が片言だ。

 「フフ・・・・フフフフフフ・・・」

 今度は笑いだした。

 「ヴィー?大丈夫?」

 多分大丈夫じゃない。


 ぐるりとシェリルの方に顔を向けた。

 笑っているが、笑っていない笑顔で言った。


 「母様、私はこのまま女にも男にもならないままでいようと思う。だって結婚なんかしないんだから。それで十分生きていけるようにとロガリア学院で学んでるから。孫とかは、ヨシュアとヒイロに任せて大丈夫!心配ない!ね?!」


 シェリルはヴィーを抱きしめて言った。

 「ダメ。」

 「!!」

 

 「そんな逃げた考えで決めるのはダメ。ちゃんと考えて、選択して。折角、自分の性別を選べるのよ?後ろ向きに決めたりしないで。成人を境に変化するんでしょ?まだ2年以上あるわよ?焦ることはないの。今決める必要はないわ。これからじっくり・・・・・・思う存分、悩みなさい。」


 「・・・・・・」


 思わぬ問題が持ち上がって気持ちが恐慌状態だったヴィーは、抱きしめられて母の言葉を聞くうちに落ち着いていった。

 (そうだった。まだ2年以上余裕があるんだった。焦ることはなかったんだっけ。自分でもそう思っていたのに・・・・)

 

 「うん、母様・・・・ありがとう。」

 「ごめん、ヴィー、俺・・・」

 「マイク兄、思い出させてくれてありがと。もっと色々含めて考えなくちゃならないことだって、改めて判ったから・・・・謝んないでよ。」


 言ってしまってから、やっぱり髭によるヴィーのトラウマが完全に払拭されていた訳ではないんだと気づいたマイクは、謝ることも断られてしまい、がっくりと肩を落とした。が、

 

 (ごめんな、ヴィー。でも、俺もマイカもほんとーに筋肉ムキムキ!すね毛でありんこ、顔に髭が生えるヴィーは見たくない・・・・!せめて、せめて!シュンくらいなら・・・いや!それも嫌だ!こんな俺たちを許して!!出来れば!そのままのヴィーでいて欲しいんだよ~!)

 

 とか思っていた。

 落ち着いてきたヴィーは現実問題に思考を切り替えて、母に頼み事をした。


 「ところで、学院に変更申請に添付するから親からの手紙書いてくれる?他の医療関係の人の書類もいるかな?」

 「ええ、すぐ書くわね。他の医療関係ね・・・なくてもいいけど。でも、診てくれる人は見つけておいたほうがいいわよ?」

 「それなら、王都中央に付き合いのある治癒術の医師がいるよ?・・・・そう言えばさ、前にその医師(せんせい)に男の色気というかフェロモンみたいな物が出ている時があるんだよって言われたことがあったな。」


 (いくら何でもそんな事はないと思ったんだけど、今にして思うとなぁ・・・)


 『そうそう、命掛けの仕事とか、辛うじて生命の危機とかを乗り越えたりして、そういう気配を醸し出している冒険者が時々いるんだが・・・そんな感じがするんだ。』


 (うんうん、そんな事も言っていたけど、これは言うと何かヤブヘビになりそうな予感がするから言わないでおこう!) 


 


 「あら?治癒術師とはいえ、他人に判るような感じなら、もうすでに男性よりに体が成ってきているってことなのかしら?実の所、あまり詳しくは知らないのよね~そこら辺。」


 「えっ?!」

 シェリルの言葉にぎょっとするマイク。

 「どうかな?話の最後には、「冗談だよ」って言われたけどね?はははっ。」

 ヴィーの言葉にほ~っとする。

 が、シェリルは違った。


 「・・・・確認が必要ね。」

 「「えっ?!」」

 「現状を確認するわ、その後で書類をかくわ。」

 「「えっ?!」」


 「さ、いらっしゃい?ヴィー?母様に、見・せ・て?」

 「「!!」」

 

 無駄に艶やかな笑顔を見せつつ、素早くがしっ!とヴィーの襟首を持ちズルズルと奥の部屋へと引きずっていく。

 「いや!あの!か、母様!見せるって?!何を?!ねぇ!母様!!」


 すごい、動きに無駄がない上に容赦も隙もない。

 抵抗している人間を片手で引きずって行くって、結構力もいるし大変なのになどと微妙にズレたことを考えながら2人を見送った。

 ここでシェリルに逆らっても良くない事は長い付き合いのため、十分判っているマイクだった。

 (何を見る(・・)のかは、考えちゃダメ!考えるなマイク!スルー!スルー!スルーだ!)


 「・・・・・・・」


 奥の部屋に入って、そちらからは物音一つ聞こえてこない。

 もしや、遮音結界とか張っちゃってる?

 そんな事されると、逆に想像力が掻き立てられちゃうじゃないか!と内心ドキドキをムネムネさせていた。




 家の中が静かなので、外からの音が妙に聞こえてくる。

 ザクザクザクザクザクザクザクザクッッ!!!

 どうも、雪の上を複数で走って来ているようだ。


 バンッッ!! 

 「「ただいま!!ヴィーが帰って来てるって本当?!」」

 家の扉を乱暴に開け放って走り込んで来たのは、頬が赤く肩で息をしている2人の男の子。

 双子のヨシュアとヒイロだった。



***********************


 「「・・・・・・・」」

 「・・・・・・・」


 無言で、向き合う2人と1人。

 マイクは、テーブルに頬杖を突きつつ半目で2人を見ている。

 ヨシュアとヒイロは、扉を開け放ったままマイクを睨みつけている。


 「「・・・・・・・」」

 「・・・・・・・」

 

 3人の周りには寒々しい空気が漂っている。


 実際、寒風が家の中に吹き込んでいる。

 このままでは、折角暖炉で暖まった家の空気が冷たくなってしまって、めちゃくちゃ寒いことになるのは必至なのに3人は動かない。

 


 「扉は締めたほうがいいんじゃないのか?シェリルに叱られるぞ?」

 マイクが呟く。


 はっとして、ヨシュアとヒイロが慌てて扉を閉めた。

 そして再び、2人はマイクを睨む。


 「何で、マイクがここにいるのさ?ヴィーはどこだよ?」

 「俺がここにいるのは、ヴィーと2人でここに来たから。ヴィーはシェリルと奥の部屋にいる。」


 すぐさま、奥の部屋に行こうとする2人に声をかける。

 「おいおいおい、今部屋に入ったら、シェリルにもヴィーにも怒られるし、俺もお前らをぶっ飛ばすぞ?」

 「「はぁっ?!ヴィーが僕らを?」」

 まるでそんな事あるわけがないとでもいうように、2人揃って返した。


 「今回は、絶対に怒る!もしくは、お前らと口を利かなくなるかもな。とにかく今は、行っちゃだめなんだよ。」


 どうやらマイクの言う事には従いたくない様子だが、強行するのも躊躇(ためら)っていた。


 キィ・・・と奥から扉の空く音がした。

 瞬時にマイクと双子の意識がそちらに行く。


 紙を持ったシェリルが出てきた。

 その後ろから、俯いたまま疲れきった様子のヴィーがふらふらしながら出て来て、よろよろしながらも出て来た部屋の扉をパタンと閉めた。

 ここら辺にシェリルの躾の片鱗が垣間見える。


 「え?あれがヴィー・・・?なんか、背が、僕らより大きい・・・」

 「か、髪、髪、何で短いの・・・!?」


 自分たちの姉の変わりように驚愕し、呆然とする双子を尻目にマイクは、奥の部屋にいた時間に何が合ったのか憔悴した様子のヴィーを心配して声をかけながら近寄った。

 

 「ヴィー?どうしたんだ?大丈夫か?」

 マイクの声にプルプル震えながらも顔を上げたヴィーは、涙目で真っ赤な顔をしていた。

 その様子にぎょっとなる。


 「えっ?!な!!ちょっと?シェリル!ヴィーに何したの?!」

 「え~?さっき言ったでしょ?ヴィーの今の状態を確認したのよ。」

 「どんな確認の仕方したんだよ?!」


 「ええ~?下を全部脱がして、仰向けにさせて、赤ちゃんのオシメを変えるみたいにし・・」

 「ぎゃおおおおおお!!母様やめて―――――――っ!!」

 「だって、マイクが確認の方法を聞くから~」

 「聞いたからってそのまま言うな―――――――っ!!」

 「変に隠す方が気になるでしょ?他にどう言えばいいのよ~?」

 「あ、あとで、こっそりと・・・」

 「マイク兄も何言うの―――――――っ?!」

 

 ヴィーとマイクは、現状確認の方法をつるっと赤裸々に説明しようとしたシェリルに猛抗議をし始めたが、意に介さないシェリルには馬耳東風のようだ。



 「僕らの小さい姉様のヴィーが、大きくなっちゃった・・・・」

 「僕らの黒髪サラサラのつぶらな瞳の小さい姉様が、男みたいになっちゃった・・・」



 双子の弟たちのヨシュアとヒイロは、別のショックからまだ抜け出せず、先ほどのシェリルの言葉は耳に入っていなかった。

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