1. ロベルト(1)
初めての投稿です。
色々、拙いですが、
ちょっとでも、楽しめる方がいると嬉しいです。
僕にとって、女は不可解な上に、少し不快な生き物だ。
今日の客であるジオセット男爵夫妻と僕の両親であるフィルド侯爵夫妻が仕事の話があるとかで、午後のお茶の時間まで、娘の令嬢のエスコートを僕が命じられた。
我がフィルド家には、もう1人ロイナスという僕の兄にあたる息子がいる。このジオセット男爵令嬢は、兄に会えることを楽しみに付いてきたらしい。
だが、今日はまだ、通っている学院から帰ってきていない。
なので、エスコート役が僕に回ってきたというわけだ。
男爵令嬢の名前は、エリエンヌ。
金髪に青い瞳の生意気そうな顔した令嬢だ。
先程から、自分の自慢とロイナス兄上に関することをベラベラ喋っている。
面倒なので話しの内容は、右から左へ・・・だ。
我がフィルド家の庭師が丹精込めて作り上げ、日々美しさを損なわないように世話をしている、母上のお気に入りの庭を案内し終わり、さて、次は何をすれば良いかなと考えていたときだった。
「ご注文のお薬をお届けにあがりました。」
「ああ、ご苦労さ」
「礼を取りなさいな!私とロベルト様は、貴族なのよ。礼儀を知らない子ね。」
は?急になんだ?不可解な。
ちょっと考え事をしている隙に、何をやっている!
初対面の、それも親の手伝いであろう、薬を届けに来ただけの子に、出会い頭に何故そんなに高圧的な態度に出てる?
見たところその子がお前に何かしたようには見えないし、ここは、お前の住まう領地でもなければ、お前の屋敷でもない。
更に付け加えれば、お前だって、僕の屋敷に用事で来た、両親に付いてきただけのおまけだろう、エリエンヌ。
ところで、この屋敷の人間である、僕の言葉を途中で遮ったのは礼を欠く行為ではないのか?
それを先に謝れよ。
というか、お前の方が礼儀を知らないのではないか?エリエンヌ。
「あのっ」
「黙りなさい!貴族の前では、平民は許可なく話してはならないのよ!そんなことをしたら、罰として家族全員、死刑になっても文句は言えないの!」
何?いつ出来た?!
そんな決まり。僕は知らないぞ。
ああ、もう!この子だって急にそんなこと言われたって対応できないだろう。
「本当なんだから!この前、家庭教師の先生に教えていただいたのよ!」
え?家庭教師?じゃあ、本当なのか?それ。
僕の父上も母上もそんな事は仰ってなかったが。
でも、本気か?その法律?
貴族の許可なく話したら、平民は家族全員死刑って。
理不尽な上に、不便な気がするが・・・。
それに、平民の友達と話したり、遊べなくなってしまうではないか。
つまんないじゃないか、そんなの。
もしかして、その土地土地の特有の法律か?
確か、条例というのだったか・・・?
だったら、ここでは、適用されないんじゃないか?
後で、エリエンヌの父親のジオセット男爵に、お茶の時間にでも聞いてみよう。
それにしても、どうしたら良いかわからず、オロオロして困った様子のあの子をニヤニヤして見ている様は、実に不快だ。
何が楽しいんだ?意地が悪いな。
これだから、女は・・・特にこのエリエンヌは好きになれない。
未来永劫、友達にもしたくないな。
そんな事をつらつら考えていて、ふと見ると、その子は、背筋を伸ばすと、薬入りのバスケットを片手に持ちながらも、静かに淑女の礼を取ってみせた。
そしてその後、黙ったまま通り過ぎて行った。
平民の子が、優雅に淑女の礼をとってみせた。
その事に、びっくりして僕たちはしばらく声が出なかった。
後から考えてみたら、屋敷内の人間に会ったのに挨拶もしないで素通りはできない。
かといって、貴族から(着ている物で、すぐ解ったんだろう)許可無く話すなと、守らなければ家族全員死刑になる言われている。
エリエンヌは、話す許可を出す様子はない。
そんな状況で、あの子の取った行動は、最善のものだったことに気がついた。
(平民であろうあの子は、どこで身につけたんだろう?)
そして、更に、僕が否定しなかったことで、この領地でそんな法律があるように認識させてしまったことに気がついた。
どうしよう。
何か、嫌な予感がする。