表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/28

危険な2人

「あっははは! ゴメンね西樹君、あなたに罪被せようとして! 死神って言われてるあなたならいけるかなぁ、と思って!」

 驚くべき豹変ぶりを見せた由紀恵。隣では官斗がゲラゲラ笑っている。

 2人はまず、悠真達を中央に集めた。陽介も恵理と楓に運ばせた。陽介は大分弱っていた。

 思えば犯人を特定する手がかりはいくらでもあった。

 紀夫の後を追ったのは官斗だ。紀夫を殺したあと、自分にも傷をつけたのだろう。

 賢治を殺した後死神が逃げる姿が見られていないのも当然だ。由紀恵が賢治を殺し、驚いて中から出てくる演技をしたのだ。安藤が見たのはその瞬間だったのだ。その隙に、官斗は由紀恵を追うふりをしてオーナーハウスに向かい、2人を殺してから由紀恵と合流した。

 全ての説明がつく。何と残酷な者達だろう。

「ねぇ官斗、どれからやる?」

「う〜ん、じゃあ、先輩からやっちゃう? 最後は2人まとめて、ズッタズタに切り裂いてやる」

 2人の鎌が光り、持っていた腕と合体した。

 非現実的な事態を目の当たりにしても、誰も驚かなかった。やはり恵里には、墓守の仕事がバレているのか。いや、そんな事を気にしている場合ではない。2人は今にも襲いかかってきそうだ。

 恵里が悠真の手を握った。強く、強く。恐怖からかもしれないが、彼等2人を倒してほしいと願っているようだった。

 そうだ、安藤はどこにいるのだ。あちこち見回したが、どこにも姿は見当たらない。

「何キョロキョロしてやがる!」

「ぐっ」

「西樹君!」

 官斗が恐ろしいスピードで近づき、悠真の肩を切りつけた。

 それを見て、由紀恵が楽しそうに笑った。

「やっぱり最高だよね、ハンティング」

「ホントホント。いやぁ、あの人の言うこと聞いて良かったわ」

「私達ね、生き物を捕まえて殺すのがだーい好きなの」

「最初は猫とか虫だけだったけど、少しずつレベル上げて、こうなる前にはもう3人はやったからね」

 段階的に殺人犯が成長してゆくのは本当だったか。

 官斗は自慢げに人数を発表した。こうなる前、というのは、多分暴霊になる前の事だろう。生きているうちに捕まっていれば、今悠真達がこんな目に逢うことも無かったのに。メンバーやオーナーが死ぬことも無かったのに。

「お前らで10人突破なんだわ。だからさ、死んでくれよ? ちゃんと埋めてやるからさ」

「ふざけないで。キャンプに来たのもこれが目的?」

 楓が噛みついた。可愛らしい服装とは裏腹に、かなり気の強い女子だ。

「そうよ?」

「キャンプ場って言うからもっと居るのかと思ったけど、全然居なかったな。人気無いんじゃね? ココ」

「ねぇ、早くやろうよ」

 由紀恵がせかす。ここまでくるともはや病気だ。しかも治ることはない、末期の病。

 ニヤリと笑い、2人がゆっくり近づく。狙いは楓だ。噛みついたことで2人を挑発してしまった。

 鎌を振りかぶり、楓の首を狩ろうとする。だがそのとき、どこからか短剣が飛んできて2人にあたった。

「いっ! 誰だぁ!」

「邪魔すんじゃねぇ!」

「おいおい、そんな汚い言葉を使うんじゃないよ」

 木陰から、赤く輝く刀を持った安藤が姿を現した。

 悠真はニヤリと笑みを浮かべ、素早く立ち上がった。同時に彼も刀を取り出した。

 その姿を見て、恵里は目を見開いた。そのあと、ニコッと笑みを浮かべた。

「奥へ逃げろ」

「わ、判った」

 恵里は楓とともにハウスの後ろへ逃げた。官斗が後を追おうとしたので、悠真が鎌で行く手を遮った。

「お前等の浄霊が先だよ、屑ども」

「はぁ?」

「ふざけたこと抜かしてんじゃねぇ! ああああっ!」

 官斗と由紀恵の身体を青白い炎が包み、蟷螂のような姿に変えた。官斗は緑、由紀恵は茶色だ。片腕だけ鎌になっていて、コートを着ている。

「ぶっ殺してやる!」

「さぁて、やるか青年」

「はい」

 悠真と安藤も炎を纏い、墓守の力を開放した。

 まずは本家死神、0が官斗を切りつける。何体もの暴霊を浄霊してきたその技は官斗にかなりのダメージを与えた。

 続いて日本刀を振り回して、アサシンこと安藤が由紀恵に攻撃する。由紀恵も負けじと攻撃を仕掛けてくるが、アサシンが操るトラップによって攻撃を邪魔されている。

 因みに、0は安藤が姿を変えたことに気づいていない。それ程仕事に熱中しているのだ。

「てめぇらぁ!」

「死ねぇっ!」

 2人が同時に迫って来る。0は刀を瞬時に青く輝く拳銃に変化させ、2体の暴霊に向けて銃弾を連射した。相手がバランスを崩した隙に、0が銃を斧へ変え、アサシンが刀を構えた。

「やっ、止めて!」

「殺さないで!」

「君達が殺してきた者達も同じ気持ちだったんだよ」

「今更気づいても遅いんだよ!」

 2つの刃が、暴霊の首めがけて飛んでいった。2体は悲鳴をあげる間もなく首を切り離され、燃え上がってしまった。

 浄霊は済んだ。悠真と安藤はハイタッチした。安藤は悠真の手伝いが出来て嬉しそうだし、悠真は安藤と共に仕事をする事が出来て満足している様子だった。

 ハウスの陰から恵里と楓が出てきた。

 姿はまだ0のままで、悠真は少し恥ずかしそうにした。恵里は変貌した彼等を嫌がる気はなく、ニコニコして悠真の手を握った。

「また、助けてもらっちゃったね」

「そうだね」

「いやあ、そうか! 青年もとうとう……」

「黙っててください!」

 しばらくの間、皆は笑いあっていた。

 これで事件は終わった……筈だった。

 笑っていた恵里の顔が恐怖の色に染まった。

「あぶない!」

「え? うっ!」

 間一髪、斧で攻撃を回避出来た。攻撃してきたのは死んだ筈の陽介だった。彼の両腕は鎌になっている。

「先輩!」

「どうして?」

「た、助けて」

 震える声で陽介が言う。彼は元から暴霊だったのではない、何者かの手により、無理やり攻撃させられているのだ。

「助けて、僕を、僕を止めてくれえぇっ!」

 陽介の身体も炎に包まれ、髭を生やした蟷螂の暴霊に変身させた。

 黄色い暴霊に変化すると、陽介は気味の悪い鳴き声をあげてその場にいる全員を威嚇した。

「そんな、先輩!」

「ハウスに行くわよ! 早く!」

 ここからは辛い戦いになる。今まで皆を纏めていた頼もしい仲間を斬らねばならない。それを察して楓が恵里をログハウスに連れて行った。

 陽介は苦しそうな声を上げて鎌を振り回している。

 彼を止めなければ。そのとき、向こうから男が歩いてきた。そう、暴霊を山に連れてきた降霊術師だ。

「どうだ? 生で降霊術を見た感想は」

「野郎!」

「アンタが降霊術師か」

 0の問いに、男は不敵な笑みを浮かべた。

「挨拶代わりに、君の友達を暴霊にさせてもらった。さあ、私を楽しませろ!」

 やらねばならない。陽介を苦しみから解放するには、彼を浄霊せねばならない。

 降霊術師は木の上に登り、2人を見つめている。安藤はアサシンの姿を保ってはいるものの戦おうとはしない。悠真の思いを感じたからだ。

 自分を快く仲間に入れてくれた陽介を、自分の手で助けてやりたい、という思いを。

「いくよ、先輩」

 陽介はもう1度吠えると、2本の鎌を振り回して悠真に襲いかかった。跳ね返そうとしたがパワーが強すぎて、刀で受け止めることしか出来ない。

 先程の2体はまだ雑魚の部類だった。しかし目の前の暴霊は彼等を上回るパワーの持ち主だ。陽介の生暖かい息が0の顔にあたる。

 目一杯斧を振り、漸く距離を離すことが出来た。すかさず斧を刀に変えてダメージを与える。その度に陽介は苦しそうな悲鳴をあげた。もはやその悲鳴も、人間のものではなくなっていた。

 思わず攻撃を止める。すると、陽介が高くジャンプして0の身体を切りつけた。身体に痛みが迸る。

「青年!」

「黙って見ていたまえ安藤君」

 木の上から降霊術師が言った。

「彼は己の手で暴霊を止めようとしている。それを邪魔するのは……くくっ、あんまりではないか」

 彼は悠真の気持ちを案じているわけではない。攻撃を受け、苦しむ墓守の姿をもっと見ていたいだけだ。

 それでもアサシンが助けようとするので、足を伸ばし、彼の胸に強烈な蹴りを入れた。更にもう一方の足も伸ばして、アサシンの身体を拘束してしまった。

「安藤さん!」

「くっ、馬鹿野郎! よそ見すんな!」

「ちいっ」

 陽介の攻撃をかわし、先程と同じように銃を使ってバランスを崩そうとする。が、相手の動きの方が数倍速く、銃弾は全て躱されてしまった。

 0の攻撃に対し、今度は2本の鎌から衝撃波を繰り出した。0は吹っ飛び、ログハウスに突っ込んだ。

 起き上がると、今の陽介のようにジャンプし、下降すると同時に片腕を切り落とした。更にもう1撃食らわせようとしたが、素早く躱されて逆に1撃食らい、地面に倒れてしまった。至近距離で攻撃を受けたため、すぐに立ち上がることが出来ない。

「そうだ、殺せ! もはやお前は私の傀儡。私の命令に従うしかないのだ!」

 男が高らかに笑う。その度に安藤を拘束する足に力が入り、そこから抜け出そうと安藤が更にもがく。

 陽介は残った1本の鎌を振り上げる。

「そうだ、トドメを刺せ! 殺せ! 殺すのだ!」

「青年!」

 0の身体に力が入る。同時に、陽介の鎌が振り下ろされる。安藤は思わず目を瞑った。

 しかし、どうしたことだろう。刃が刺さった感触がしない。見ると、少し下ろしたところで止まっている。

「何故だ、何故殺さない!?」

 陽介は0を見つめた後、後ろへ2、3歩下がり、片腕を横に広げた。

 まだ彼の意志は失われていない。僅かだが人間の心は残っている。

 早く、彼を助けなければ。刀を持って、フラフラと立ち上がった。

「本当に、いきますよ」

 陽介は縦に首を振った。それを合図に、0は刃を陽介の腹に突き刺した。叫ぶこともなく、暴霊は人間の姿に戻った。

 片腕だけの青年。身体からは大量の血が流れ出ている。

「おのれ、こんな筈では、こんな筈ではない!」

 0の方にアサシンの身体が飛んできた。怒った降霊術師が飛ばしたのだ。

 起き上がって見ると、降霊術師が木から降り、歩いてくるところだった。

「かくなる上は……ぬんっ!」

 男が両腕をクロスさせた。すると、何処からともなく火の玉が飛んで来て男に乗り移った。

「何だ、あれは」

 両腕を広げると、降霊術師は青い炎に包まれ、おぞましい怪物に姿を変えた。蛇人間のような姿だ。彼の身体が伸びる理由が判った気がする。

「見よ墓守! 魂とは鎧! 所詮は道具に過ぎぬのだ!」

「ちっ、何て野郎だ」

「あいつは1人では倒せない。2人でいくぞ」

「はい」

 0とアサシンは武器を構え、降霊術師に迫っていった。相手は足を鞭のようにしならせ、2人を同時に横蹴りした。

 だが、足を戻した直後、男は苦しみだした。足に短剣が2本刺さっていた。そう、アサシンがトラップを使ったのだ。最初の戦いで男の戦法は理解した。だから、それに対処する方法を編み出したのだ。

「ちいっ、なめた真似を!」

 足がロケットのごとくアサシンに迫る。その直前に0が刀を斧に変え、相手の足めがけてそれを投げた。あまりの痛みに、降霊術師はすぐに足を戻した。

 1人では出来ない。相棒と共に戦っているから出来たことだ。

「その様子じゃ、足を使うのはよした方がいいみたいだな」

「ふん、そうさせてもらおう!」

 今度は両腕を蛇のように動かし、2人を襲う。相手もヤケになっているようで、周囲は滅茶苦茶になっていた。

 まずはあの腕を固定しなければならない。0は再度武器の形状を変化させた。次に使用するのは緑色のボウガン。矢で相手の腕を地面に縛るのだ。

 狙いを定めて矢を放つ。すると見事命中し、片腕の自由を奪った。続いてもう一方の腕も矢を数発放って大木に固定した。

「ありがとよ、青年」

「やりますよ」

 アサシンの刀が赤く輝き、0のボウガンが刀に変わる。降霊術師にトドメを刺すときが来た。

「はあああああっ!」

 2人が走る。降霊術師が無理やり立たされる。立ち上がった瞬間、2つの刃が男の身体を切り裂いた。

 男の野太い悲鳴とともに、降霊術師の身体は爆発した。いや、彼が鎧として纏っていた魂が消えただけか。

 爆発した地点には、ボロボロになった男が倒れていた。

「さあて、お前はもう只の人間だぜ?」

 フラフラしながら男が立ち上がる。その顔にはまだ笑みが。

「降霊術をなめてもらっては困る。はあっ!」

 男の腕が再び伸び、アサシンを殴った。

 更に服をずらし、胸元を見せた。そこに奇妙な紋章が刻まれている。降霊術に関係しているのだろうか。

 次の瞬間、男は炎に包まれ消えてしまった。

「やれやれ、厄介な相手だよ全く」

「あいつらの情報は無いんですか」

「ああ〜、上に聞かないとわからないな」

 2人は元の姿に戻り、血だらけの陽介に近づいた。丁度恵里と楓も現れ、彼のもとに駆け寄った。

「先輩!」

「子安君!」

「うっ」

 まだ微かに息がある。

「ありが、とう……助けて、くれて」

 息も絶え絶えに陽介は言った。礼を言われたのはこれで2度目だ。

「はあ、気持ち良い」

 それが彼の、最後の言葉だった。

 完全に息絶えると、彼の体は霧のようになって消えた。残ったのは1部の骨だけだった。自分の意志であろうとなかろうと、それが、暴霊になった者の定めなのだ。







 それから3日後、陽介達の通夜が執り行われた。

 悠真達は安藤が呼んだ救助隊の助けを借りて帰還した。あの紳士は一緒ではなかった。

 その後は事情聴取があり、通夜の連絡が来て、それで今に至る。

 陽介の家族は悲しんでいた。あんな姿になってしまった息子を見れば誰でもそうなるだろう。しかも陽介に至っては遺体が無い。棺の中には残された骨だけが入れられている。

 通夜が終わり、悠真は恵里と話をしていた。

「俺のせいだ。やっぱり俺とは関わるべきじゃないんだ」

「西樹君は悪くないよ。だってあのままだったら先輩、もっと苦しかったと思うよ」

 悠真を励ます恵里。しかし、声は少々震えていた。

 悠真は胸が締め付けられる思いだった。励ましてくれているが、彼女の仲間を切ったのは自分だ。

「あの」

「何で……何で私達の友達があんな目に……あんな、怪物なんかに」

 とうとう恵里は泣き崩れた。

 何も言えなかった。何を言おうが、亡くなったメンバーはもう帰ってこないのだ。

 この感情、どうすればいいのだろう。いっそ降霊術師に縋りたい。だがそうすればまた、暴霊と化した者を切ることになる。

 そう。どんな手段を用いても、死んだ者は戻ってこないのだ。

 それから20分程、悠真は恵里に付き添った。すっきりしたのか、恵里は再び笑顔を見せた。

「ごめんね。ありがとう」

「いや。帰るか」

「うん」

 2人は会場を出て別れた。

 自宅に戻ろうと歩き出すと、視界に安藤の姿が入った。

「通夜は終わりましたよ」

「ああ。上に言って、降霊術師について教えてもらえるよう頼んだ」

「結果は?」

「接見が許された。予定空けとけよ」

 今まで『上』とだけ聞かされてきた墓守の上層部。その1人との会話が可能になった。悠真はまだ電話でも会話したことが無い。会うのは今回が初である。

 別れを告げて帰ろうとすると、安藤が慌てて止めた。

「青年、まだ暴霊の気配がする。気をつけな」

「知ってますよ。そのうち浄霊するつもりです」

「おっ、成長したな」

 悠真が歩くのと反対の方向に歩き出した。

 悠真の顔はまた険しくなっていた。次の浄霊について考えていたのだった。






 その頃、あの降霊術師は暗い建物の中にいた。

 傷は大分癒えていた。矢で射抜かれた穴も塞がっている。

 彼の前には白いコートを着た女性が立っている。赤い縁の眼鏡をかけており、髪は長い。まだ24、5歳くらいだろうか。

「墓守の処刑に失敗した上に魂をひとつ天上にやってしまうとは。大失態ですよ、神田さん」

「ふん、あの方は何と?」

「残念ながら、あなたのことをまだ生かしておいてくださるそうです」

 どうやら降霊術師にも上層部があるようで、そこからの命令は絶対のようだ。

「しかし、あなた1人に任せるのは危ないので、新たに術師を派遣なされました」

「それがお前か」

「いいえ。後藤さんです」

「ちっ、奴か」

 新たな降霊術師・後藤。安藤を追い詰めた男も嫌悪する男。

 彼等との戦いは、やはりすぐには終わらない。






 安藤は自宅に戻り、ある男に電話をかけていた。

「もしもし」

『今度は何のようだい?』

「いや、この時間ならお前も任務から外れてると思ってな」

 電話の相手は、救助隊を指揮していたあの紳士だった。

 彼もまた墓守なのか。しかも、こう言っては難だが、安藤よりも忙しいらしい。

 それにしても、墓守のシステムはどうなっているのだろう。先に事件を探知したり、救助隊を派遣したり。彼等がいれば、今の日本社会の殆どは賄えるのではないか。

「色々ありがとよ」

『降霊術師を爆破させたらしいな。安藤にしては上出来じゃないか』

「つくづく腹の立つ男だな、お前は。いくら重要な任務を貰ったからって良い気になるなよ?」

『君と違って私は良識ある男だからね。心配いらないよ』

 2人はこんな会話が出来るくらいの深い仲のようだ。

『冗談はさて置き、嫌な知らせを聞いた』

「え?」

『別の降霊術師が現れた』

 既に後藤とやらの情報は知らされているらしい。なら、もう新たな暴霊を作っている可能性が高い。

 自然に蘇る暴霊もいるのに、降霊術師が活動すると更に仕事が増える。それが倍になるのだから余計面倒だ。

 安藤は男の事を考えていた。胸に刻まれた紋章。あれが、彼等の力の源に違いない。

 あれさえ無力化すれば術師を減らせる。

 紳士も何か情報を持っていないだろうか。聞いてみようとすると、

『済まない。急遽仕事が入った。今の任務が1段落ついたらまた話し合おう』

「お? おう。なんだよ、仕事かよ」

 安藤はブツブツ文句を言いながら、部屋の箪笥をいじり始めた。ただでさえ部屋が汚いのに、物を出したせいで余計酷くなった。

 数分後、1冊の本を取り出した。彼が探していたものは高校の卒業アルバムだった。

 それを開きながら、安藤はニヤニヤしている。彼には懐古趣味があるらしい。

 偶に、安藤が幼稚園児て戯れる写真が現れる。演劇をやったらしい。この頃から子供が好きだったのか。子供も楽しそうに笑みを浮かべている。

 最後に生徒1人1人のプロフィール。安藤は独り言を言い始めた。

「いやあ、懐かしいなぁ! あいつ、俳優になるって言ってたのに、結局サラリーマンかよ。しかも俺の女奪いやがって……あん?」

 写真に写っていた1人の生徒を見て、安藤の動きが止まった。どこかで会った気がする。

「こいつ、確か……あれ、誰だ? まぁ、いいか」

 安藤はアルバムを広げたままトイレに行った。

 その生徒の名は、神田明宏。

 自己紹介の文にはこう書いてある。


 《僕の将来の夢は、具体的にはまだ決まっていません。でも、人の役に立てる仕事がしたいです。困っている人が居たらその人を助け、夢を叶えたい人がいたら、叶えられるようサポートする。そんな仕事に、僕は就きたいです》

・ラダマントゥス・・・大学生の坂下官斗、川西由紀恵が暴霊として蘇った姿。降霊術士に誘惑されて自殺、カマキリのような新たな肉体を手に入れた。官斗は緑色、由紀恵は茶色の体を持っている。どちらも片手が鎌になっている。

 ラダマントゥスは神話に登場する地獄の裁判官の名。


・ファザータイム・・・学生の子安陽介が無理矢理暴霊にされた姿。ラダマンテュスと違い両手に鎌があり、袴をはき、ひげを生やしている。上記の2体には目に相当する部位があるがこの暴霊には見当たらない。

 ファザータイムはクロノスの別名。死神に値する。


・ナーガ・・・降霊術士・神田明宏が魂の鎧を纏った姿。蛇の特性を持っている。術士は他の霊を体に憑依させ、その魂を原動力にして行動する。戦闘によって解放された魂は天に召される。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ