危険な2人
「あっははは! ゴメンね西樹君、あなたに罪被せようとして! 死神って言われてるあなたならいけるかなぁ、と思って!」
驚くべき豹変ぶりを見せた由紀恵。隣では官斗がゲラゲラ笑っている。
2人はまず、悠真達を中央に集めた。陽介も恵理と楓に運ばせた。陽介は大分弱っていた。
思えば犯人を特定する手がかりはいくらでもあった。
紀夫の後を追ったのは官斗だ。紀夫を殺したあと、自分にも傷をつけたのだろう。
賢治を殺した後死神が逃げる姿が見られていないのも当然だ。由紀恵が賢治を殺し、驚いて中から出てくる演技をしたのだ。安藤が見たのはその瞬間だったのだ。その隙に、官斗は由紀恵を追うふりをしてオーナーハウスに向かい、2人を殺してから由紀恵と合流した。
全ての説明がつく。何と残酷な者達だろう。
「ねぇ官斗、どれからやる?」
「う〜ん、じゃあ、先輩からやっちゃう? 最後は2人まとめて、ズッタズタに切り裂いてやる」
2人の鎌が光り、持っていた腕と合体した。
非現実的な事態を目の当たりにしても、誰も驚かなかった。やはり恵里には、墓守の仕事がバレているのか。いや、そんな事を気にしている場合ではない。2人は今にも襲いかかってきそうだ。
恵里が悠真の手を握った。強く、強く。恐怖からかもしれないが、彼等2人を倒してほしいと願っているようだった。
そうだ、安藤はどこにいるのだ。あちこち見回したが、どこにも姿は見当たらない。
「何キョロキョロしてやがる!」
「ぐっ」
「西樹君!」
官斗が恐ろしいスピードで近づき、悠真の肩を切りつけた。
それを見て、由紀恵が楽しそうに笑った。
「やっぱり最高だよね、ハンティング」
「ホントホント。いやぁ、あの人の言うこと聞いて良かったわ」
「私達ね、生き物を捕まえて殺すのがだーい好きなの」
「最初は猫とか虫だけだったけど、少しずつレベル上げて、こうなる前にはもう3人はやったからね」
段階的に殺人犯が成長してゆくのは本当だったか。
官斗は自慢げに人数を発表した。こうなる前、というのは、多分暴霊になる前の事だろう。生きているうちに捕まっていれば、今悠真達がこんな目に逢うことも無かったのに。メンバーやオーナーが死ぬことも無かったのに。
「お前らで10人突破なんだわ。だからさ、死んでくれよ? ちゃんと埋めてやるからさ」
「ふざけないで。キャンプに来たのもこれが目的?」
楓が噛みついた。可愛らしい服装とは裏腹に、かなり気の強い女子だ。
「そうよ?」
「キャンプ場って言うからもっと居るのかと思ったけど、全然居なかったな。人気無いんじゃね? ココ」
「ねぇ、早くやろうよ」
由紀恵がせかす。ここまでくるともはや病気だ。しかも治ることはない、末期の病。
ニヤリと笑い、2人がゆっくり近づく。狙いは楓だ。噛みついたことで2人を挑発してしまった。
鎌を振りかぶり、楓の首を狩ろうとする。だがそのとき、どこからか短剣が飛んできて2人にあたった。
「いっ! 誰だぁ!」
「邪魔すんじゃねぇ!」
「おいおい、そんな汚い言葉を使うんじゃないよ」
木陰から、赤く輝く刀を持った安藤が姿を現した。
悠真はニヤリと笑みを浮かべ、素早く立ち上がった。同時に彼も刀を取り出した。
その姿を見て、恵里は目を見開いた。そのあと、ニコッと笑みを浮かべた。
「奥へ逃げろ」
「わ、判った」
恵里は楓とともにハウスの後ろへ逃げた。官斗が後を追おうとしたので、悠真が鎌で行く手を遮った。
「お前等の浄霊が先だよ、屑ども」
「はぁ?」
「ふざけたこと抜かしてんじゃねぇ! ああああっ!」
官斗と由紀恵の身体を青白い炎が包み、蟷螂のような姿に変えた。官斗は緑、由紀恵は茶色だ。片腕だけ鎌になっていて、コートを着ている。
「ぶっ殺してやる!」
「さぁて、やるか青年」
「はい」
悠真と安藤も炎を纏い、墓守の力を開放した。
まずは本家死神、0が官斗を切りつける。何体もの暴霊を浄霊してきたその技は官斗にかなりのダメージを与えた。
続いて日本刀を振り回して、アサシンこと安藤が由紀恵に攻撃する。由紀恵も負けじと攻撃を仕掛けてくるが、アサシンが操るトラップによって攻撃を邪魔されている。
因みに、0は安藤が姿を変えたことに気づいていない。それ程仕事に熱中しているのだ。
「てめぇらぁ!」
「死ねぇっ!」
2人が同時に迫って来る。0は刀を瞬時に青く輝く拳銃に変化させ、2体の暴霊に向けて銃弾を連射した。相手がバランスを崩した隙に、0が銃を斧へ変え、アサシンが刀を構えた。
「やっ、止めて!」
「殺さないで!」
「君達が殺してきた者達も同じ気持ちだったんだよ」
「今更気づいても遅いんだよ!」
2つの刃が、暴霊の首めがけて飛んでいった。2体は悲鳴をあげる間もなく首を切り離され、燃え上がってしまった。
浄霊は済んだ。悠真と安藤はハイタッチした。安藤は悠真の手伝いが出来て嬉しそうだし、悠真は安藤と共に仕事をする事が出来て満足している様子だった。
ハウスの陰から恵里と楓が出てきた。
姿はまだ0のままで、悠真は少し恥ずかしそうにした。恵里は変貌した彼等を嫌がる気はなく、ニコニコして悠真の手を握った。
「また、助けてもらっちゃったね」
「そうだね」
「いやあ、そうか! 青年もとうとう……」
「黙っててください!」
しばらくの間、皆は笑いあっていた。
これで事件は終わった……筈だった。
笑っていた恵里の顔が恐怖の色に染まった。
「あぶない!」
「え? うっ!」
間一髪、斧で攻撃を回避出来た。攻撃してきたのは死んだ筈の陽介だった。彼の両腕は鎌になっている。
「先輩!」
「どうして?」
「た、助けて」
震える声で陽介が言う。彼は元から暴霊だったのではない、何者かの手により、無理やり攻撃させられているのだ。
「助けて、僕を、僕を止めてくれえぇっ!」
陽介の身体も炎に包まれ、髭を生やした蟷螂の暴霊に変身させた。
黄色い暴霊に変化すると、陽介は気味の悪い鳴き声をあげてその場にいる全員を威嚇した。
「そんな、先輩!」
「ハウスに行くわよ! 早く!」
ここからは辛い戦いになる。今まで皆を纏めていた頼もしい仲間を斬らねばならない。それを察して楓が恵里をログハウスに連れて行った。
陽介は苦しそうな声を上げて鎌を振り回している。
彼を止めなければ。そのとき、向こうから男が歩いてきた。そう、暴霊を山に連れてきた降霊術師だ。
「どうだ? 生で降霊術を見た感想は」
「野郎!」
「アンタが降霊術師か」
0の問いに、男は不敵な笑みを浮かべた。
「挨拶代わりに、君の友達を暴霊にさせてもらった。さあ、私を楽しませろ!」
やらねばならない。陽介を苦しみから解放するには、彼を浄霊せねばならない。
降霊術師は木の上に登り、2人を見つめている。安藤はアサシンの姿を保ってはいるものの戦おうとはしない。悠真の思いを感じたからだ。
自分を快く仲間に入れてくれた陽介を、自分の手で助けてやりたい、という思いを。
「いくよ、先輩」
陽介はもう1度吠えると、2本の鎌を振り回して悠真に襲いかかった。跳ね返そうとしたがパワーが強すぎて、刀で受け止めることしか出来ない。
先程の2体はまだ雑魚の部類だった。しかし目の前の暴霊は彼等を上回るパワーの持ち主だ。陽介の生暖かい息が0の顔にあたる。
目一杯斧を振り、漸く距離を離すことが出来た。すかさず斧を刀に変えてダメージを与える。その度に陽介は苦しそうな悲鳴をあげた。もはやその悲鳴も、人間のものではなくなっていた。
思わず攻撃を止める。すると、陽介が高くジャンプして0の身体を切りつけた。身体に痛みが迸る。
「青年!」
「黙って見ていたまえ安藤君」
木の上から降霊術師が言った。
「彼は己の手で暴霊を止めようとしている。それを邪魔するのは……くくっ、あんまりではないか」
彼は悠真の気持ちを案じているわけではない。攻撃を受け、苦しむ墓守の姿をもっと見ていたいだけだ。
それでもアサシンが助けようとするので、足を伸ばし、彼の胸に強烈な蹴りを入れた。更にもう一方の足も伸ばして、アサシンの身体を拘束してしまった。
「安藤さん!」
「くっ、馬鹿野郎! よそ見すんな!」
「ちいっ」
陽介の攻撃をかわし、先程と同じように銃を使ってバランスを崩そうとする。が、相手の動きの方が数倍速く、銃弾は全て躱されてしまった。
0の攻撃に対し、今度は2本の鎌から衝撃波を繰り出した。0は吹っ飛び、ログハウスに突っ込んだ。
起き上がると、今の陽介のようにジャンプし、下降すると同時に片腕を切り落とした。更にもう1撃食らわせようとしたが、素早く躱されて逆に1撃食らい、地面に倒れてしまった。至近距離で攻撃を受けたため、すぐに立ち上がることが出来ない。
「そうだ、殺せ! もはやお前は私の傀儡。私の命令に従うしかないのだ!」
男が高らかに笑う。その度に安藤を拘束する足に力が入り、そこから抜け出そうと安藤が更にもがく。
陽介は残った1本の鎌を振り上げる。
「そうだ、トドメを刺せ! 殺せ! 殺すのだ!」
「青年!」
0の身体に力が入る。同時に、陽介の鎌が振り下ろされる。安藤は思わず目を瞑った。
しかし、どうしたことだろう。刃が刺さった感触がしない。見ると、少し下ろしたところで止まっている。
「何故だ、何故殺さない!?」
陽介は0を見つめた後、後ろへ2、3歩下がり、片腕を横に広げた。
まだ彼の意志は失われていない。僅かだが人間の心は残っている。
早く、彼を助けなければ。刀を持って、フラフラと立ち上がった。
「本当に、いきますよ」
陽介は縦に首を振った。それを合図に、0は刃を陽介の腹に突き刺した。叫ぶこともなく、暴霊は人間の姿に戻った。
片腕だけの青年。身体からは大量の血が流れ出ている。
「おのれ、こんな筈では、こんな筈ではない!」
0の方にアサシンの身体が飛んできた。怒った降霊術師が飛ばしたのだ。
起き上がって見ると、降霊術師が木から降り、歩いてくるところだった。
「かくなる上は……ぬんっ!」
男が両腕をクロスさせた。すると、何処からともなく火の玉が飛んで来て男に乗り移った。
「何だ、あれは」
両腕を広げると、降霊術師は青い炎に包まれ、おぞましい怪物に姿を変えた。蛇人間のような姿だ。彼の身体が伸びる理由が判った気がする。
「見よ墓守! 魂とは鎧! 所詮は道具に過ぎぬのだ!」
「ちっ、何て野郎だ」
「あいつは1人では倒せない。2人でいくぞ」
「はい」
0とアサシンは武器を構え、降霊術師に迫っていった。相手は足を鞭のようにしならせ、2人を同時に横蹴りした。
だが、足を戻した直後、男は苦しみだした。足に短剣が2本刺さっていた。そう、アサシンがトラップを使ったのだ。最初の戦いで男の戦法は理解した。だから、それに対処する方法を編み出したのだ。
「ちいっ、なめた真似を!」
足がロケットのごとくアサシンに迫る。その直前に0が刀を斧に変え、相手の足めがけてそれを投げた。あまりの痛みに、降霊術師はすぐに足を戻した。
1人では出来ない。相棒と共に戦っているから出来たことだ。
「その様子じゃ、足を使うのはよした方がいいみたいだな」
「ふん、そうさせてもらおう!」
今度は両腕を蛇のように動かし、2人を襲う。相手もヤケになっているようで、周囲は滅茶苦茶になっていた。
まずはあの腕を固定しなければならない。0は再度武器の形状を変化させた。次に使用するのは緑色のボウガン。矢で相手の腕を地面に縛るのだ。
狙いを定めて矢を放つ。すると見事命中し、片腕の自由を奪った。続いてもう一方の腕も矢を数発放って大木に固定した。
「ありがとよ、青年」
「やりますよ」
アサシンの刀が赤く輝き、0のボウガンが刀に変わる。降霊術師にトドメを刺すときが来た。
「はあああああっ!」
2人が走る。降霊術師が無理やり立たされる。立ち上がった瞬間、2つの刃が男の身体を切り裂いた。
男の野太い悲鳴とともに、降霊術師の身体は爆発した。いや、彼が鎧として纏っていた魂が消えただけか。
爆発した地点には、ボロボロになった男が倒れていた。
「さあて、お前はもう只の人間だぜ?」
フラフラしながら男が立ち上がる。その顔にはまだ笑みが。
「降霊術をなめてもらっては困る。はあっ!」
男の腕が再び伸び、アサシンを殴った。
更に服をずらし、胸元を見せた。そこに奇妙な紋章が刻まれている。降霊術に関係しているのだろうか。
次の瞬間、男は炎に包まれ消えてしまった。
「やれやれ、厄介な相手だよ全く」
「あいつらの情報は無いんですか」
「ああ〜、上に聞かないとわからないな」
2人は元の姿に戻り、血だらけの陽介に近づいた。丁度恵里と楓も現れ、彼のもとに駆け寄った。
「先輩!」
「子安君!」
「うっ」
まだ微かに息がある。
「ありが、とう……助けて、くれて」
息も絶え絶えに陽介は言った。礼を言われたのはこれで2度目だ。
「はあ、気持ち良い」
それが彼の、最後の言葉だった。
完全に息絶えると、彼の体は霧のようになって消えた。残ったのは1部の骨だけだった。自分の意志であろうとなかろうと、それが、暴霊になった者の定めなのだ。
それから3日後、陽介達の通夜が執り行われた。
悠真達は安藤が呼んだ救助隊の助けを借りて帰還した。あの紳士は一緒ではなかった。
その後は事情聴取があり、通夜の連絡が来て、それで今に至る。
陽介の家族は悲しんでいた。あんな姿になってしまった息子を見れば誰でもそうなるだろう。しかも陽介に至っては遺体が無い。棺の中には残された骨だけが入れられている。
通夜が終わり、悠真は恵里と話をしていた。
「俺のせいだ。やっぱり俺とは関わるべきじゃないんだ」
「西樹君は悪くないよ。だってあのままだったら先輩、もっと苦しかったと思うよ」
悠真を励ます恵里。しかし、声は少々震えていた。
悠真は胸が締め付けられる思いだった。励ましてくれているが、彼女の仲間を切ったのは自分だ。
「あの」
「何で……何で私達の友達があんな目に……あんな、怪物なんかに」
とうとう恵里は泣き崩れた。
何も言えなかった。何を言おうが、亡くなったメンバーはもう帰ってこないのだ。
この感情、どうすればいいのだろう。いっそ降霊術師に縋りたい。だがそうすればまた、暴霊と化した者を切ることになる。
そう。どんな手段を用いても、死んだ者は戻ってこないのだ。
それから20分程、悠真は恵里に付き添った。すっきりしたのか、恵里は再び笑顔を見せた。
「ごめんね。ありがとう」
「いや。帰るか」
「うん」
2人は会場を出て別れた。
自宅に戻ろうと歩き出すと、視界に安藤の姿が入った。
「通夜は終わりましたよ」
「ああ。上に言って、降霊術師について教えてもらえるよう頼んだ」
「結果は?」
「接見が許された。予定空けとけよ」
今まで『上』とだけ聞かされてきた墓守の上層部。その1人との会話が可能になった。悠真はまだ電話でも会話したことが無い。会うのは今回が初である。
別れを告げて帰ろうとすると、安藤が慌てて止めた。
「青年、まだ暴霊の気配がする。気をつけな」
「知ってますよ。そのうち浄霊するつもりです」
「おっ、成長したな」
悠真が歩くのと反対の方向に歩き出した。
悠真の顔はまた険しくなっていた。次の浄霊について考えていたのだった。
その頃、あの降霊術師は暗い建物の中にいた。
傷は大分癒えていた。矢で射抜かれた穴も塞がっている。
彼の前には白いコートを着た女性が立っている。赤い縁の眼鏡をかけており、髪は長い。まだ24、5歳くらいだろうか。
「墓守の処刑に失敗した上に魂をひとつ天上にやってしまうとは。大失態ですよ、神田さん」
「ふん、あの方は何と?」
「残念ながら、あなたのことをまだ生かしておいてくださるそうです」
どうやら降霊術師にも上層部があるようで、そこからの命令は絶対のようだ。
「しかし、あなた1人に任せるのは危ないので、新たに術師を派遣なされました」
「それがお前か」
「いいえ。後藤さんです」
「ちっ、奴か」
新たな降霊術師・後藤。安藤を追い詰めた男も嫌悪する男。
彼等との戦いは、やはりすぐには終わらない。
安藤は自宅に戻り、ある男に電話をかけていた。
「もしもし」
『今度は何のようだい?』
「いや、この時間ならお前も任務から外れてると思ってな」
電話の相手は、救助隊を指揮していたあの紳士だった。
彼もまた墓守なのか。しかも、こう言っては難だが、安藤よりも忙しいらしい。
それにしても、墓守のシステムはどうなっているのだろう。先に事件を探知したり、救助隊を派遣したり。彼等がいれば、今の日本社会の殆どは賄えるのではないか。
「色々ありがとよ」
『降霊術師を爆破させたらしいな。安藤にしては上出来じゃないか』
「つくづく腹の立つ男だな、お前は。いくら重要な任務を貰ったからって良い気になるなよ?」
『君と違って私は良識ある男だからね。心配いらないよ』
2人はこんな会話が出来るくらいの深い仲のようだ。
『冗談はさて置き、嫌な知らせを聞いた』
「え?」
『別の降霊術師が現れた』
既に後藤とやらの情報は知らされているらしい。なら、もう新たな暴霊を作っている可能性が高い。
自然に蘇る暴霊もいるのに、降霊術師が活動すると更に仕事が増える。それが倍になるのだから余計面倒だ。
安藤は男の事を考えていた。胸に刻まれた紋章。あれが、彼等の力の源に違いない。
あれさえ無力化すれば術師を減らせる。
紳士も何か情報を持っていないだろうか。聞いてみようとすると、
『済まない。急遽仕事が入った。今の任務が1段落ついたらまた話し合おう』
「お? おう。なんだよ、仕事かよ」
安藤はブツブツ文句を言いながら、部屋の箪笥をいじり始めた。ただでさえ部屋が汚いのに、物を出したせいで余計酷くなった。
数分後、1冊の本を取り出した。彼が探していたものは高校の卒業アルバムだった。
それを開きながら、安藤はニヤニヤしている。彼には懐古趣味があるらしい。
偶に、安藤が幼稚園児て戯れる写真が現れる。演劇をやったらしい。この頃から子供が好きだったのか。子供も楽しそうに笑みを浮かべている。
最後に生徒1人1人のプロフィール。安藤は独り言を言い始めた。
「いやあ、懐かしいなぁ! あいつ、俳優になるって言ってたのに、結局サラリーマンかよ。しかも俺の女奪いやがって……あん?」
写真に写っていた1人の生徒を見て、安藤の動きが止まった。どこかで会った気がする。
「こいつ、確か……あれ、誰だ? まぁ、いいか」
安藤はアルバムを広げたままトイレに行った。
その生徒の名は、神田明宏。
自己紹介の文にはこう書いてある。
《僕の将来の夢は、具体的にはまだ決まっていません。でも、人の役に立てる仕事がしたいです。困っている人が居たらその人を助け、夢を叶えたい人がいたら、叶えられるようサポートする。そんな仕事に、僕は就きたいです》
・ラダマントゥス・・・大学生の坂下官斗、川西由紀恵が暴霊として蘇った姿。降霊術士に誘惑されて自殺、カマキリのような新たな肉体を手に入れた。官斗は緑色、由紀恵は茶色の体を持っている。どちらも片手が鎌になっている。
ラダマントゥスは神話に登場する地獄の裁判官の名。
・ファザータイム・・・学生の子安陽介が無理矢理暴霊にされた姿。ラダマンテュスと違い両手に鎌があり、袴をはき、ひげを生やしている。上記の2体には目に相当する部位があるがこの暴霊には見当たらない。
ファザータイムはクロノスの別名。死神に値する。
・ナーガ・・・降霊術士・神田明宏が魂の鎧を纏った姿。蛇の特性を持っている。術士は他の霊を体に憑依させ、その魂を原動力にして行動する。戦闘によって解放された魂は天に召される。