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堕落者

 栄誉など、無意味なものだ。

 東京大学を卒業し、作家として名誉を得たが、娘が生まれた4年後、眼が見えなくなった。

”……が、……たちの……“

 眼を使えないからなのか、私は、音や声を良く聞き取れるようになった。この現象は本当の事だったか。人間にはまだまだ謎が沢山ある。

“あの人が死んだら、遺産は私達のものよ”

 なるほどな。ふん、肥えた豚め。夫婦揃って急に家に来たのはそういう事か。貪欲な豚を育てた覚えはない!

 何故だか知らんが、私は物体の『形』だけなら、見ているかのように感知出来るようになった。

 それで良かったかもしれない。娘の醜い顔を感知せずに済むのだから。

 とはいえこのまま奴の思い通りになるのは御免だ。醜い獣には醜い死に方を。くくく、人生まだまだ、捨てたものじゃないな。





 少し肌寒くなって来たある日。悠真は珍しく図書館にはいなかった。

 今日は文化祭。図書館で新聞を読む余裕は無いのだ。

 こんな日は1人で過ごしたかった。が、やはりあの男は姿を現す。

「よぉ、賑やかだねぇ!」

「来やがったな」

 悠真は門の近くではしゃいでいる男性のところへ早足で向かった。酒でも飲んでいるのか、男性……安藤は大声で何かを叫んでいる。そのせいで周りの客がひいている。

「安藤さん!」

「おお青年! いいねぇ、祭りってのは!」

「今日は大事なお客さんが来るんだから黙っててくださいよ! さもないと警備員さんに来てもらいますよ!」

「お? 何だそれは、脅しか? おっちゃん負けねえよ?」

「すいませんねぇ、今日は乗って上げられないんすよ! 早くここから……」

 そのとき、学校の前にリムジンが止まった。運転席からドライバーが降り、後部座席のドアを開けた。すると、中から車椅子に乗った老紳士が降りた。深呼吸をすると、老紳士は気持ちよさそうに笑った。

 悠真の反応からすると、この男性が大事な客のようだ。ドライバーに車椅子を押され、老紳士が校門を抜けた。悠真は駆け足で彼等のもとへ向かった。

「お待ちしておりました、館林先生」

 館林薫。それが男性の名だ。

 薫は会釈をし、悠真にこう言った。

「背筋を伸ばしなさい」

「す、すいません」

「教授は、彼かね?」

 薫は悠真の後ろを指差した。眼鏡をかけた男性が歩いてくるところだった。薫の前まで来ると、教授は挨拶した。

 教授に案内され、薫は校内へ向かった。

「凄い、本当なんだ」

「館林薫か」

 悠真の背後に安藤が立った。

「確か小説家だったな。主に人間の闇を描いた作品で有名で、他にも独自の人間論で知られる。そして何より有名なのは」

「彼が、盲目だということ」

 安藤の言葉を遮り、悠真は言った。






「峰。梓と主人は処理出来たか」

「はい」

 校内の控え室。誰もいないのを確認して、ドライバーの峰洋介は答えた。

 ここに来る前日、彼等は2人の人物を殺害した。しかも、殺したのは薫の娘とその夫だ。

「毒がしっかり遺体に回ってましたから。解体は簡単に済みました」

「毒を持つとはな。私も様々な人間を小説で殺してきたが、こんなやり方は初めてだ。非現実の物語として小説にすれば売れるだろうな」

 薫は自分の手のひらを見つめた。光を失ったその眼にはどう映っているのだろう。

「さて、講演会だ。峰、香水をかけてくれ。臭いが判らないように」

「はい」

 洋介は香水を手に取ると、これでもかと言うくらい、兎に角ひたすら、薫の体にかけ続けた。自分の手や服が濡れてしまうほどだ。

「先生、あれの件ですが」

 ニヤリと笑いながら、洋介は親指と人差し指を合わせて『金』のサインを作った。薫は1回溜め息をつき、「また後でな」と言った。そして、今度は1人で車椅子を動かした。

 薫が部屋を出て行ったあと、洋介は近くにあったゴミ箱を蹴り上げた。






 午後1時。

 あと30分で、館林薫の講演会が始まる。

 会場の準備は整った。悠真と安藤は会場付近でぶらついていた。

「不思議なこともあるものだな」

「え?」

「館林薫だよ。盲目なのに、何で色々判るんだ? まるで眼が見えているみたいに」

「人間、極限状態だと有り得ない力を発揮出来ますからね」

 人間の力は計り知れない。

 自分の身に危険が迫っているとき、その身を守る為に信じられないことが起きたりする。あるいは五感のひとつが失われると、それを補うために別の感覚が長けたりする。例外も存在するが。ここで言う例外とは……言わなくても判るだろう。

「講演会では何を話すんだ?」

「それ先に言ったらつまらないでしょうよ」

「良いじゃん良いじゃん」

「先月出した小説の宣伝、あの人の人間論、みたいな」

「みたいなって、内容理解してなきゃまずいだろ」

「大丈夫です、全部判ってますから」

 校内放送が流れた。そろそろ客を会場に入れるらしい。

 近くに入り口がある。悠真はそこの扉を開け、安藤に入るよう促した。

 適当にぶらついていた訳ではなく、すぐ席が取れるように準備していたのだ。

 安藤は悠真に会釈をすると、会場に入っていった。その後、学生から一般客から、兎に角大勢の客が会場に押し寄せた。1人の作家がこれほどまで大きな影響を与える。驚くべきことだ。

 開演の時刻になり、会場のライトが前方のステージに集中する。いよいよ会が始まる。

『それではご登場戴きましょう! 最新作【柘榴】の著者、館林薫先生です!』

 車椅子に乗った男性がステージに現れたのと同時に、会場全体から拍手が上がった。

 自己紹介、本の宣伝をした後、作家は自分の考えを語り始めた。

「人間の心には必ず闇がある。どんなに素晴らしい歌を作る歌手にも、人を助けようと尽力する政治家にも」

 館林薫の講演は盛り上がっていた。彼自らの考えた人間論はなかなか面白い。人間誰しもが心の中に持つ闇の感情。犯罪や戦争を憎む者も持っているのだそうだ。

「他者の苦しみが見たい。この思いを原動力に生まれたのが、マスコミだと私は思うね。偏見かもしれないが。でも君達は芸能人のトラブルの方が大好きだろう? ……話を戻すが、心の闇があるからこそ、読者は私の書いたような作品に惹かれるのだ。諸君も感じているはずだ。気持ちの悪い描写を酷く嫌悪しているのだが、それでも物語の続きを知りたいと、無意識に思っていることを」

 悠真は思わず頷いていた。彼も、薫の小説を読んでいて似たような思いを持ったのだ。

 描写がグロテスクなため、気分が悪くなってしまい、読むのを止めたいと感じる。だが、何故かそのグロテスクさが病み付きになり、気づいた時には次のページを開いている。

 人間の闇。それを知ったからこそ、彼の作品は多くの読者を掴んだのかもしれない。

 その後、薫は全く新しい持論を述べた。

「人間というのは本当に不思議だ。私は眼が見えないのだが、その代わりに、耳と脳の働きによって、正確な立体イメージを頭の中で描けるようになったのだ」

 つまり、平面以外なら、脳内で感知出来るということだ。恐らく絵はただの板として、人間はのっぺらぼうのように認識されるのだろう。

 悠真の姿勢を指摘できたのもこのためか。

「強く望めば、我々にはどんな事も実現する事が出来るのだ。諸君もめげずに頑張ってもらいたい」

 最初の話題とは打って変わって、明るい言葉で薫は締めくくった。

 再び全体から拍手が起こった。深く会釈をすると、薫は車椅子を動かして会場から出て行った。約2時間にわたる講演会はこうして幕を閉じた。






「居眠りしている奴がいたな。けしからん」

 ネームプレートをつけた男子生徒が、机に突っ伏して眠っていた。恐らく係の者だろう。

 薫はあの控え室に戻った。床には肌が赤黒くなった死体が横たわっている。そう、峰洋介だ。

 死体を見つめ、薫はほくそ笑んだ。

「香水に毒を仕込ませてもらった。馬鹿な男だよ。金などという無価値な物に酔うとは」

 言ったあと、ポケットから携帯を出した。数字の形をしたボタンが並んでおり、容易に形を認識出来るのだ。

 110番を押し、携帯を耳に当てた。

「警察か! 今から言う場所に来てくれ、私の秘書が死んでいる!」

 電話を切ると、携帯をしまい、係の者を呼んだ。あたかも秘書の死を悲しみ、殺人犯に憤っているかのように。

 毒殺なら証拠は残らない。講演会があったし、そもそも眼と足が不自由だと思い込まれている薫が疑われる心配はない。

 人間とは、毒を作れるくらいに進化出来る生き物なのか。何年も経てばそんな人類が現れるかもしれない。だが少なくとも、今回はそうじゃない。

 薫の眼の奥に、一瞬青い炎が見えた。







 30分後、警察が到着し、薫と文化祭のスタッフ、手伝いの生徒が全員会場に集められた。

 控え室は関係者以外立ち入り禁止。一般客が犯人である確率は0に等しい。だが、警察は自殺の線で捜査を始めたらしい。犯人をスタッフ達に絞ったとしても、控え室に入れる機会のあった者はいなかった。

 事情聴取はかなりの時間を要した。薫が呼ばれたのは3時間後だった。その次は悠真だ。

「以前、自殺をほのめかすような事を言っていた。もしかすると、彼も限界だったのかもしれん」

「そうですか」

「はぁ、もう少し気遣ってやれば良かったな」

 天井を見ながら薫は言った。悲しそうにしているが、心の底ではほくそ笑んでいる。全てが彼の思惑通りに進んでいる。自分の遺産を狙う者達を殺し、どれも自分がやったという証拠はない。

 俯き、悩んでいるように見せる。薫は腕を組んではっとした。汗をかいている。成功するとふんではいたが、やはり緊張したらしい。

 警察に挨拶し、車椅子を動かして会場を出た。その瞬間、悠真とすれ違った。

「失礼」

 部屋を出て行くまで、悠真は彼の背中を見つめて、いや、睨んでいた。

 薫も彼の正体までは認識出来なかったようだ。悠真はすれ違った時に僅かな事を感じた。最初に会った時よりも近づいたからこそ感じることが出来だのだ。

「次の方」

「あ、はい」

 悠真も事情聴取を受けた。早く薫に会いたかったので、少々慌てていた。

 外はすっかり暗くなっていた。






 車椅子に座り、薫は夜空を見つめていた。ロマンチックな想像をするのが普通なのかもしれないが、彼は人間の心の闇を連想していた。

「居眠り君はまだいたかな」

 先程の居眠りをしていた生徒を思い出した。係だということは事情聴取を受けている筈。となればまだ彼はここにいる。

 心の闇とは本当に恐ろしい。殺害計画があまりにも簡単に進んだので、薫は殺人に味をしめていたのだ。そして、彼が次に目を付けたのがその学生だった。

 薫の予想通り、寝ぼけ眼の学生が出て来た。顔はやはり判らないが、体系、息遣いなどが一致していた。

 学生は荷物を取りに行ったのか、別の教室に向かった。薫も車椅子を滑らせるように操り、学生に近づいていった。

 距離はどんどん狭まる。ここで、薫の爪が伸び始めた。とても長く鋭い爪だ。

 車椅子はスピードを上げて学生に近づく。後少しで爪を彼に刺すことが出来る。

 だがそこで、思わぬ邪魔が入った。いきなり横からステッキが飛んできて、薫の腕に直撃した。

「うっ! ……君は」

 ステッキが来た方向を見ると、見覚えのある背格好の人間が立っている。昼に薫と会話をした、あの背筋の曲がった青年だ。

「毒を盛ったのはあなたですね?」

「何?」

「あなたとすれ違った時、腐ったような臭いがしました」

 悠真は喋りながら薫に近づく。

「死臭って奴ですよ」

 先程悠真が感じたもの。それは臭いだった。控え室についてから、薫は香水を大量にかけた。あれは峰洋介に毒を盛るのと同時に、死臭を隠すためでもあったのだ。

 しかし、事情聴取のあたりで汗をかき、香水が流れてしまったのだ。だから、悠真にバレてしまった。しかも悠真は死人を相手にしている男だ。臭いが死臭だということはすぐに判った。

「君に出会ったことが、最大のミスだったな」

「いいえ。殺しが1番のミスですよ。あの1回の殺しが、作家としてのあなたの権威を台無しにしたのですから」

「ふん」

 いきなり、薫が宙返りをした。そして車椅子の後ろに立つと、勢い良くそれを押した。恐ろしい速さで無人の車椅子が迫る。悠真も宙返りをしてそれをかわした。

 まさか足を回復させるとは。暴霊としての力が作用しているのか、それとも、殺人という最高の楽しみが彼を回復させたのか。

「私が殺したのは1人じゃない。私の財産を狙った者は皆殺しにしてやった。全部で5人だ」

「じゃあ、尚更まずいですよ」

 悠真は刀を引き抜いて作家の霊に攻撃を仕掛けた。

「心の闇を描いてきたこの私が、その心の闇に飲まれるとは。私の邪魔をしないでくれ。人を、人を殺したいのだよ!」

 薫は高くジャンプして悠真の前に立ち、脇腹に蹴りを入れた。

 一瞬怯んだが、すぐに体勢を立て直して相手の腕を斬りつけた。斬られた場所からは赤黒い血が吹き出した。普通なら炎が上がるはずなのだが、何故なのか。

 そんな事を考えている暇はない。薫は人間離れした動きで悠真に攻撃する。対する悠真も刀を巧みに操り、相手の体を斬る。かなり傷を負っているにもかかわらず、薫のペースは落ちない。

「人を殺したい。その思いが、私の体に驚異的な力を与えたのだ!」

「なるほど。あんたは霊体ではなく、死体そのものか!」

「訳の分からんことをぬかすな! はああっ!」

 薫の爪が悠真に迫った。間一髪、悠真はそれをかわし、更に指の第一関節を鎌で切り落とした。切り口からは血が激しく流れ出る。

「くっ、油断したな」

 再び高くジャンプした薫。その姿を見て、ジャンプの秘密が判った。

 彼の両腕が、蝙蝠の羽根のようになっている。羽根で顔を隠すように両腕をクロスすると、体に青白い炎が燃え上がった。

 腕を勢いよく広げると、炎が消え、蝙蝠人間のようになった薫の姿が露わになった。爪も復活し、口元には赤い牙が生えている。耳は長く大きい。

 小さく不気味な鳴き声をあげ、怪物が悠真を威嚇した。

「くっ」

 何と、悠真は素早く動いてどこかに隠れてしまった。逃げ出したのか。

「逃げても無駄だ。私の力を忘れたか」

 そうだ。薫は視力を失った代わりに、聴覚が長け、物体の形を認識出来るようになったのだ。今ならその理由がわかる。恐らく蝙蝠のように超音波を飛ばしているのだろう。

「そこか!」

 柱の影に向かって衝撃波を放った。だがそこには、誰もいない。

 もう一度探索を始める。しかし、今度はその姿も探知出来ない。

「馬鹿な、ありえん!」

「はああっ!」

 戸惑っていると、後ろから飛んで来た戦士に背後から斬りつけられた。

 悠真は0に変身していたのだ。炎を纏って変身する以上、悠真にも霊的パワーが作用している。霊は超音波を飛ばしても跳ね返さない。だから今の薫には、宙に浮いた鎌だけが見えている筈だ。

「何だこれは!」

「確かにあんたは特殊な方法で探知が出来るようになった。だが、それが100%視力をカバー出来るわけではない。そこを突かせてもらいました」

 自慢気に推理を展開しているのだろうが、薫にはその姿を見ることは出来ない。

「かくなる上は!」

 薫は翼を広げ、宙に浮かんだ。そして、四方八方に衝撃波を放った。全方位に攻撃を仕掛け、どうにかして悠真に当てるつもりなのだ。

 悠真はジャンプして攻撃を回避した。

 音で感知したのか、今度は上の方へ衝撃波を飛ばしてきた。逃げても感知される。ここは突撃した方が良い。

 宙で壁を蹴り、薫の方へ飛ぶ。衝撃波は全て、刀を回転させて消し去った。近づいたところで翼の膜をズタズタに切り裂いた。毛細血管を切ったため、大量の返り血を浴びてしまった。それによって薫は地面に叩き落とされた。

「あっ、まずい」

 これは考えていなかった。血を被ったということは、薫は超音波で悠真を感知出来るということになる。

 薫は両手の平でスピーカーの形を作り、口に当てた。すると、口から黒い液体が放たれた。5人もの人物を殺した猛毒だ。

 横転して回避し、刀を大きな鎌に変えた。遠距離のため首を切断することは出来ないが、先程の薫のように衝撃波を放つことは出来る。

 衝撃波は先程のものより強かった。毒液は跳ね返され、相手が浴びる羽目になった。相手には毒が効かないが、それでも隙を作ることは出来た。素早く薫の前に移動し、鎌を振った。刃は一瞬にして蝙蝠の頭を切り落とした。やはり血が派手に吹き出した。だが、肉体が消えると血も霧になって消えた。

 元の姿に戻った悠真は、悩ましい表情をしていた。好きだった作家は完全に死んでしまった。しかも自分の手でそうさせてしまった。

 だが止めなければ、薫は執筆活動よりも殺人に力を注いでいたかもしれない。

 やはりこの仕事は疲れる。悠真はそう思った。

「青年!」

 今頃になって安藤がやって来た。

「悪いな、さっき上から聞かされて」

「ああ、館林先生ですか?」

「ああ。それともう1つ」

「え?」

 安藤の表情が曇った。大問題のようだ。

「降霊術師が動き出した」

「そう、ですか」

 悠真は薫が倒れた場所を見た。

 霊体ではなく、死体そのものが蘇った薫。正に生ける屍だった。そのことと降霊術師とやらは何らかの関わりがあるのかもしれない。

 何かが起き始めている。これまで以上に気を引き締めなければならないかもしれない。

「どうした」

 安藤が尋ねた。頼りないが、伝えておいても良いだろう。悠真は薫について話した。話を聞いて、安藤の顔が更に険しくなった。やはり関係があるようだ。

「とりあえず上にも伝えておこう。しっかし青年、こりゃあまずい事になりそうだぜ」

「まあその時は、その時でしょ」

 2人は夜空を見上げた。

 月が、怪しい光を放っていた。






 同じ月を、その男も見つめていた。

 古い屋敷の庭に立つ男。屋敷の表札には『館林』と書かれている。

 そこへ、1人の男性がやって来た。

 金髪に、黄ばんだコートを着た男。彼はいきなり地面に腕を突き刺した。一旦掘ったのか、土は柔らかかった。

 突き刺した腕に血管が浮き上がる。何かのエネルギーを吸い取っているようだ。

 しばらくして、男は腕を引き抜いた。

「ごちそうさま」

 男の腕は、獣のような形に変わっていた。

・ヴァイル・・・作家の館林薫が暴霊となったもの。普通、暴霊は生前の肉体とは別に新たな肉体を生成して現世に留まるのだが、薫の場合は生前の肉体ごと蘇ってしまった。この場合、通常よりも身体能力を高めることが出来るが、死臭というデメリットを抱えてしまう。

 攻撃は長い爪、衝撃波、そして猛毒の液体を口から発射して行う。

 名前のヴァイルは英単語のvile(下劣な、堕落した)から来ており、ベストセラー作家という地位を確立しながら、殺人に味を占めて堕落した薫を表している。

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