神隠し
今日も講義を終え、悠真は友人の柏康介、持田祐二と一緒に大学付近のファミレスで昼食をとっていた。
「それで、運転手がパッと振り返ると……さっきまでそこにいた筈の女性が姿を消していたんだ!」
「怖ぇよぉ! 怖い話なんかするんじゃねぇよ!」
今日は祐二とっておきの怖い話を披露する日らしい。祐二は資産家の息子で色々な所を旅行している。その際、各地で知った怖い話を記録してこの様に友人に披露しているのだ。
康介には効果覿面だったようだが、普段本物の霊を相手に戦っている悠真には全く通用しなかった。今までも何度か怖い話はしているのだが、悠真を怖がらせることには未だ成功していない。今日も祐二は深いため息をついた。
「西樹をビビらせるのはやっぱり無理かぁ」
「え? 俺?」
「いやぁ、西樹はいつもビビらないからさ」
「あぁ、何か、ごめん」
言えるわけがない。暴霊と戦っているなどと。信用してもらえる筈がない。
「あ、じゃあコレ知ってる?」
「ん?」
「実はね」
祐二がそう言いかけた瞬間、真隣の窓ガラスをコンコンと叩く音が。話していた内容が内容なので康介と祐二は思わず叫んでしまった。店員と客の目が3人の方に向く。
ガラスを叩いたのは幽霊ではなく安藤。どうしてここが解ったのだろう。悠真は取りあえずバイト先の先輩だと説明し、臨時の仕事だと言って席を外した。
「あいつも大変だなぁ」
「え? ああ、そうか。祐二はバイトしなくても小遣いかなり持ってるからな」
「失礼な、僕もバイトはしてるよ」
「悪い悪い。で、次の話はどんなヤツよ?」
「ああ、そうだったね」
やや前のめりになり、祐二はとある事件のことを話し始めた。
「実は最近、とある神社でね」
「神隠し?」
安藤は悠真に事件の概要と、これからすぐにその現場に向かうことを説明した。
「しかもその神社、人を呼び寄せるらしいぞ」
「へぇ。じゃあ俺達も呼ばれてるんじゃないすか?」
「かもな」
付近の駐車場に停めておいた車に乗り込む。助手席に雑誌を置いていたので、安藤はそれをどかして悠真を座らせた。
場所は東京から離れた所にある。関東圏内なので2、3時間ほどで到着出来るだろう。
悠真がシートベルトを締めたのを確認して、安藤はエンジンをかけて車を走らせた。平日だからか今日は道が空いている。これならもう少し早く到着出来そうだ。高速道に入ってからもやはり車は少なく、渋滞にも引っかからなかった。
「奴ら、とんだ罰当たりなことしやがるぜ。まさか神社を利用するとはな」
「そうですね」
神主が暴霊である可能性は高い。
聖職に就く者も暴走してしまうとは。墓守を辞めた者の中にも神主や潮来になる者がいる。世の中、誰が暴霊になっても不思議ではないということか。当然悠真も安藤も、それに親友の柏康介や沖田恵里も、充分暴霊になりうるのだ。
そんなことを考えている内に、車は高速道を抜け、いよいよ問題の神社に向かうことになった。予想よりは早かったがそれでも時刻は午後4時を回っていた。初めは街中を走っていたため周りも賑わっていたが、徐々に人気が無くなり、暗い山道に入った。偶に一軒家がある程度。殆どは別荘か何かだろう。
直進すると森を抜け、今度はあぜ道に出た。何とか車が往復出来る幅の道。辺り一面田んぼで、その中に数軒家がポツンと建っている。そんな様子なので、2人が目指す神社はすぐに解った。この一帯では最も大きな屋敷。周りを白い壁で覆われている。有り難いことに隣には駐車場らしきスペースも。何とも奇妙な光景である。
屋敷に近づき、駐車場に入る。何と中には既に数台の車が。殆どはワンボックスカーで、数えてみると全部で6台。隣に空いたスペースに車を停め、2人は外に出た。3時間ぶりの外の空気だ。都会と違って自然が多いため澄んでいる。
駐車場から出て境内に入る。妖しい気は無い。何の変哲もない神社だ。ただひとつ違うとすれば、境内のあちこちに狐の石像が安置されていることか。
「狐、か」
石像を眺めていると、神主らしき男が戸を開けて外に出て来た。
「ああ、どうも。お友達は先にいらしてますよ」
「え?」
「さぁさぁ、どうぞこちらへ」
訳の分からないまま、悠真と安藤は中へ案内された。
建物の中は掃除が行き届いている。狐の石像は無い。
「私はここの神主の中山羽孫と申します」
「どうも。安藤です。こっちは」
「西樹悠真です」
自己紹介したは良いが、自分達はどういう理由でここに案内されたのだろう。
暴霊が降霊術師の僕だとしたら、ここに案内して2人を殺すつもりなのかもしれない。念の為、悠真と安藤は武器に手をかけた。
「こちらです」
何が待っている? まさか、術士達がいるのか?
ところが身構える2人の目に飛び込んできたのは、その誰でもなかった。居るのは8人の男性だけ。歳は皆20代だろうか。
彼等からは怪しい念も感じられない。一般人らしい。呆気にとられていると、その中のリーダーらしき男性が悠真と安藤を呼んだ。太っ腹の男で、外は寒いというのに着ている服は汗で染みていた。
「もしかして、あんたらも鹿島さんの知り合い?」
「鹿島?」
「ええ。この会を主催してる人。なんだ、てっきりお2人もそうなのかと」
「会って、これ、何の集まりなんですか?」
それを尋ねると男達は納得したように溜め息をついた。そして、
「本当に何も知らないんだなぁ。ここは、百物語の会なんですよ」
「百物語、ですか」
何となく、今回の事件の概要が見えてきた。
まだ憶測に過ぎないが、この神社が人を呼び寄せているのではないらしい。むしろ逆に、霊の方が呼ばれているのかもしれない。百物語のように怖い話をしていると、霊達もそれに吸い寄せられてくるという話はよく耳にする。今回も同様で、その中に偶々危険な霊がいただけなのかもしれない。
だとしてもここで帰るわけにはいかない。悠真の仮説が正しければ、暴霊はまた彼等をさらいにやって来るかもしれない。なら、今日中に浄霊を済ませた方が良い。
「あの、宜しければ」
「こりゃあ奇遇だなぁ!」
隣の男の奇行がまた始まった。悠真も思わず2度見する。
「いや実はね、私達はオカルト雑誌の記者でしてね。もし良かったら皆さんの話を載せたいのですが、よろしいですかね?」
「雑誌記者? なんだ、凄い人達じゃないですか!」
「喜んで! 是非お願いします! 我々と一緒に、百物語中に巻き起こる怪現象を調べましょう!」
何と簡単に許可を貰えてしまった。当初の目的が果たせるので悠真も安心したが、ふと後ろに目をやると、神主の中山が青ざめた顔をして立っているのが見えた。
「ど、どうしました?」
「いや、あなた方、雑誌記者だったんですね」
「え? ええ、まぁ。僕は助手ですが」
「いや、最近ここで変なことが立て続けに起きてましてね」
そう言うと神主は境内で起こる神隠しについて教えてくれた。
あまり人気が無く、敷地も広いこの神社。そのため何組もの若者達が百物語をしたいという依頼をしてくる。別に断る理由も無いため神主はそれを許可するのだが、会が行われる度に参加者達が姿を消してしまうのだという。挨拶無しで帰ったのかと駐車場に行ってみると、車はまだそこに停まったまま。何処かに出掛けたのだろう。そう考えはじめて既に2週間経過している。
この神主が暴霊なのではないのか?話しぶりから察するに彼は本当に神隠しの理由を知らないのだろう。しかしこうなると更に厄介だ。暴霊と思しき人物は他には居ない。
「あの、呉々もここの名前は」
「はい、名前は伏せますから」
悠真は安藤達が居る部屋に戻った。安藤は若者達ともう仲良くなっていた。彼にこんな能力があるとは正直驚きだ。
「おお、青年! 色々教えてもらったぜ!」
「そうですか」
悠真は改めて、若者達の中心人物に挨拶した。名前は中村浩一郎。小太りの男で年齢は27歳。他のメンバーとはオカルトサイトで知り合った。
「みんな取って置きの怖い話を持ち寄って、掲示板に書き込みしているんです」
「へぇ、そうなんですか」
一応悠真は記者の助手という設定だ。関心を持ったふりをしなければ。
「ある日、鹿島さんって人が俺達に百物語をやらないかって誘ってくれたんだ」
「鹿島さん?」
「ああ。ハンドルネームだから本名ではないかもしれないけど。兎に角その鹿島さんが俺達にここを薦めてくれたんだ。1週間前に」
鹿島。神主の疑いが晴れた今、この存在が最も疑わしい。ネット上でオカルトフリーク達を集め、その魂を奪い取る。こんな予測が立つ。
鹿島は何処にいるのだろう。何処かで自分達を監視しているのか、それともこの中に居るのか。知る方法はただ1つ。自分達も百物語に参加するのだ。
「あの、せっかくですから、百物語の内容を記録させていただけませんか?」
「ええ、喜んで」
中村は快く承諾してくれた。当然記録する道具など持ってきていない。取り敢えず携帯のレコーダーを使って録音だけすることにした。
悠真はチラッと安藤を見る。安藤は他人に解らないようこっそりと親指を立てて彼を賞賛した。これなら浄霊も出来そうだ。
「では、21時からのスタートとします。皆さんそれまでにはここに集まってください」
各々車内で仮眠をとり、夜中まで続くであろうこの会に備えた。
そうこうしているうちに、あっという間に時刻は夜9時。
参加者は全員5分前に集まった。唯一ギリギリのところで部屋に入ったのは安藤だ。彼は自分の役を理解しているのだろうか。中村も、他の7人もむっとしている。
百物語というと蝋燭を並べている図が浮かぶが、彼等はそうはしない。火事を起こさないためだ。
「じゃあ、皆さん揃いましたし、始めましょうか」
「ええ。初めは誰が?」
「そうですねぇ、じゃあリッキーさんから」
中村以外はハンドルネームで呼び合っている。大柄のリッキー、理系の大学生のエジソン、バイトを休んで来たケイスケ、作家志望のケイゴ、妖怪オタクのキタロー、老け顔の乙三、そして実家が農家のリンゴ。この順に話をする。中村はリンゴの後だ。
レコーダー機能をオンにする悠真。今のところ異変は無い。各々怖いと思っている話を展開する。残念ながらどれも悠真には恐ろしく感じられない。だが彼等の機嫌を損ねることになるので怖がる芝居をする。面倒な仕事だ。
「実は昔、その倉庫で自殺した奴がいたらしいんだ。事件以来、バイト先の店長はコロコロ変わってる。俺にも話は来たけど、怖いから拒否してるんだ」
ケイスケはニヤニヤしながら話を進める。彼がバイトを休んだことには別の理由もあるようだ。
今の話で漸く半分。先は長そうだ。安藤はというと、話を聞くことなく手を組んで眠っている。悠真は深い溜め息をついた。携帯片手にずっと話を聞いているというのに、相方は……。
それから更に話は進んだが、73話を過ぎてから8人の調子が狂い始めた。どうやらネタが尽きたようだ。全員何かないかと必死に記憶を辿っている。
「うーん……あ、そうだ! ねぇ記者さん!」
中村が悠真を呼ぶ。嫌な予感がする。
「記者さんも色んなところに行ってるんでしょ? 何か無いの?」
急に馴れ馴れしくなった中村。イラッとする。しかし、これは良いチャンスかもしれない。悠真はある話を語り始めた。
「実は、ある神社で百物語をした人達がいたらしいんです」
そう、ここで起きている事件の話題だ。悠真が見たいのは他人の怖がる顔ではない。話を聞いた後の8人の反応だ。自分は既に気づいている。そのメッセージを暴霊に伝えるのだ。
ところが、顕著な反応を示した者は誰も居なかった。怖がるどころか8人は興奮してしまった。
「なるほどぉ! もしかしたら、今回も起きるかも、ですね!」
「うわぁ、楽しみだなぁ」
テンションの上がる参加者達。掲示板で既出の話でも構わない。兎に角100話を目指そう。彼等の目標はそれに変わったらしい。
再び溜め息をつく悠真。ふと扉に目をやると、戸が少し開いていて、神主が悠真を不安そうに見つめている。しまった。彼を忘れていた。トイレに行くと言って部屋を出、悠真は神主を説得した。
「頼みますよ。呉々もこの神社のことは」
「大丈夫です。名前は出してませんから。ここの名前は絶対出しませんから」
「そうですか? なら良いんですが」
神主は自身の部屋に戻っていった。
さて、自分も会場に戻らねば。戸に手をかけた、そのとき、
「うわぁっ!」
1度だけ悲鳴が聞こえた。短い悲鳴だ。まさか、もう暴霊が動き出したのか。悠真は慌てて戸を開けて中に入った。
中には誰も居ない。安藤の姿も無い。
「安藤さん? 中村さん?」
『くくくく』
声がする。肉声ではない、少々ノイズの混じった声だ。部屋の中をキョロキョロ見回す。音源は……
「そこか!」
ポケットからペンデュラムを取り出し、自分の携帯に向けて投げた。普段はダウジングに利用するが、この様に邪気や暴霊を祓うことにも使用出来るのだ。
携帯の画面から黒い霧が吹き出し、それが人間の形を取り始める。8人の中の誰だ。
「くくくく」
「ぁあ?」
「命拾いしたな、小僧」
「お前、誰だ?」
霧がとった姿。それは、メンバーの誰でもなかった。
部屋にいたどの人物とも違う姿をとった霧。中年男性で、陰陽師のような姿をしている。顔は化粧で真っ白に染まっており、その素顔は解らない。
おそらくこの男が失踪事件の犯人だろう。男は手に9枚のお札を持っている。今姿を消した人数と同じ数だ。
「鹿島ってのはお前か」
「私が人を呼ぶのではない。人の言の葉が私を呼ぶのだ」
「差し詰め、言霊みたいなもんか」
「さよう」
悠真の予想は概ね当たっているようだ。この暴霊は百物語をする人間達の所へ寄ってきていたのだ。何故この神社での活動が最も多かったのかは不明だが。
「さぁ、あとはお前だけだ。お前のような美しい心を持った人間は初めてだ。楽しみよのぉ」
「ああ、俺も楽しみだ!」
ここで、悠真は刀でを陰陽師に斬りかかり、相手のバランスを崩した。その隙にペンデュラムを拾い上げ、暴霊に向けて投げた。邪気を祓う力が作用したのか、陰陽師の持つ札、更に彼が隠し持っていたであろう札が紫色の光を放ち始めた。すると、その光の中から何人もの若者達が飛び出してきた。中には安藤もいる。皆何が起きたのか全く解らない様子だったが、陰陽師の姿を見ると驚いて部屋から一目散に逃げ出した。
「青年!」
「何やってるんすか?」
「ああ、すまん」
「くっ、この、クソガキ……」
陰陽師が悪態を付いて立ち上がる。
この話し方。彼は平成の世に生きていた人間らしい。今までの話し方は、彼なりに設定を作っていたということか。
「よくも、よくも俺のコレクションを、奪いやがったなぁ!」
陰陽師が青白い炎に包まれ、遂に暴霊としての本性をさらけ出した。
服はボロボロになり、人間ではなく狐の姿をとる。額には口がついている。また、尾は9本生えている。その姿を見て、悠真は何となく、霊がこの神社を選んだ理由が解った気がした。
暴霊は散らばった札を拾って悠真と安藤に見せつけた。
「ここまで集めるのにどれだけかかるか解るか? ぁあ? おい! どうなんだよ!」
ただのコレクターだったらしい。降霊術師との接触は無いようだ。
馬鹿らしくなった悠真は、自らも青白い炎を発動して0に変身、とっとと浄霊を済ませることにした。
「全く、コレクションするならもっとマシな物にしろよ!」
0の刀から衝撃波が放たれる。しかしそれは、暴霊が札を使って発動したバリアに遮られてしまった。札は役目を終えると真っ2つに切れた。
「うるせぇんだよガキ! 金稼ぐのが面倒なんだよ!」
懐から扇を取り出し、暴霊が0に迫る。しかし興奮しているためか、自身が0の射程圏内に入っていることに気づいていなかった。おかげで暴霊は衝撃波の餌食となり、部屋の縁側を越えて外に飛ばされた。すぐにそのあとを追い、墜落した暴霊目掛けて衝撃波を放つ。
「ちぃっ、何しやがる!」
「あんたの逝くべき場所を示す。それが俺達の仕事だ」
「逝くべき場所だぁ? ふざけんじゃねぇ!」
暴霊がおどろおどろしい雄叫びをあげると、その場に狐火が現れた。全部で8体だ。扇を0の方に向けると狐火らが彼に襲いかかってきた。
刀では戦い辛い。武器を連射式の銃に変え、無尽蔵に装填される銃弾を狐火目掛けて放った。弾は全て命中し、狐火は霧のようにスッと消えてしまった。
続けて暴霊に向けて銃弾を発射する。先程のように札のバリアを形成するが0のペースについていけない。とうとう札が切れ、暴霊は銃弾の餌食となった。
「くっ、畜生!」
「おいおい、さっきのノリはどこ行っちゃったんだよ?」
「うるせぇ! 馬鹿にしやがって!」
扇を使い反撃に出る暴霊。0は瞬時に武器を楯に変えた。暴霊はそれに直撃して派手に吹き飛ばされてしまった。
今回の暴霊、犯行の手口はなかなか恐ろしいが戦闘は不得意のようだ。墓守の存在を知ったのもこれが初めてなのだろう。
再度武器を銃に変化させ、銃口を暴霊に向ける。相手は疲れきっていて動けずにいる。
「さぁ、そろそろ終わりにしようぜ」
「ぐっ……なんてな!」
引き金を引く直前、暴霊は至近距離で狐火を発動した。狐日は銃口に吸い込まれると内部で爆発、0は手を負傷した。鎧のおかげで傷は深くはならないだろうが、今の衝撃のせいで武器を落としてしまった。
その隙に暴霊は高くジャンプしてその場から逃げ去った。安藤が短剣を投げるが、それも全て躱されてしまった。
「青年、大丈夫か?」
「ええ、なんとかね」
幸い大きなダメージは受けなかったが、暴霊を逃がしたことは大きなダメージとなった。
それから数日後。
悠真は柏康介、そして持田祐二と共にファミレスで昼食をとっている。
結局、あの暴霊の素性は全く解らなかった。悠真と安藤は鹿島と呼んでいる。また、あの神社についても現在調査中とのことだ。もしかしたらあの見た目以外にも、鹿島と神社の間には何らかの関係があるのかもしれない。
「なぁ悠真知ってるか? どっかの神社で神隠しが」
「ああ、この前行ってきたよ」
「なっ、何だって? どうだった、どんな感じだった?」
「まぁ、何て言うか、それらしい雰囲気は醸し出してたかな」
神社の名前は2人には言わなかった。そもそもどんな名前だったか覚えていない。
とりあえず、自分が行ったときは何も起きなかったと説明した。墓守の話をしても変人扱いされるだけだ。
ほんの僅かな情報だけで祐二と康介は興奮していた。大学生だというのにまるで子供だ。
「よし、2人とも。今度そこに行こう」
「ええ? やめとけよ。そこの神主さん困ってたぜ?」
「そ、そうか。なんだ、百物語でもやろうと思ってたんだが」
「いや、やめとけ」
悠真は声をやや大きくして祐二に言った。いつになく真剣な様子の悠真に2人とも驚いた。
「まじで来るぞ、あっち側から」
「お、おう」
まだ鹿島が潜伏している。コレクションを再開したら、この2人まで連れて行かれてしまうかもしれない。友人を奪われるのは堪らない。
友を心配してのことだったが、気まずい空気を作ってしまった。悠真は笑顔をつくり、「なぁんてな」と言ってごまかした。
再び笑いに包まれる。このとき、悠真は更に気持ちを引き締めた。大切な人を守るために、自分も全力で仕事にあたらなければ、と。
・言霊・・・謎のコレクター(通称:鹿島)が暴霊となったもの。狐の陰陽師の姿をしており、人間の魂を札の中に封じ込めることが出来る。最後は0の攻撃を躱して逃げ去った。




