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 神田明宏と後藤は、廃墟の奥にある部屋に入った。巨大な空間で天井は無い。中央に王座があるが、誰も座っていない。

 2人が入ったのを知り、別の男が入ってきた。30代前半で、眼鏡をかけている。以前悠真と空中戦を繰り広げたあの男だ。

「主は忙しいのだ。それよりもお前等、馬鹿なことをしたものだな。お前等のせいであの墓守の力が発動してしまった」

「僕を巻き込まないでいただきたい」

 後藤が弁明した。

「ふん。海外での活動は認めるが、お前はまだ下っ端だ。それに神田、ろくに成果を上げていないお前を主がお許しになると思うか?」

 男は眼鏡の位置を直し、神田をあざ笑った。

 悠真と安藤の前に姿を現すも敗北し、安藤を監禁した際も失敗し、あげく勝手に後藤を引き連れて襲撃しに行ってこのざまだ。今の彼は功績を何1つあげていない。

 眼鏡の男は携帯を見ながら神田に話しかけた。

「主からだ。お前に最後のチャンス。あの墓守を殺せ。失敗したら、力を剥奪する」

「……承知した」

 用件を告げて、男は別室に入っていった。後藤は俯く神田を見てニヤニヤしていた。




 講義が終わり、沖田恵里はすぐに教室を出た。

 悠真が気がかりだった。ここ1週間、彼は大学にも来ていない。ひょっこり現れるのではないかと、これまで彼が出没した場所をまわって見るが、やはりどこにも悠真の姿は無い。

「恵里!」

 友人の木場佳代子がやって来た。今日は彼女達と買い物に行く約束をしていたのだ。

 悠真のことがあって恵里はその予定を忘れていた。自分を見た時のあの瞳。どうしても最悪の事態を考えてしまう。仮にそうだったとして、只の人間である自分には悠真を助けてやることも出来ない。

「早く! みんな待ってるよ!」

「あっ、ごめん!」

 佳代子に連れられ、恵里は門に向かう。待っていた他の友人と合流した直後、彼女は見た。反対側の歩道。そこに、はっきりと見えるわけではないが、悠真らしき姿が見えた。

 信号が青になり、車が行き交う。車が居なくなった後には悠真らしき姿も消えていた。

 彼の姿が見えたのに、恵里はちっとも安心出来なかった。





 その男、田村典明は都内の居酒屋で朝から酒を飲んでいた。しかし酔うことはない。彼はもう酔えない体なのだ。短髪で、アロハシャツに短パンといった出で立ち。夏らしい風貌の男だ。

 そこへ1人の男がやって来た。神田だ。やはり彼1人で探すのは難しいし、それにこの男は頼りがいのある霊だったのだ。

 神田が田村に1枚の写真を渡す。コップをテーブルの上に置き、田村がその写真を見る。

「ソイツを殺してほしい」

「ただの人間じゃあなさそうだな」

「ご明察。ヤツは墓守。我々の敵だ」

 墓守。以前他の術士から聞いたことがある。その術士は神田達の直接の上司にあたる。

 自分のような霊、暴霊を倒し、逝くべき場所を示す者達。田村にとっては迷惑極まりない集団だ。彼は現世を満喫している。確かに暴走しているのかもしれないが、それでも他の霊ほどではない。頼まれたこと以外はしていない。だから斬られる謂れも無い。

「出来るか?」

「……それは、俺に対する侮辱か?」

 何処からともなく、田村は大きな槍を取り出して神田に見せた。神田は満足すると、自分も墓守を探しに向かった。






 安藤と秋山は車に乗り、H・Yコーポレーションに向かっていた。

 昨日、悠真の件を平岩に報告した。事態を知った平岩は急遽2人に召集をかけたのだった。悠真の発動した力。恐れていたことが起きてしまった。

 すぐに会社に到着し、2人は中に入った。受付嬢が座ったまま会釈した。しかし、やはり案内するつもりはない。エレベーターに乗り、地下へと向かう。ここまで2人は言葉を交わしていない。

 地下に着くと、黒い廊下を進み、平岩の待つ部屋に入った。デスクの上には大量のファイルが積んである。彼も資料を読み、何かヒントが無いかと探していたようだ。その目は充血している。

「私も色々探してみたが、あの力を止める方法は記されていなかった。何しろ異例の事態だからな。他の、もっと古い文献を探す必要がありそうだな」

「すいません、俺のせいです」

 安藤は心を痛めていた。今の悠真は心を失っている。下手したら一般人も襲いかねない。

 対処法がわからなかったため、平岩は新しいプランを考えた。だがこれは、安藤にとって受け入れがたいものだった。

「浄霊の手順で、彼を止めるしかない」

「そんな! そんな事したらあいつは!」

 認めたくはないが、安藤は気づいた。そのやり方が悠真への負担を最小限に留められる。そう理解したのは、もうひとつの選択肢が浮かんだからだ。そちらの方法では、悠真は……。

 止められるかどうかはわからない。だが今はやるしかない。安藤は腹を決めた。

「わかりました。あいつは俺が止めます」

「安藤」

 秋山にも部下がいる。しかし彼の場合はチーム育成のために共に活動しているに過ぎない。1人の墓守と共に活動している安藤は、その相方への思い入れが強いのだろう。それ故、悠真と対峙するのは抵抗がある。

 平岩は静かに頷いた。彼の思いを理解したのだろう。秋山と安藤は平岩にお辞儀し、部屋を出て行った。一刻も早く悠真を見つけ出さなければ。

 ふと、安藤は沖田恵里のことを思い出した。彼女のことも忘れてしまっているだろうか。彼女には、このことを告げるべきなのだろうか。

「俺も手伝う。彼を殺さずに済むようにな」

「あいつは死なない。絶対にな」

 2人の墓守はタッチした。この仕事、何としても成功させなくてはならない。

 車に乗り込んで捜索を始めようとしたとき、秋山の携帯が鳴った。平岩だった。

『すまない、たった今新たな暴霊が現れた』

「暴霊?」

「何?」

 こんなときに暴霊とは。だが、もし悠真の心にまだ墓守としての意志が残っているのなら、悠真もそこに来るかもしれない。連絡は出来ないが今の悠真なら自分で暴霊を見つけられる筈だ。

 電話を切ると。秋山は運転席に、安藤は助手席に座った。エンジンをかけると、秋山はいきなり猛スピードで車を走らせた。






 神田からの依頼を受けて、田村はとある商店街に足を運んだ。今日はこの町の祭りがあるらしく、平日ながら大勢の客が足を運んでいた。

 彼はある作戦を立てていた。相手が墓守であるなら、こちらが探すのではなく、向こうから自分を探してもらう方が良い。そして、もっとも彼等の注目を浴びやすいのが、ここのように人が大勢いる地点だ。

「さぁ出て来い墓守。俺がぶっ殺してやる」

 槍を取り出し、田村は商店街の奥へと歩を進めた。

 そんな彼に自社製品を薦めてくる女性が1人。初めは笑顔だったが、彼が持つ槍を見て真顔になった。

「ちょうどいいなババァ。ウォーミングアップに、まずはあんたをやろう」

 そう言うと、田村は間を空けずに、その女性の腹に槍を突き刺した。目にも留まらぬ速さだった。槍を引き抜くと、同時に大量の血が噴き出した。

 様子を見ていた者達が悲鳴を上げて逃げ出す。田村はその中からターゲットを選び、同じように早業で殺傷していった。

 生前も死後も、この男は殺し屋だったのだ。だから殺人には何ら抵抗は無い。むしろ当たり前のことだと考えている。暴霊になったことで仕事の範囲も増え、彼は大喜びだった。

「さぁ、早く来ねぇとみんな死んじまうぜぇ? 墓守さんよぉ!」




 ちょうどその商店街には、

「恵里? どうしたの?」

「あっ、ごめん」

 恵里達が買い物をしていた。

 普段ならもっと楽しめただろうが、悠真のことが気になって買い物どころではなかった。

「今日どうした? 何かあった?」

「ううん、何でも」

 そう言いかけたとき、むこうから悲鳴が聞こえた。恵里達全員がそちらを見る。短髪でアロハシャツを着た男が見える。彼が持っているのは大きな槍。その後ろでは、赤い液体が花火のようにまっている。これは危険だ。花見をしていた全員が逃げ出す。その波に巻き込まれ、恵里は友人と離れ離れになった。

 男は確実にこちらに進んでいる。何回も暴霊を見たためか、恵里はそれほど恐怖していなかった。いつの間にか、周りにいた人は全て逃げ去っていた。

 男が恵里を視界に捕らえた。自分を見ても逃げ出さない彼女に関心しているようだ。

「よう姉ちゃん。早く逃げないと死んじゃうよ?」

 いや、逃げないのではない。逃げられないのだ。後ろに転がる遺体を見て、恐怖で足がすくんでしまったのだ。

「あーあ。勿体無いね。可愛いのに」

 槍を構え、田村が恵里に襲いかかる。転倒し、身動きが取れない恵里。思わず目を瞑った。

 田村の槍が彼女に向かう直前、田村の前に2人の、鎧を纏ったような姿の者達が立ちはだかった。アサシンとアヌビスだ。

 田村は2人を見ると舌打ちした。彼等が墓守であることはわかったが、探しているのは彼等ではない。槍を振り回して攻撃を仕掛ける。2人も武器で応戦した。だが相手は殺しのプロだ。2人の攻撃をいとも簡単に跳ね返し、隙をついて攻撃した。人間の姿のままでも、姿を変えた墓守と互角の戦いを繰り広げている。

「ちっ、何だこいつ!」

「邪魔すんなよクソ共。俺が探している墓守はただ1人!」

「墓守? まさか!」

「他所見すんな!」

 槍が容赦なくアサシンを襲う。友人の危機に、少し早いがアヌビスがステッキを槍にかえて立ち向かった。が、その攻撃も田村には効かなかった。相手の槍を叩き落とし、アヌビスの腹を突いた。鎧のおかげで大事には至らなかったが、その衝撃は鎧の中に伝わった。

「畜生!」

「安藤、罠だ! 罠を使え!」

「そうか!」

 アサシンは立ち上がると同時に鎖を放ち、暴霊の足を止めた。続いて短剣を投げて暴霊の両腕に突き刺した。その後アヌビスが立ち上がり、槍で相手の腕を突いた。短剣の刺さったところを突いたため、傷口は深くなった。これなら勝てる。そう思っていた矢先、背後から2人同時に攻撃を受けた。ナーガの攻撃だ。

 先日悠真を襲った怪人の1人。恵里は術士を睨みつけた。

 一方暴霊は両腕の短剣を引き抜き、側に投げ捨てた。するとすぐに傷口も塞がってしまった。この力、彼は死体から生成された暴霊だったようだ。

 殺し屋時代、逆に命を狙われることも多々あった。だからこうして怪我を負うことも少なくない。田村はもう慣れっこだった。

「全く、戦術だけかと思ったが、中身も屑だったみたいだな」

 田村が遂に青い炎を発動する。すると、彼の姿は見る見るうちに奇妙な姿の戦士に変わった。頭に大きく平たい帽子を被っている。その姿はカッパにも似ている。

 2体の強敵に挟まれたアサシンとアヌビス。恵里が見ても絶体絶命だということがわかった。

「西樹君……!」

 恵里は手を組んで祈った。何処にいるかもわからない友人に向かって。

 2体の攻撃はまだ続いている。2方向からの攻撃に墓守達は為す術が無かった。アサシンのバランスを崩し、転倒させる暴霊。敵はその首に狙いを定める。離れていた恵里は思わず目を瞑った。

 ハンマーが振り下ろされる。だが、そのとき、背後から攻撃を受けて暴霊が苦しみだした。ナーガがそちらを見る。一瞬恵里と目が合った。だが、彼はすぐに暴霊の方に目をやった。

 黒い霧に身を包んだ戦士。所々紫色の光が灯っている。

 悠真だ。光が戻った分以前とは違うように見えるが、やはり何処か冷たい印象を受ける。

「西……」

 恵里には目もくれず、0はあの霧を放った。今までの彼とは違い、狙いを定めていない。目に映る全てのものが攻撃対象らしい。

「へへへ、待ってたぜぇ!」

 黒い霧を素早く躱し、暴霊が0に攻撃を仕掛ける。0は武器を使わずにその攻撃を止め、更に暴霊に霧を浴びせた。霧の作用に苦しそうに悶えるが、暴霊はそれを自力で解き、再び襲いかかった。任務を遂行する。その意志だけが暴霊を動かしている。殺し屋としてのプライドが彼を現世に留めているのだ。

「この野郎!」

 槍を連続で突くもそれら全てを躱されてしまい、おまけに腹に1発蹴りを入れられてしまった。かなり強かったらしく、流石の暴霊も怯んでいる。

「ぐっ。野郎……」

 暴霊が動けなくなったと判断すると、0は次のターゲットを選んで霧を放った。それは、何とアサシンとアヌビスだった。2人は疲労が溜まっていたため霧に捕まってしまい、エネルギーを吸われ始めた。

「うっ! 止めろ! 止めろ青年!」

「西樹君、もう止めて!」

 恵里の言葉は耳に入っていないのか。悠真は向かって来たナーガ、そして暴霊にも霧を放った。霧が邪魔をして、2体は動けずにいる。

「安藤さん!」

「何でここにいる? 早く逃げなさい!」

「あ、足が動かなくて!」

「早くしろ! 今の青年は記憶が抜けてる! 君にも危害が及ぶかもしれない!」

「ぐうっ……隙ありっ!」

 ナーガの鞭が身動きが取れないアサシンの背中を打ち据えた。恵里に逃げるよう促すが、動くことが出来ない。アヌビスも槍で霧を払おうとするが上手く行かない。

「この前は失敗したが、今日はお前も殺してやる! お前の、相方の力を借りてなぁ!」

 更に打ち据えるナーガ。それを見た0は黒い人魂をナーガに向けて飛ばした。威力が強く、ナーガは商店街の入り口まで飛ばされてしまった。更に続けて大量の人魂がナーガ目掛けて飛んできた。

「西樹君!」

 0はやはり恵里の方は向かない。

 彼も疲れてきたのか、霧を解除し、今度はアヌビスとアサシンに狙いを定めた。

「え、俺?」

 アヌビスは棒を回して人魂をはたき落としたが、アサシンは弾を食らってしまい、その場に倒れた。弾で倒せないとわかると、今度は人魂を1つの塊にして放ってきた。これは棒ではかわせず、攻撃を受けて元の姿に戻ってしまった。

 もう動ける相手はいない。いるとすればそれは、沖田恵里ただ1人。

 0はゆっくりと、手を恵里に向けた。それを見てアサシンが慌てる。

「まずい!」

 逃げなければならないが、恐怖とショックでその場から動けない。手にはあの霧が集まってきている。

 狙いを定める0。だがそのとき、彼はまた苦しみだした。霧を消し、頭を抱えて暴れ出した。

 まだ彼の中には自分達の記憶が残っている。その思いを胸に、アサシンは0を止めに向かった。

 アサシンに飛びかかられ地面に倒される0。彼の手から逃れようと暴れているが、顔を見る度記憶が蘇り、脳の奥底から外へ稲妻が突き抜けてゆくような痛みが襲ってくる。

 苦しむ姿を見るのは辛い。だが、今でなければ、0を元に戻すことは出来ない。アサシンは相棒に叫んだ。

「おい、青年! 俺だよ! 忘れてんじゃねぇよ!お前が暴れると、担当の俺にも迷惑がかかるんだよ! 餓鬼のお前に賠償金なんか払えねぇだろうがぁ!」

 痛みに耐えきれず0が叫んだ。同時に黒い火の玉が手から飛び出し、その力でアサシンを吹き飛ばした。

 アサシンにトドメを刺そうとしたが、それを途中で邪魔する者が1人。恵里だった。恵里が目の前に立っていた。足が小刻みに震えている。やはり怖いのだろう。だがそれでも、眼はずっと0の方を向いていた。

「あなたの敵は、あの人達じゃない」

 記憶が戻り始めて苦しむ0に、恵里が優しく語りかける。

 2人の周りでは、ナーガと暴霊が陰に隠れて様子を見ていた。今か今かと、攻撃の瞬間を待っているのだ。そのことに2人は気づいていない。

「助けるんでしょう? 苦しんでいる人達を、助けるんでしょう?」

 恵里の言葉で、あのことが脳裏に浮かんだ。暴霊と化した4人の友を斬り、浄霊したことを。それを直に見たにもかかわらず、恵里は悠真を責めなかった。忌み嫌わなかった。憎まなかった。むしろ、彼の仕事を認めてくれた。

 ゆっくりと、頭の痛みが消えてゆく。恵里の言葉を皮切りに、今までの記憶が次々と蘇ってゆく。安藤との共闘、そして、安藤との出会いを。初めての浄霊。悠真は今のように暴走しかけた。そんな彼を救ってくれたのが安藤だった。忘れようとしていたあの日のこと。だがその日が無ければ、今の自分は居なかった。

「西樹君」

 ふっと、自分の身体が楽になった。痛みも引いていた。

「あいつらを、倒して」

「沖田……?」

 身体中に力が漲り、五感が研ぎ澄まされる。そのとき、恵里の後ろからナーガが飛び出し、襲いかかろうとした。

 狙いを定めた0が下ろしていた手を上げ、人魂を放った。黒い弾が恵里の頬を掠め、ナーガに直撃した。

「うあっ!」

 術師が地に落ちた。思ったよりもダメージが大きかったらしく、胸を押さえて悶えている。反対側からその様子を見ていた暴霊も迫ってきた。

「邪魔するな! ヤツは俺の獲物だ!」

 槍で0の胸を狙う殺し屋。すると、斜め前から別の槍が飛んできて、持っていた武器を落としてしまった。槍が飛んできた方向にはアヌビスが立っている。彼が手を伸ばすと、槍が手元に戻ってきた。アヌビスは倒れているアサシンを起こして言った。

「早くしな。相方、起きたみたいだよ?」

「え?」

 アサシンと0の目があった。今度は手を向けることはなかった。

「あ。安藤さん」

「あの子は俺が連れ出す。お前は早く、相方を手伝ってやりな」

 アヌビスは恵里の前までジャンプし、手を掴んだ。恵里を安全なところへ連れて行くと0に告げ、2人は逃げた。

 0はアサシンに近づき、深くお辞儀した。

「ご迷惑おかけして、すいませんでした!」

「後にしろ。今は奴らを潰さないと」

 頷くと、2人は背中を併せ、武器を構えた。アサシンは赤く輝く日本刀を、0は手に宿る黒い気を。その2人を睨み付け、ナーガと暴霊が構えた。

「安藤肇! お前をここで殺す!」

「良いぜ良いぜ、手強いヤツほど殺しがいがある!」

「おぉおぉ、色々騒いでらぁ。青年、サポート頼む」

「それはこっちのセリフですよ」

 それぞれが各々の相手に向かって走り出した。鞭のように手足を動かすナーガ。アサシンは手足の先に短剣を投げた。少しは痛みを感じたが、ナーガはすぐに攻撃に移ろうとした。しかし、動けない。短剣が建物の壁に深々と刺さり、身体を固定していた。建物が近い間隔に建てられたこの場所だからこそ出来た技だ。

 一方暴霊は槍を振り回して技を相手にぶつける。0は黒い気でバリアを形成、全ての攻撃を無効化した。その後黒い弾を連続で撃ち、相手の武器を破壊してやった。

「こいつ!」

「悪いな」

 先程の暴走は何処へやら。新しい力を使いこなせるようになり、0は上機嫌だ。それに対して暴霊は冷静さを失っていた。商売道具が壊されたので、今度は肉弾戦に打って出た。だが、逆に人魂の塊をぶつけられてしまい、殺し屋は瀕死状態になった。

「まだ鈍ってなかったな、青年!」

 地面から鎖を出してナーガを固定し、アサシンが言った。

「何をする!」

「お前の紋章を、消すんだよ!」

 アサシンが刀を構え、固定されたナーガに切りかかった。0は奇妙な構えをして気を放出し、それを暴霊にぶつけた。その構えは、古来より語り継がれる霊の「うらめしや」の形に若干似ている。

 赤い刃が、黒い気が、降霊術師達を襲った。ナーガの胸が輝いて紋章が浮かび上がった。それは輝きを増し、遂には花火の様に爆発してしまった。墓守の力を直接受け、そのパワーに耐えきれずに爆発したのだろう。

 紋章が破壊されると、神田は只の人間に戻った。暴霊も気に飲み込まれて爆発してしまった。

 力も、そして部下も失った彼に為すすべはない。悠真と安藤も元に戻り、元・降霊術師に迫った。

「さて、俺らと来てもらおうか」

「アンタらには聞きたいことが山ほどあるからね」

「くっ、ただ、ボランティアを……」

 自分が行ってきたことをまだボランティアだと言っている神田。安藤は彼の胸倉を掴み、拳で頬を殴った。

「まだわからねえか! 人に簡単に死ぬように仕向けることがボランティアな訳ねぇだろ!」

 再び胸倉を掴み、殴りかかろうとしたそのとき。

「くくくく、最高だな!」

 何者かが笑いながら歩いてくる。あの眼鏡の男だった。

「礼を言おう墓守。契約を解消する手間が省けた」

 男は手を広げて神田の方に伸ばした。その瞬間、彼の身体が黒い球に飲み込まれた。以前は見せなかった術。男が指を鳴らすと、球は白い稲妻を纏い、フェードアウトするかのように消えてしまった。

 強力な降霊術師の登場に気を引き締める悠真と安藤。その手には武器が握られている。

「可哀想に。おたくらのせいでアイツ、処分されるんだ」

「処分? ふん、つまり解雇だな。仕事が楽になるぜ」

「いいや。言葉通りの、処分だ」

 そう告げてから、男も黒い球に包まれ、霧のように去ってしまった。

 処分。その言葉が、2人の頭の中で回っていた。墓守の仕事は、やはり満足出来るものではないようだ。

 安藤は武器を短剣に戻して仕舞い、悠真の肩に手を押いた。

「ま、これで俺もクビにならずにすんだよ」

「そうですか。そりゃあ良かったですね。あ、本当にすいませんでした。何か、色々やらかしたみたいで」

「それは青年、君の彼女に言うんだな」

 悠真は顔を赤らめた。

 だが実際、悠真が真っ先に礼を言わねばならないのは恵里だった。彼女がいなければ、自分は再び暴走するところだった。

 悠真と安藤は、秋山が待っているであろう駐車場に向かった。その間、悠真はずっと、恵里のことを考えていた。今回の件もあるし、何処か食事にでも連れて行かなくてはならないな、と思った。

・沙悟浄・・・殺し屋の田村典明が変身する暴霊。槍を操る強敵で、生前も殺人を行っていただけあり身体能力も高い。

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