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金の王

 俺は王、金の王だ。

 俺は誰も知らない稼ぎ方を知っている。会社で働かなくともジャンジャン金が入ってくるのさ。

 どうやるか? 仕方ない、今日だけ教えてやる。それは、

「こうやるんだよ」

「うっ、ウワアアアッ!」

「……5392円。それがお前の価値か」





 ある日、悠真と安藤は車である場所に向かっていた。目的地はH・Yコーポレーション。大手企業であり、悠真達墓守の上層部でもある。何でも急いで解決しなければならないことがあるのだという。

「術を洩らした墓守の情報ですかね」

「さあな。俺はあまり聞いてない」

「信用されてないんじゃないですか?」

「なっ、青年」

 2人は黙り込んでしまった。

 あの建物が近づいている。普段なかなか会うことが出来ない上層部から直々に呼ばれるとは。余程のことがあるのだろう。降霊術師を生み出した墓守・Xの正体がわかったのだろうか。

 車を車庫の中に入れ、近くにあったエレベーターで地下に向かった。どうせ受付嬢は案内しないのだから別に構わないだろう。しかし、着いてからが問題だった。駐車場から下に降りると平岩の部屋から遠くなってしまうのだ。2人は降りたところに立っていた警備員に案内してもらい、平岩の部屋まで向かった。ロビーの彼女達よりも警備員の方が親切だ。

 部屋に入ると以前と同じように平岩雄一郎が椅子に腰掛けていた。緊急時だろうに彼は落ち着いていた。

「待っていたよ」

「驚きましたよ。平岩さんから俺らを呼んでくるなんて」

「ああ。実はな」

 平岩が2人を呼んだ理由。それは、彼等の想像していた内容とは異なっていた。

「我が社に、暴霊が潜んでいる」

「は?」

「社員の中に暴霊がいるのだ。正体はわからないがな」

「暴霊が?」

 平岩の話によると、暴霊が誕生したのは約2週間前のことで、知ったのはその3日後だったそうだ。確かに2週間前から無断欠勤する社員が増えていたらしい。彼等の自宅も調べたが、中には誰もいなかった。しかも履歴によれば、彼等はまだ退社していないことになっているのだという。つまり、社内で暴霊に襲われたのだ。それなら墓守である平岩にもわかるはず。その気配が全く無いとなると、暴霊はいったい何をしているのだろう。

「私も暴霊を追ったが、見つけることは出来なかった」

「でも、何で暴霊の仕業だと断定出来るんですか?」

「彼が教えてくれたのだ」

 平岩は自分の隣を手で示した。しかしそこには誰もいない。戸惑っている悠真達を見て、平岩はニヤリと笑った。

「暴霊はそのエネルギーで肉眼でも見えるが、普通の霊は墓守でも見えないのだよ」

「ああ、なるほど」

 暴霊は字の如く暴走した霊。魂が具現化した存在であるため一般人にも見えるし、日常生活にも簡単に溶け込める。しかし、全ての霊が暴霊になれるわけではない。普通の霊も世の中には確かに存在するのだ。彼等の場合は墓守でも姿を見ることは難しい。墓守は暴霊専門の職業だからだ。

 その霊は若き日の平岩の相棒らしく、彼が社内に暴霊がいることを教えてくれたらしい。霊ですら暴霊の正体を解明出来ないのか。それでは悠真達でも浄霊は不可能ではないのか。

「都内ですぐに呼べる墓守は君達だけだからな。それに、今までも多くの暴霊を浄霊してきたのだから、やってくれると信じているよ」

 嬉しいやら悲しいやら。2人は依頼を聞き入れ、お辞儀をしてから部屋を出た。今度は以前の通路でエレベーターに向かった。

 暴霊は誰か。まさかあの受付嬢か。態度が悪いのは暴霊だからなのか。いや、彼女達は2週間よりもっと前からあのような態度だった。となると正社員の中に潜んでいるのか。社員が何人も行方不明になっていることからもその可能性は高い。いずれにせよ、一刻も早く暴霊を見つけ出さなければ。帰る前に、1度社内を見て回ることにした。






 さて、そろそろ始めよう。

「なあ、君。ちょっといいかな」

「はい。何ですか?」

 俺は社内でも割とイケメンの部類に入るらしい。この女が嫌な顔をしないで寄ってくるってことは本当なのだろう。

 いつものように屋上に連れて行き、向かい合った。目の形が妙だ。こいつ整形してるな? まぁいい。次はこう言うんだ。

「僕にとって君は、ダイヤモンド級だ」

「えっ? ほ、本当ですか?」

 頬を赤らめてやがる! 馬鹿な奴だ。これからどうなるかも知らないで。

「君を見たときからずっと思っていた。僕の物にしたい。なあ、頼む。僕の……」

「ぶ、部長!」

 完全に落ちた。こいつもちょろかったな。

「貯金になってくれよ」

「えっ? あっ!」

 叫ぶ間もなく女は金になっちまった。

 さて、こいつの価値は……107400円。なかなかやるじゃねえか。だが美を追求して何10万もつぎ込んで価値がこの程度じゃ、な。

 これが俺の、王のやり方だ。これからもジャンジャン稼がせてもらうよ。

「さ、仕事仕事」






 社内は綺麗で、隅々まで掃除が行き届いていた。社員は新しい製品の企画を考えたり、そのアイデアを発表したりしている。3階まで見て回ったが、社員の数はおそらく3000人以上いるだろう。この中から捜すのは至難の業だ。暴霊が襲っている姿を確認出来ればすぐなのだが。

「面倒くせぇ。毎日ここに通わなきゃならねえのかよ」

「そうカッカしないで、次の階に行きましょう」

「はあ、パチンコやりてぇよぉ」

 悠真と安藤は階段を上る。この会社は全部で4階、地下を含めれば7階あり、屋上もついている。

 4階も下と同じようだが、こちらには海外の企業と交渉を行う部屋が備え付けてある。ドアに長細いガラスがついているので中が見える。

「どうだ青年、暴霊は居そうか?」

「水晶があるんだから安藤さんも捜してくださいよ」

「最近動かない」

「ギャンブルに使うからですよ」

 こんな調子で大丈夫なのか。安藤の答えに悠真は落胆した。

  この上は屋上、調べなくても良いだろう。下に降りようとした、そのとき。

「何だ君達は?」

 上から声がした。

 見ると、30代前半の男性社員が降りてくるところだった。少し色黒で、なかなかの美男子だ。身体も鍛えられている。手にタバコのケースを持っているから、屋上で吸っていたのだろう。

「私服じゃないか。早く着替えて仕事にかかれ! 客は待ってくれないぞ?」

「いや、我々は社長の知り合いでして」

 安藤の言葉に男性の表情が変わった。

「な、なぁんだ、言ってくれれば良かったのに! すいません怒鳴ったりして! 私は企画部長の久我山と言います」

 男はニコニコしながら名刺を2人に差し出した。H・Yコーポレーション企画部長、久我山公彦。まだ若いのにかなり出世しているようだ。安藤とは大違い。悠真は横のギャンブル好きをチラッと睨んだ。公彦は墓守ではないらしい。墓守であれば悠真達のことを知っている筈だ。ケースを胸ポケットに仕舞うと、公彦は一礼してトイレに行ってしまった。

 屋上も調べる必要があるかもしれない。今の公彦のように日の光を浴びながら休憩したいという職員もいるからだ。また、好きな異性に告白する場として利用することもあるだろう。悠真と安藤は階段を上がって屋上に出てみた。時刻は午後5時。辺りは暗くなりつつある。ベンチと自販機が置かれた、柵に囲われた空間。ここには監視カメラが設置されていない。誰かを襲うにはうってつけの場所だ。

「どうですか?」

「いや、俺は霊感は無いからなぁ」

「安藤さんじゃなくて、水晶の方ですよ」

「何だよ、こっちかよ」

 安藤は水晶のペンデュラムを取り出し、垂らしてみた。反応はない。前にダウジングをしたときは反応したのだが。その後ギャンブルに使ったからなのか。

 悠真は安藤に歩み寄り、何も言わずにペンデュラムを奪った。安藤が取り返そうとするが、悠真は軽快なステップでそれをかわした。

「安藤さんじゃ難しいけど、俺なら上手く行くと思いますよ?」

 安藤がしていたようにペンデュラムを垂らした。

「あのなぁ、そんな簡単に回るわけが」

 言いかけて安藤は止まった。ペンデュラムが回っていた。水晶が自分より年下の、自分より下のランクの墓守の言うことを聞いたのだ。悠真は見下したような表情で安藤を見ている。

 安藤は悠真の教育係。弟子の成長は嬉しいが、何故か心の底から喜べなかった。

「お返しします」

「なかなかやるじゃねえか」

「まぐれですよ、まぐれ。確かさっきはこの辺を……」

 悠真は柵の下を探索している。水晶がそこを示したのだ。何を探せば良いのかわからないが、安藤も手伝おうとした。柵のあたりで屈んだそのとき、

「これ、なのか?」

「どうした」

「いや、水晶が指した場所を見たら、これが見つかったんですよ」

 悠真が見つけた物とは、何の変哲もない、ただの100円玉だった。誰かが落としたのだろうか。いや、自販機からは遠い。では転がってここまできたのか。それにしては額が大きい。100円玉だったら普通拾うだろう。それによく見ると、少し赤みがかっているように思える。錆びているのか。年数を見ると平成24年と書いてある。つまり錆ではない。気になった悠真は、目の前でペンデュラムを弄んでいる男からもう1度水晶を奪い取り、100円玉に近づけた。その途端、小銭が跳ねて飛んでいってしまった。まるで反発する磁石のようだ。

「あの金、何かありそうだな」

「はい。カメラがあれば良かったんですけどね」

「何で」

「暴霊が絞られるでしょうよ」

 悠真は水晶を返却し、先に階段を降りていった。安藤も慌てて跡を追った。






 あぁ、畜生! 10万ぽっちじゃ欲しい服が買えねぇよ。仕方ない、今日はもうちょい稼ぎますか。丁度、隣の個室に誰かいるからな。

「あっ、あの、すいません」

「え? はい」

「紙がきれちゃって。そちらのトイレットペーパーを貸してくれませんか?」

「いいですよ、はい」

 かかった! トイレットペーパーなんかに興味はない。俺が気になるのはお前の価値だ。俺の左手に掴まれた奴は俺の小遣いになるのさ。ほら、誰だか知らねえが、こいつも金になっちまった。いったい幾らになったんだ? 俺は壁を飛び越え隣の個室に入る。

 205341円。なるほど、まあましな方か。ん? いや、違う! 便器の中に万札が沈んでやがる! しかも3枚も。今日はとことんついてないな。俺は汚い金には触れたくない。この3枚は文字通り水に流そう。

 そうだ。物も触れば換金出来るかもしれない。俺は便座に触ってみたが、何も起きなかった。

「また久我山に怒られちゃったよ」

 ん? この声は、俺の部の奴か。2人いるらしいな。

「あいつが出世するなんてよ、有り得ないよな」

「何か、日に日に派手になってねぇ?」

 こいつら、陰でこんなことを言ってやがったのか! 確かに俺が出世したのは、前の部長を換金したからだ。でも、俺はアイツの倍は業績を残している。それを馬鹿にしやがって。こいつらも俺の小遣いだ!

 勢い良く扉を開けた。2人は立ったまま俺を見た。何も言わせねえ。纏めて換金してやる!

「あっ!」

「くくくくく、3051円」

「ご、ごめんなさい! だから、だから」

「うるせえんだよ!」

「あああっ!」

 2人とも金にしてやった。ほら、どっちも特に価値があるわけでもない。こんな奴等、とっとと換金すりゃ良かった。いや、こいつらだけじゃない。他の奴も金にしてやるんだ!







 4階に降り、悠真と安藤は久我山に会うことにした。こうして会ったのも何かの縁。もしかしたら、怪しい社員を見ているかもしれない。

 彼の部を探していたとき、2人の耳に女性社員の声が入ってきた。噂話をしているようだ。

「ねぇ、あの子辞めちゃったんでしょ?」

「そうそう、久我山さんに告られてね! これで5人目?」

「ふられた腹いせに虐めたんじゃない、久我山が」

「ああ、有り得るぅ!」

 悠真と安藤は顔を合わせた。あの噂話が真実なら。2人は1度駐車場に戻った。浄霊の準備をするために。近くのエレベーターで駐車場まで降り、車を探した。行きと違う場所に出てしまったのだ。その際、興味深い物が目に入った。黄色のフェラーリだ。しかも社員専用のスペースに置かれている。他の車はそんなに入っていないし、あるとしても地味な中古車だ。そのため、フェラーリは特に目立った。決定的だったのは、安藤の持つ水晶が車を指していることだった。

「ここで待とう。ここなら目立たず浄霊出来る」

「はい」

 2人は自分達の車に乗り込み、容疑者・久我山が来るのを待った。

 2時間後、エレベーターからヒョウ柄のコートを羽織った男性が出て来た。帽子も被っており、縁が銀色のサングラスを着用している。カバンには有名ブランドのロゴマークが描かれている。

 大分見た目が変わっているが、あれは間違いなく久我山公彦その人だった。ポケットからキーを出してボタンを押した。すると、フェラーリの扉が開いた。悠真達の読みは当たっていたようだ。乗り込む前に止めなければ。

「久我山さん」

「あれ、確か、社長の知り合いの」

「申し遅れました、西樹悠真です。こっちは上司の安藤です」

「ああ、どうも」

「早速ですが、久我山さん」

 悠真はコートの内側に備えていた刀を取り出し、公彦の方に向けた。

「あなたを、浄霊させていただきます」

 公彦の額から汗が滴り落ちる。暑いのではない。焦っているのだ。浄霊という言葉で公彦ははっとした。自分が既にあちら側の住人であるという自覚があるからだ。

「な、何ですか? 浄霊?」

「何故平岩さんが探索出来なかったか。勘ですが、あなたはその力で人を殺している訳ではなく、何かに変えてるんじゃないですか? 例えば、お金とか」

 屋上に落ちていた100円玉。紛失してしまったが、恐らくあれは人間だったものだ。平岩の探索から免れたのは、公彦が誰も殺していないからだ。彼は暴霊の力で人を金に変えていたのだ。推測の域を出なかったが、公彦の顔色が悪いところを見ると推測は当たりのようだ。

 更に焦った。コートの中は汗でびしょびしょだ。今日あったばかりの男達が何故自分の秘密を知っているのか。

 この2人をどうにかしなければ。そうだ。彼等は社長の知り合いだ。価値もかなりあるだろう。邪魔者を消すことができ、尚且つ金も稼げる。一石二鳥だ。まずは、換金する隙を作らなければ。

「な、何ですか? 子供みたいなこと言ってないで、真面目に仕事したらどうです?」

「ですって安藤さん」

「ふん。それはあなたも同じでしょう。きちんと仕事してお金を貰わないと」

「し、失礼な! 仕事はちゃんとしてますよ! 業績だって上がったんだ! 全く……」

 公彦が後ろを向こうとした瞬間、安藤は持っていたペンデュラムを公彦に投げた。水晶は矢のように公彦の方に進み、彼の左手に突き刺さった。あまりの痛みに公彦が吠える。

「あああっ! なっ、何しやがる!」

「それ、お化けにしか反応しないんですよ。ほら、傷口から火が出てる」

 公彦は左手を見た。水晶が深く刺さっており、そこから青白い炎が噴き出している。水晶を引き抜くと炎も一気に吹き出した。寄りによって左手をやられるとは。これでは換金出来ない。

「やっぱりアンタ、死んでるな?」

「お前ら、何が目的だ! 金か、金が欲しいのか? ぁあ? どうなんだよ、答えろよ、オラ!」

「それがあんたの本性か」

 悠真は刀を引き抜いた。

「俺達は、アンタみたいに暴れまわってる霊を止め、逝くべき場所を教えてやってるんだ」

「へぇ。そりゃあ、興味深いなぁ!」

 公彦が走ってきた。悠真も武器を構えて戦闘に入る。

 公彦が殴ろうとするのを刀で止めた。だが、何故か公彦の腕が硬く、切り裂くことが出来なかった。戸惑っているところを、もう一方の拳で殴られ体勢を崩してしまった。今度は大剣で攻撃してみたが、やはり切断することは出来ない。次は銃に変え、銃弾を公彦の体にぶつけた。だが全て弾かれてしまった。

「何だあいつ? 青年の攻撃が効いてない?」

「あんたらにもわからない事があるみてぇだな。じゃあ、親切な俺が教えてやるよ!」

 公彦の身体が炎に包まれ、暴霊の姿に変わった。頭は巻き貝を被った死体のようで、更に身体は貝や岩で覆われている。そう、この装甲のせいで攻撃が効かなかったのだ。左手は機械のようになっている。あれで人間を金に変えていたのか。

 あの身体から繰り出される攻撃を生身で受ければひと溜まりもない。悠真の身体も0の姿に変わった。暴霊は特殊な攻撃は出来ないらしい。今回は黒い姿で戦う。

 暴霊が走ってくる。あれだけ武装しながら走れるとは。体力がかなり高いようだ。0は大剣を斧に変えて攻撃した。刃を大きくすれば武装を砕けるかもしれない。何回も暴霊にぶつけてみるが、少し砕ける程度で、斧も刃こぼれしてしまった。更に重いため0の疲労が溜まりやすくなっていた。仕方なく大剣に戻し、暴霊の弱点を探った。

 安藤も戦いには参加していないが、0のサポートをしようと攻略法を練っていた。戦っている間にペンデュラムを拾ったが、自分の言うことを聞くかどうかは定かではない。だが先程は左手に突き刺すことが出来た。また助けてくれるかもしれない。安藤は戦っている2人の方にペンデュラムを翳してみた。

「頼む、あの野郎の弱点を教えてくれ!」

 ギロチンによる体力消耗が激しく、今は0が暴霊に押されていた。早く弱点を見つけなければ。そのとき、安藤の思いに応えるかのように、水晶が輝きだした。同時に暴霊も胸を押さえてもがきだした。押さえている箇所が光っている。0は剣で暴霊を突いた。その衝撃で手が離れ、鳩尾辺りで怪しく輝く物体が姿を現した。まるで真珠のようだ。

「青年! そこだ!」

「はい!」

 このチャンスを逃すまいと、0は弓を使って暴霊の動きを止めた。どうにか体を動かそうと暴霊は必死だが、力を吸収された今ではそう簡単に逃れることは出来ない。弓を構えて暴霊に迫る。そして射程圏内に入ったところで、真珠に向けて矢を放った。暴霊の動きが止まり、その場に跪いた。姿も人間に戻っている。

「かっ、金! 金が欲しい……!」

「それはもう、無理だ」

 0が矢を上から踏むと、公彦は炎に包まれて灰になってしまった。浄霊が完了したことを確認し、悠真も元の姿に戻った。

「何とかなったな」

「ありがとうございました」

「ふふっ、相方を死なせるわけにはいかねぇからな」

「どうも。……あっ」

 悠真が何かに気づいた。フェラーリや服など、公彦の買った物が輝き、人間の姿に変わった。20人は超えているだろう。きっと、公彦に換金された社員達だ。

「急ごう、ばれると面倒だ」

「はい」

 結果は後で報告すれば良い。2人は車に乗り込み、H・Yコーポレーションを後にした。

・ソリドゥス・・・嘗て金として使用された、石や貝を纏った暴霊。防御力にすぐれ、左手で人間を掴むと、基準は不明だが人間を金に変えることが出来る。

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