大乘蓮華寶達問答報應沙門經第五 ~流火地獄
寶達頃前更入流火地獄……
宝達は次に流火地獄にやってきた。
広はおよそ1400km。周囲は上空まで鉄の網に覆われ、内部は猛火でいっぱい。
溶けた鉄の塊がそこらじゅうにあり、炎と煙の流れの中を泳ぐようにうろついている。
西の門に600人の罪人たちの大きな悲鳴が上がっていた。体中が炎に包まれている。
「私に何の罪があってこんなところに……不条理、不条理ィィィ!」
沙門たちは口々に叫んでいる。
縛られており、動くにも跳ねて飛ぶほかない。彼らを苛む馬頭羅刹は、手からも耳・口・眼からも火を噴いている。
罪人たちの手足、いや頭までが刃物でバンバン切り裂かれ、飢えた犬がやってきてその肉を貪り食う。餓鬼がやってきて血をすする。さらに鳥がやってきて骨の髄まですすっていく。
馬頭羅刹の燃える手で掴まれれば、腕の肌が焼け焦げてたちまち、こういった連中の食べ物になってしまうのだ。
こんな状態が、夜となく昼となく続いていた。彼らは千回死に、千回生き返る。一万回死に、一万回生き返る。それでもまだ終わることが無い。
宝達は馬頭羅刹の一人に尋ねた。
「この沙門たちは、なんでこんな目に遭ってるんスか?」
馬頭羅刹の言うには、
「この坊づどもは前世で、出家し戒律を受けておきながら贅沢をしたんだ。器(鉢)を手にしてお布施を求めるときは『修行を続けるために命をつなぐ最低限』しか受け取ってはいけないのに、入浴剤や香の入った湯での入浴をさせてもらい、贅沢な楊枝(歯ブラシ)まで受け取った(注:このへん現代とはかなり違うものなんで意味がわかりにくいかもしれませんが、めんどくさいし内容の理解とあんまし関係ないので解説しません、興味ある方は自分で調べてください)。沙門の姿をしてはいるが贅沢を恥じる心が無いやつらだ。その因縁でこの地獄に落ちたのさ」
宝達は涙を流しながらつぶやく。
♪悪い因縁から開放されるために出家したはずなのに
地獄道・餓鬼道・畜生道の三悪道に生まれかわらないようにとそうしたのに
海で泳いでいて浮木にぶつかるような稀な確率に当たり火の中に戻ってしまった
苦痛からの解脱を求めていた修行者か今、大変な苦痛を受けている
宝達はつぶやき終わると、足早にそこを去っていった。
-つづく-