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「きっと、それは」のほかのおはなし  作者: 篠宮 楓
それは自分が鈍いのか?? 圭介と由比のデート
9/18

ひくり、と息が止まる。




その眼差しは、散策路で向けられた、あの――




意識した途端、背中に痺れが走る。

思わず声を上げてしまいそうになって、ぎゅっと唇を引き結んだ。

射すくめられるようなその視線に耐えかねて、距離をとろうと身体を後ろに引く。

するとそれまで私を拘束していた腕が簡単に外れて、とん、と板襖に背がついた。


「由比さん」


胸に手を当てて呼吸を整えようとしていた私を、覗き込むように上体を屈めた圭介さんが呼んだ。

唇に近い、吐息。

甘い、声。

いつもより、低音の、あの昼のような……

勝手に強張り始めた体のまま、小さく返事をする。

喉を振り絞っても、蚊の鳴くような声しか出ない。



何か、話を変えよう!

話題転換の術だ!

だって、そーじゃないと、馬鹿なこと口走っちゃいそうなんだもの!!


私は殊の外明るい声で、話を変えてみた。


「今日は、私の欲しいものをくれて、ありがとう! お金使わせちゃって、ごめんね?」


って、またお金の事言っちゃったしっ!!


口に出してからしまったと後悔しても、意味がない。

っていうか、昼の反省はどこに行った私!



目を合わせた圭介さんは一瞬驚いたように目を見開いた後、くすりと笑いを零した。

「また、お金のことを言う」

「……ご、ごめんなさい」

節約小市民なもので。


後悔してはみたものの、いい感じに甘い雰囲気が弱まった。


あぁ、よかった!

いい仕事したよ、私。


内心ガッツポーズで雄たけびを上げていたんだけど。


「由比さんが欲しいものをあげられて、私も嬉しい」


外れていたはずの圭介さんの掌が、私の頬に触れた。

――あ、あれ?

鼓動が早まると同時に、指先で頬を擽られて目を細めた。

そのままその指先が、唇をゆっくりと撫でる。

ふにふにと感触を楽しみように押しては、たまに唇の合わせ目に指先が侵入してくる。


ちょっ、ちょっ……っ


視線だけ上げて圭介さんを見上げると、やっぱりあの目で私を見ています!

今、甘い雰囲気、ほぼ消えたよね?

何でまた、復活した?!



「……嫌?」


嫌って、何が?

先生、主語下さい!!


脳内パニックは全く落ち着いてくれなくて、ぎゅっと目を瞑ったまま圭介さんの視線から逃げる。


「……俺の欲しいもの、くれる?」



ぽつりと落とされる言葉が、体の痺れを助長した。

足元から、背筋から、這い上がってきた不可解な痺れが意識まで侵食し始める。



主語いらない……っ

余計、追い詰められた……っ!



ばくばくと全力労働中の心臓が、オーバーヒートで壊れそうです。

顔が熱い。

真っ赤になっていること請け合い。



圭介さんの、欲しいもの。



きっと、それは――



私からの、キス。




いや、キスが嫌とかじゃないんですよ?

全くした事が無いのかといわれれば、付き合う前に、圭介さんとしたことあるし。

けどそれはこう勢いと言うか、要するに、“した”んじゃなくて“された”んだもの。


それだけでも精一杯なのに、自分からしろと!?

こんな甘すぎな雰囲気の中で?

どんなハードルの上げ方?!



相変わらず唇を撫でている圭介さんは、何も言わない。

きっと、私が気付いているのを知っているから。


私は一度ぎゅっと目を瞑ってから、勢いをつけて顔を上げた。

突然の動きに、圭介さんの指先が私から離れる。

そしてそのまま――、目も瞑っていない圭介さんの唇に自分のそれを思いっきり押し付けた。


うちゅっ


てな、感じで。



すぐに離れて、大きく息を吐き出す。


ややや、やった! やったよ、私!

任務完了!


ぎゅっと拳を握り締めてガッツポーズ体勢の私の後頭部に、大きな掌が副えられた。

「……ん?」

やっと甘い雰囲気から逃れられるとほっとしていた私の顔が、ゆっくりと持ち上がる。

そしてそのまま……


唇に、柔らかいものが触れた。

ドアップ圭介さん、付きで。



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