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「きっと、それは」のほかのおはなし  作者: 篠宮 楓
それは自分が鈍いのか?? 圭介と由比のデート
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「ちちち、違っ! 今のナシ! 忘れてっ!」


慌てて身体を離してシャツの裾を両手で掴むと、必死になって否定する。

圭介さんは私の肩から外れた手を見ながら、それを下ろした。


「じゃ、お金の掛からないものでお願いできますか? 由比さん」


うーあー、敬語だし! 

さっきとは違うだらだらと背筋を伝う汗に、脳内パニックに陥る。


「ごめんなさいっ! 本当に、今のはっ、そんな意味じゃなくて!」


するといつもの笑顔に戻った圭介さんは、分かってるから、と頭を撫でてくれた。


「意地悪してごめん。さ、行こうか。由比さんが喜んでくれるかなって思って、ここに来たんだから。堪能してもらわないと」

再びさりげなく肩にまわされた手に、先を促されて足が前に出る。

けれど罪悪感に苛まれていた私は、掴んだままのシャツの裾を引っ張った。

「あのね、あの」

何か、何か言わなきゃ。

そう焦れば焦るほど何も欲しいものなんて、浮かばなくて。

でも、もし何かもらえるのだとしたら……

「……なんでもいい」

「なんでも?」

いきなりの言葉に、圭介さんが首を傾げる。

「だから……、圭介さんが私にくれるものなら、その、なんでも……」

パニックと勢いのまま口にした言葉は、よく考えれば思いっきりおねだり状態だったんだけどその時の私は全く気付かなかった。

足を止めたまま私を見下ろしていた圭介さんは、ふんわりと笑うとぽんぽんと頭を撫でた。


「うん、分かった。じゃあ、私が考える由比さんが喜ぶもの。それをあげる」

だから、楽しもう? と言われて、私は満面の笑みを浮かべた。

「そしたら私も、私が考える圭介さんが喜ぶものをあげるね! それでおあいこ」

「私が喜ぶもの?」

「うん」

圭介さんは少し呆気に取られた表情をしていたけれど、目を細めて口元を緩めた。

「私の欲しいもの、由比さん分かるかな」

「え、分かるよ! 絶対当てる!」

今度こそ肩に触れた手に促されるまま歩き出すと、圭介さんは意地悪そうに口端をあげた。

「それは楽しみだ。是非とも当ててもらわないとね」

「うんっ」

ふふふ、絶対当てて驚かせるんだから。


やっと気まずい雰囲気が消えて、気持ちが浮上する。

せっかくの綺麗な風景、せっかくの圭介さんとのお出かけ。

楽しまなきゃ、もったいないよね。


上機嫌で圭介さんに促されるまま歩いていた私は、ふと視線を向けた先の湖に浮かぶ水鳥に目が止まった。

気持ち良さそうに浮いている姿が、あんまりにも可愛くて。

鼻歌でも歌いたくなりそうな状況に、頭の上から聞えた言葉をつい聞き逃した。

「……俺の欲しいものが分かったら、知らない振りは許さないから」

「……う?」

何か言ったのは気付いたけれど、内容まで聞き取れなかった。

ただ……なんか今、不穏な空気が駄々漏れてきましたが……


ゆっくりと斜め上にある圭介さんを見上げると、いつものほわほわ笑顔で私を見つめている。

「じゃ、お昼食べに行こう?」

「え?」

つい問い返すと、不思議そうな顔をされてしまった。

「あれ? まだお腹すいてない?」

「えっ、空いてる空いてます!」

慌てて返答しながらも、内心首を傾げる。


あれー? 私の勘違いかな?


なんとなくもやもやが残りつつ、圭介さんに提示されたお昼ご飯の候補を聞いて私の意識はするっとそのもやもやを忘れ去った。


あれ? 圭介黒すぎ?

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