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「きっと、それは」のほかのおはなし  作者: 篠宮 楓
それは自分が鈍いのか?? 圭介と由比のデート
2/18


「おはよう、由比さん」

ほわほわな笑顔が目の前にあって、起き抜けの私の頭は真っ白になった。





三月も終わりの晴天の今日は、お出かけ日和に誘われて外出している人が多いらしく、高速は渋滞ランプが点灯していた。

違えることなく同じ様に高速道路上を移動中の私達も、さっきからほとんど動いていない車の中だ。

「くっ、ふっ、ふふっ」

運転手にはまったく嬉しくないだろう状況のはずなのに、ハンドルを握る圭介さんからは抑えきれない笑いが漏れ聞えてくる。

私は助手席の窓から外を睨みつけるように眺めながら、指先を忙しなく動かした。


くぅっ、何たる失態。

「あ」

今更ながら口元を手の甲で拭って、よだれの有無を確かめてみたり。……って今更過ぎるわ!

内心の葛藤を余所に、じっと外を睨みつける態度は変えられない。

八つ当たりって言われてもいい!

だって、八つ当たりだもんね!!



翔太が卒業旅行と称して高校の友人と出かけるからドライブに出よう、と誘われたのが三日前。

わざわざ夕飯の時に言うもんだから散々翔太にからかわれて、恥ずかしいったらありゃしない。

泊まってくればとか余計な事言うから、変に意識してよく眠れなかったのだ。

昨日も仕事中に寝そうになって、桜に笑顔で肘鉄されてしまったというのに。

で、緊張したまま今日。

どこに行くのか言われないまま連れ出されたのが、朝の七時。

眠くなるよね!

どー考えても、眠くなるでしょ?!


で、ついつい居眠りしていた私の顔を、サービスエリアに休憩で車を停めた圭介さんが観察していたと。

って、いつの間に高速に乗ったんだ! そこもびっくりなんだけど!

とりあえず。



――圭介さんが悪いよね!?



朝からの行動を思い出して、再びむきーっと頭に血が上りかけた時、ふわりと温かい掌が頭の上に乗っかった。


それは宥めるように、ゆっくりと前後に動く。


「もうそろそろ機嫌直して? ずっとそっちばかり見られてると……」

……と? 切られた言葉の先が気になって窓の外を見たまま、続きを待つ。

「……入りたいのかなって、思ってしまうんだけどね?」

その言葉を聞いて今まで見るだけであまり認識していなかった窓の外の風景を、急速に認識する。

私が睨みつけるように見ていたお外には。


「高速の傍には多いんだよね、なんでだろう」


きらきらとかシックとかお城とか、いろんな某ホテルがありました。


って、あんまり見たことないけど、なんでこんなに沢山あるの!?

うーわー、噴水とか……


思わず珍しいものを見る好奇心で目が離せなくなっていた私に、いたって真面目な声が振ってきた。

「あ、本当に入りたかった? なら、そこの出口で降り……」

「ななな、何言ってんの!? そんわけないし! 違うし!」

慌てて圭介さんに顔を向けると、思いのほか傍にあった顔に驚いて身体を引く。

途端、頭と背中を助手席のドアにぶつけて、大きな音を上げた。

きょとんとした圭介さんの顔が、にーくーらーしーいーっっ!

その後の大爆笑に、私の八つ当たりゲージはマックスに振り切れた。








「そろそろ機嫌直して、由比さん」

さっきと同じ言葉を繰り返す圭介さんの声は、さっきよりも困惑気味に変わっていて。

本当に許して欲しいのが伝わってくるけれど、私は頑なにそっぽを向いたままだ。

っていうか、もうほとんど怒りとか冷めてるんだけど、なんていうの?

そう。

引っ込みがつかない。

ゆえに、怒っているつもりでぷんぷんとそっぽを向いたまま歩いているわけですよ。

圭介さんは私の後ろからついてきていて、困ったなぁと小さく呟いているのが聞えてくるんだけれども。


ずんずんと歩いている私も、実は一体どこに向かえばいいのかよくわからないまま足を動かしている。



うん、お願い。誰か止めて。



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