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「きっと、それは」のほかのおはなし  作者: 篠宮 楓
近づきたいと思うのは、付き合えば本能じゃねぇの?
13/18

桐原は、最近不機嫌だった。




超過保護偽兄貴と縋りつく腹黒偽弟を何とか出し抜いて、由比を手に入れたまでは良かった。

どんな僥倖、あの時まで信じた事もなかった神様って奴に、ほんの数%感謝した。


新人研修から気になっていた入社一年目の上条 由比は、ちまっこくて元気でそれでいて空気を読むある意味可愛い後輩だった。

空気の読み方に偏りがあるのに気が付いたのは、所属部署が隣で昼を食べる上条と都築の間に乱入するようになってからだが。

上条は、自分の事に関してだけまったく空気を読めない。

鈍いと一言で言ってしまえばそうなのだろうけれど、それだけじゃないことは薄々感づいていた。


自分に対しての感情、こと恋愛に関してどうしてこいつはこんなにも臆病なのだろう。


その理由は、付き合い始めてようやっと知ることが出来たけれど。

だから、無理強いとかしたくないんだけど。





……手を出したいのに、出せる雰囲気に持っていけない。



二十八歳桐原悟の頭を最近ずっと占めているのは、中学生か高校生かとでも突っ込みたくなるような悩み事だった。







「上条、まだ帰らないのか」

とある日の、夜。

桐原が帰ろうと室内の戸締りをして人事課を出ると、隣を使っている総務課のドアから光が漏れていた。

由比が電話番という名の残業当番だったのは昼食の時に聞いていたから、そのドアを何の躊躇もなく開ける。

残業は八時までのはずなのに、なぜ桐原でさえ帰ろうとしていた九時近くに由比がいるのかが不思議でならなかったのだ。

由比は突然開いたドアに驚いて顔を上げたまま、目をぱちぱちと繰り返す。

彼女の、びっくりした時の癖。


キスでもしたら、どんな反応を返すんだろうとそんな事を思いついて、桐原は内心苦笑した。

俺は好きな女苛める小学生か。

その通りとかふんぞり返って文句を垂れる皆川という鬼婆が脳裏を掠めて、ぶるぶると思わず頭を振って追い出す。

そして驚いて固まったままでいる由比に近づくと、徐にその頭に手を伸ばした。


「おい、聞いてるのか? ねずみ」

「……っ」

懐かしいあだ名を口にすれば、どこか拗ねる様に口を噤んで椅子から立ち上がった。

「聞いてますよ、桐原主任。もう帰ります。後は荷物を地下の倉庫に持ってくだけなんで」

机のわきに置いてある段ボールをポンと叩いて桐原を見上げる由比の言葉に、あっそ、と軽く返事をしてそれを小脇に抱え上げた。

「帰る準備しろよ。これ置いたら、アパートまで送るから」

驚いて遠慮する由比の行動を先読みした桐原は、さっさとパソコンの電源を切ると由比の荷物も片手で持って総務を後にした。



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