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丸刈り令嬢、トロールと暮らす  作者: 夢野カイ


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第8話:初めての狩り

 ある日、私は洞窟の隅に埋もれていた一本の弓を見つけた。ガルの遺品だ。弦はとうに切れ、木もしなっているが、手入れすればまだ使えそうだった。「ムウ、この弓は使わないの?」私が提案すると、ムウは複雑そうな顔で首を振った。


「オデ、ユミ、ダメ。スグ、コワス」


 ムウにとって、ガルの遺した「狩猟の技術」は、憧れでありながらも使いこなせない苦い思い出だったのだ。圧倒的な力を持つ彼女には、人間が知恵を絞って編み出した繊細な道具は、相性が悪かったらしい。


「わたくしが使ってみるわ。ムウは、見守っていて」


 私はガルの残した書物を頼りに、古い弓を修復した。さらに、書物に記されていた「小動物用の括り罠」をいくつも自作した。ムウの大きな手では千切れてしまうような細い蔓を、私は刺繍の経験を活かして慎重に編み上げていく。


 翌朝、私たちは意気揚々と森へ向かった。私は自作の弓を構え、茂みの奥のキジを狙う。だが、現実は甘くなかった。放たれた矢は、狙いより大きく外れて虚しく地面に突き刺さった。キジは一瞬で飛び去り、残されたのは肩を落とする私と、気まずそうに目を逸らすムウだけ。「……弓、難しいわね」


 その後も、私は何度も矢を放ったが、一匹の獲物も仕留めることはできなかった。筋力不足で手が震え、距離感も掴めない。夕暮れが近づき、私の腕は筋肉痛で悲鳴を上げていた。


「リサ、ツカレタ?ツヅキ、アシタ」


 ムウの優しい提案に、私は唇を噛んだ。知恵があれば、力がなくたって何でもできると思っていた。けれど、実際には基礎的な体力も技術も足りていない。現代知識も、実践できなければただの空想だ。


「……ええ。今日はもう帰りましょう」


 完敗だった。重い足取りで洞窟への道を戻る途中、私はふと思い出して、朝方に仕掛けておいた罠の場所へ立ち寄った。半ば諦めながら覗き込むと、そこには一羽の野ウサギが罠に掛かっていた。

「あ……!」「リサ、ウサギ!」ムウが歓声を上げる。私は呆然としながら、その小さな獲物を見つめた。


「ムウ、このウサギ、わたくしが捌くわ」


 私は短剣を使い、手際よくウサギを解体した。焚き火の傍らで、香草と一緒にじっくりと炙り、脂が滴るのを待つ。一口齧ると、噛みごたえのある肉の旨味と、自分の力で手に入れたという満足感が口いっぱいに広がった。


「……美味しいわ」「……ウマイ!」


 暗い洞窟の中、パチパチと爆ぜる火を囲んで、私たちは獲れたての命を分け合った。少しずつだが、できることが増えていく。弓も練習を続ければ、きっと当たるようになる。

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