第6話:黄金の檻
アステリア王国の王宮は、今日も眩いばかりの光に満ちていた。エリザベラが追放されて数ヶ月。王宮の運営を陰から支えていた彼女の不在により多少の摩擦は生じているものの、表面上は淀みなく回っていた。
「エドワード様、このお紅茶、とても美味しいですわ」
名画や金縁の鏡、精緻なタペストリーが壁一面を埋め尽くす、華やかなエドワードの私室で、聖女マリアは可憐な微笑みを浮かべた。彼女の銀髪は美しく整えられ、例の「エリザベラの凶行」の跡は早くも薄れつつあった。
「ああ。君が喜んでくれるなら、最高級の茶葉を厳選させた甲斐があったというものだ」
エドワードはマリアの指を取り、優しく愛を囁く。誰の目から見ても、彼らは運命の恋を成就させた理想のカップルだった。けれど、マリアの胸の奥には、最近、得体の知れない泥のような感情が溜まり始めていた。
(……退屈。死ぬほど退屈だわ)
マリアにとって、エリザベラという完璧な令嬢を追い詰めていく過程は、至高の娯楽だった。しかし、いざ宿敵を排除し、王子の寵愛を独占してみると、残ったのは代わり映えのしない優雅な日常と、薄っぺらな男だけだった。
さらに、新たな不安が彼女の心を蝕んでいる。最近、社交界にデビューした他国の姫君や、若き伯爵令嬢たちがエドワード王子に会釈するのを見るたび、マリアは喉の奥がヒリつくような感覚に陥るのだ。
(今のわたくしの『価値』は、エドワード様の『寵愛』の上にしかない……)
もしエドワード王子が自分に飽きたら?もし自分よりも若く、美しい新たな「ヒロイン候補」が現れたら?今の幸せを失うことへの恐怖は、エリザベラと戦っていた時よりもずっと切実で、生々しかった。マリアは自分が、他人が羨むほど幸せではないことを自覚していた。
だが、それでも。
(……いいえ。わたくしは勝者よ。丸刈りで追放されたエリザベラよりは、数千倍、数万倍もマシなはずだわ)
マリアは窓の外、遠くに見える山々を薄暗い瞳で見つめた。今頃エリザベラはどこにいるのだろう?惨めに這いつくばって死んだのだろうか。その想像だけが、今の彼女の空虚な心を唯一紛らわす慰めとなっていた。
鏡の中に映る自分は、まだ美しい。マリアはエドワードの肩に甘えるように寄り添いながら、必死に自分に言い聞かせた。これが欲しかった幸せなのだと。あのみすぼらしい敗北者とは違うのだと。




