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第37話:学問都市の日常


 リディアとの指導(特訓?)から数日が経った。


 ユウトはすっかり冒険者としての生活リズムを掴み始めていた。


 朝、フィンに見送られて宿を出て、ギルドの掲示板を眺める。


 自分にできそうな依頼を見つけては、街を奔走する。そんな毎日だ。


 薬草採取や荷物運びといった地道な依頼を着実にこなすユウトの評判は、ギルド内でも少しずつ広まっていた。


「あのD+の新人、見た目はひょろっとしてるが、仕事は確実らしいぞ?」


「ああ。この前なんか、俺が半日かかった配達依頼を、1時間で終わらせてたぜ!」


 そんな噂話が、酒場のテーブルで交わされるようになっていた。


 もちろん、本人はそんなこと知る由もなかったが…。


 その日も、ユウトは依頼を求めて掲示板の前に立っていた。


「うーん、今日はどんな依頼にしようかな…」


『ふむ、張り切るのは良い事じゃが、あまり根を詰めすぎるでないぞ。休息して体を整えるのも務めのうちじゃ』


 ポーチの中からエルディオが気遣うように言う。


「いやー、頭ではわかってるんだけど…、依頼を受けるのが楽しくてさー!」


 そんなやり取りをしていると…


「ユウトさーん! ちょっといいですか?」


 そんな時、受付カウンターのミリアが、ユウトに気づいて手招きをした。


「ミリアさん、どうしたんですか?」


「実は、ちょっと困った依頼が一件ありまして…。指名依頼ではないんですが、ユウトさんならどうかなって思いまして、声をかけさせて頂いたんです。」


 ミリアは少し困ったような、それでいて悪戯っぽく笑いながら一枚の依頼書を見せてきた。



【依頼】愛猫「ティティ」の捜索

・ランク:D

・内容:愛猫ティティを捜索、保護してほしい。

・特徴:青い瞳、ふさふさの白い毛並み。ただし、少々気難しい性格。

・報酬:銀貨10枚

・依頼主:マーサ・ブライトン



「…猫探し、ですか?」


 一見すると、よくある依頼だ。


 だが、報酬がDランクの依頼にしては破格の銀貨10枚。


 それに、ミリアの口ぶりも気になる。


「ええ。ただの猫じゃないんです、このティティちゃん…。実は『風猫ウィンディキャット』っていう、ちょっと特殊な魔獣の子供でして…」


「魔獣…!?」


「はい。成獣は風を操るんですが、子供のうちは、ただ『ものすごく素早い』だけなんですけどね。昨日からベテランの冒険者が3人がかりで追いかけてるんですが、誰一人捕まえられなくて…」


 ミリアは、はは、と乾いた笑いを漏らす。


 依頼主のブライトン夫人は街の有力者で、機嫌を損ねるわけにもいかず、ギルドとしても困り果てているらしかった。


「それで、ユウトさんなら、その、不思議な力で居場所が分かったり、その身体能力で捕まえられたりしないかなー、なんて…」


(俺の力、なんか変な風に伝わってる?)


 ユウトは苦笑いするしかなかった。


『ほう、風猫か。面白い。受けてみるがいい。良い訓練になるやもしれんぞ』


 エルディオも乗り気のようだ。


「分かりました。やってみます」


 こうして、ユウトは破格の猫探し依頼を引き受けることになったのだった。


―――


 教えてもらった依頼主の屋敷は、貴族街の一角にある白亜の壁が美しい壮麗な建物だった。


 出迎えた執事の方に名前を伝え、依頼を受けてきたことを伝えると、応接室へ通される。


 しばらく待つと、軽いノックの音と共に、初老の女性が姿を現した。


「お待たせいたしました、ユウト様。私がマーサ・ブライトンです」


 上品なドレスを身にまとっているが、その表情は心配の為か曇っている。


 愛猫のことで頭がいっぱいといった様子だ。


「ティティは、私の亡くなった主人が遺してくれた、たったひとつの形見なのです。どうか、どうか見つけてやってください…」


 事情を聞き、ユウトは改めて気を引き締める。


「ティティがいなくなったのは3日前の午後です。いつもは庭で遊んでいるのですが、ほんの少し目を離した隙に、塀を飛び越えてしまったようで…」


ブライトン夫人の話によると、ティティは好奇心旺盛で、特にキラキラしたものや、ひらひらと動くものに目がないらしい。


「ありがとうございます、ブライトン夫人。必ず見つけてみせます」


 有力な情報を得たユウトは、屋敷を後にして捜索を開始した。


 とはいえ、貴族街は道が広く、建物も大きい。


 闇雲に探しても見つかるはずがないだろう。


(さて、どうしたものか…)


『ユウトよ。わかっておると思うが、今回の猫はただの獣ではないぞ。魔獣じゃ。そして、魔獣というのは微かであっても必ず魔力を持っておる。…その魔力の残滓をたどることが出来れば、見つけられるかもしれぬな。』


 ポーチの中から、エルディオが静かにヒントを告げた。


「魔力の残滓…?」


『うむ。先日の月下草の採取の時に、お主はなにかを目印にして探しておったじゃろう? 察するに、あれも魔力を感知しておったはずじゃ。それに近い感じでな、実物がそこにあるわけではないが、残っている魔力の痕跡を見つけてたどるのじゃ。』


「うん…、なるほ…ど?」


『まぁ、いきなり実践というのも難しいじゃろう。しかも、相手は素早い風猫じゃ、今回はわしが残滓を辿り、方向を指し示してやろう。お主は全力で走れ、風猫の足は、想像以上に速いぞ?』


「了解! よし、お願いします!」


 ユウトは軽くストレッチをすると、地面を蹴った。


 心なしか、いつもより体が軽い感じがする。


 貴族街の石畳を勢いよく駆け抜けていった。


『もう少し先、あの角を右じゃ!』


 エルディオのナビゲーションを頼りに、ユウトは入り組んだ路地を疾走する。


 時には狭い通路を抜け、塀の上をよろよろ歩き、屋根によじ上ったところで…


「…いたっ!」


 とある骨董品店の屋根の上。


 風見鶏の隣で、太陽の光を浴びてきらめく何かを前足で転がして遊んでいる、白い毛玉を発見した。


 ふさふさの尻尾に、青い瞳、聞いていた特徴と一致する。


 間違いなくティティだ。


「見つけたぞ、ティティ!」


 ユウトが声をかけると、ティティはびくりと体を震わせ、次の瞬間、屋根から屋根へと飛び移り、あっという間に視界から消えてしまった。


「えぇー!なんて速さだ…!」


『言ったであろう。普通のやり方では捕まらんぞ?』


 呆然と立ち尽くすユウトに、エルディオが面白そうに言う。


「どうすれば…」


『ふむ…。単純な速さでは勝ち目はないし、力で押さえつけるのは悪手じゃな。…どれ、あれを試してみるか…』


 エルディオは意味深に笑うと、ユウトにある作戦を授けるのだった。



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