第3話:小さな村”ラルテ”
森を抜けた先に広がっていたのは、小高い丘の上に点在する素朴な建物たちだった。
木と石を組み合わせた家々。畑と井戸。獣除けの柵と木の杭。
薪の焼ける匂いが風に混じり、土と草の香りが鼻をくすぐる。
どこか懐かしさを覚える、静かで穏やかな空間だった。
村と呼ぶには小さすぎる集落だったが、確かに人々の営みがあった。
「ここが……村?」
ユウトがそう口にすると、隣を歩いていた少女――エリナが、うなずいた。
「うん……ラルテっていうの。お母さん、きっと心配してると思う……」
まだどこか不安定な表情のまま、彼女は小走りで村へと向かった。ユウトもそのあとを追う。
道端では、畑仕事の手を止めてこちらを見る村人たちの姿があった。
ユウトの姿――見慣れない異国風の服に、泥にまみれながらも整った顔立ち。旅人にしては身軽すぎる装い。
そのどれもが、村人たちの目には“異質”として映り、突然現れたよそ者に、村人たちの視線は警戒に満ちていた。
少し居心地の悪さを感じながら歩を進めると――
「エリナ!? どうしたの、その格好――」
村の中ほどにある家の前で立っていた女性が、悲鳴のような声を上げた。
「お母さんっ!!」
次の瞬間、少女はその女性の腕に飛び込み、しがみつくように抱きついた。
「おかえり…… 無事でよかった……」
女性は、震える手で娘の背をさすりながら、何度もその名を呼んだ。
ユウトは少し離れた場所で、その光景を安堵の表情で見守っていた。
そのとき、村の男たちがユウトのもとに寄ってきた。
「おい、あんた……旅人か? どこから来た」
当然の質問だった。けれどユウトには、答えようがない。
「……正直に言うと、よく分からないんです」
村人たちが顔を見合わせる。疑念と警戒の空気が、その場を包んでいた。
その緊張を破ったのは、エリナの声だった。
「お兄ちゃんが助けてくれたの!」
澄んだ声が、村の広場に響いた。
「森で、魔物に襲われて……! わたし、もうダメかと思ったのに……!」
「なっ、魔物だって……!?」
ざわめく村人たち。視線がユウトへと集まる。
「おい、魔物から逃げてきたのか?」
「魔物は? 村の方へ来てないだろうな?」
「ちがうよ!」
エリナが、一歩前に出て言った。
「お兄ちゃん、すごく強かったの! 魔物を、手でばーんってやっつけたんだから!」
その口調には、恐怖の名残とともに、どこか誇らしげな響きがあった。
「魔物を……倒した、だと?」
「ひとりで……? 本当に?」
ユウトは、黙ってうなずいた。
沈黙。
だがその沈黙は、やがて空気を変えた。
「命の恩人じゃないか……」
「エリナが無事に戻れたのは、あんちゃんのおかげだ」
「高ランクの冒険者かなんかなのか?」
緊張が少しずつ解けていく。
空気が和らぎ、尊敬と感謝の色が広がる。
ユウトは少し照れながら、口元をゆるめて答えた。
「……なんか、気づいたら体が動いてて。夢中だったけど……助けられて、よかったです」
その言葉に、誰かがぽつりとつぶやく。
「……すげぇな……ただもんじゃねぇ」
静かな共感が、村の中ににじむように広がっていった。
その言葉が、また一つ、誤解を生んでいくとも知らずに。
ちょっと投稿ペースを上げたいと思って頑張ってます、、が!
読み返すほどに、小さな修正が生まれてとにかく前に進まない…(*´ω`*)
こねくり回した挙句に元に戻ったりね… むぅ表現の難しさよ…