表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/49

第36話:師の独白と遠方への手紙


 ユウトが熱烈な指導を受けた、その夜。


 魔術学院の一室、リディアは自室のベッドに深く身を沈めていた。


 日が暮れるまで続いたユウトとの「訓練」で、身体は心地よい疲労に包まれている。


 だが、それ以上に、彼女の心は満ち足りた興奮と知的好奇心で燃えていた。


「ふふ…、はははっ」


 思わず、笑い声が漏れる。


 脳裏に浮かぶのは、今日のユウトの動き。


 こちらの力をいなし、柳のように受け流す、あの奇妙で美しい体術。


 常識では考えられない、素手でAランク冒険者の剣を捌くという離れ業。


「全く、面白いやつだ!あいつは…」


 呟きながら、リディアは自分の掌を見つめる。


 ユウトに教わり、その動きを真似てみたが、どうしても再現できない。


 力の流れ、体捌き、剣戟に通ずるものがあり、理屈は一部理解できるのだが、特に戦闘中の相手の力の流れをコントロールするという技は全く再現できなかった。


「あの体術に、門前で見せた奇妙な防御術…。それに、ギルドでの測定不能の魔力値。…考えれば考えるほど、面白い」


 リディアはベッドから起き上がると、机に向かった。


 このまま一人で考えていても、答えは出ないだろう。


 ユウトの力は、彼女一人の知識で解明できるものではない。


 ふと、脳裏に今は亡き師の言葉が蘇る。


『リディアは実践、フェルナは探求。お前たち二人が力を合わせれば、どんな困難な謎も解き明かせよう』


 懐かしい声に、リディアは自嘲気味に微笑んだ。


「…まさか、こんな形でその言葉を思い出すことになるとはな」


 ペンをインクに浸しながら、彼女は遠い地にいる、もう一人の弟子の顔を思い浮かべていた。


 自分とは違う形で師の教えを受け継ぎ、魔術や古代遺物の研究にその生涯を捧げている、優秀な研究者。


 リディアは、流れるような筆致で手紙を書き始めた。



『親愛なるフェルナへ


 息災か?


 こちらで、我らの師であるエルディオ殿の名を口にする、奇妙な少年と出会った。


 彼の名はユウト。


 師の魂をポーチに宿しているなどと、およそ信じがたい事を口にしているが、それ以上に、あいつの持つ力が常軌を逸している。


 お前の好きそうな研究対象だぞ。


 何せ、魔力測定ではエラーを吐き出し、魔法適性は『無し』と出た。


 だというのに、私の剣を素手で捌き、門前では魔法とは異なる原理で発動すると思われる、奇妙な防御術まで使って見せた。


 常識がまるで通用しない。


 至急、こちらへ来て、彼の力の解明に協力しろ。


 お前の知識と、その目で見たものを以てすれば、あるいは彼の謎の一端を掴めるかもしれん。


 詳しい話は、着いてからだ。


 待っている。


 お前の姉弟子、リディア・アークライトより』



 手紙を書き終えたリディアは、それを蝋で封をすると、窓辺に置かれた鳥かごのようなオブジェに近づいた。


 彼女が指で軽く触れると、オブジェは淡い光を放ち、中から光の粒子でできた鳥が現れる。


「頼んだぞ」


 リディアが手紙を差し出すと、光の鳥はそれを受け取り、窓をすり抜けて夜の闇へと溶けるように消えていった。


「さて、これでどうなるか…」


 窓の外に浮かぶ月を見上げながら、彼女は楽しそうに微笑む。


 ユウトという規格外の存在が、退屈だった日常に、大きな波乱と楽しみを運んできてくれたことを、彼女は心から感謝していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ