第32話:期待の新人?
「しょ、少々お待ちください。ギルドマスターに判断を仰いできます!」
ミリアはそう言うと、慌ててカウンターの奥へと姿を消した。
残されたユウトは、さらに大きくなった周囲の注目を浴びながら、ただ立ち尽くすことしかできない。
なんとも居心地の悪い数分が経った頃、ミリアは、恰幅のいい初老の男性を連れてカウンターに戻ってきた。
口元に蓄えられた立派な髭と、歴戦の傷跡が刻まれた顔が、ギルドの重鎮であることを物語っている。
「やぁ、リディア君、久しぶりだね。なにやら期待の新人を連れて来たとか?」
「ギルマス、ご無沙汰している。なに、少々訳ありだが面白そうな奴を見つけてな。期待できるのであればよいのだが?」
ギルド長とリディアは軽い挨拶と会話を交わす。
その様子からはお互いに深い信頼を感じられた。
「君がユウト君だね。話は聞いたよ。私はここのギルドマスター、ダグラスだ」
ダグラスと名乗った男は、豪快な笑みを浮かべながらユウトの全身を値踏みするように見た。
「リディア君がこれほど言うのだ、面白い逸材なのだろう。」
そういって、今度は記入された登録用紙に目を向ける。
「ほう…、魔力値が測定不能で…、さらに魔力適性が…無し…か。…なるほど、確かにこれは異質だな…。」
ダグラスは顎髭に手を当て、なぞるようにしばし考え込む。
その間ユウトは呼吸も止めて見守っていた。
やがて…
「ふむ…、そうだな。よし、決めたぞ!」
ダグラスは片手でカウンターをトンと叩くと、朗々とした声で告げた。
「本来、測定された筋力に従えば、君の初期ランクは『D』だ。冒険者として基本の駆け出しレベルだね。魔力値と適正についても、この時点ではプラスともマイナスとも言えない。魔力値はともかく、適正が無しということは、魔法が使えない可能性が高いからね。」
そこで一息ついた後、さらに続ける。
「…だが、Aランク冒険者であるリディア君の推薦ということと、計測できない魔力値。その未知数の潜在能力を考慮しよう。特例として、君には『D+』ランクを与える!」
ギルドマスターの決定に、周囲が再びどよめく。
冒険者ランクは、上がSから下はDまで5段階、そしてそれぞれの上位として+が加わり、全部で10ランク構成となっている。
冒険者としての駆け出しはDランク、一方で最上位のSランクはその審査の厳しさから、現状で数名しかおらず、S+などもはや伝説級である。
当然のことながら、登録したばかりの新人冒険者は、Dランクからのスタートが基本だ。
特例なんて話は、少なくともここにいる冒険者は聞いたことがない。
D+へのランクアップは、ある程度ギルド依頼を積み重ねれば半年程で可能であり、難易度としては決して難しいとは言えない。
…が、それでも登録時点でD+というのは異例なのだ。
それは、ギルドが彼の未知の可能性に「期待値」を上乗せした証拠に他ならない。
「ミリア、手続きを進めてくれ。プレートを作ってやれ」
「は、はい!ただいま!」
ミリアはダグラスの指示に元気よく返事をすると、慣れた手つきで銅製のプレートにユウトの名前とランクを刻印していく。
「はい、どうぞ!これが今日からあなたの身分証になる、冒険者プレートです!紛失しないようにしてくださいね!」
手渡されたプレートには、確かにユウトの名前と ランク「D+」の文字が刻まれていた。
こうして、ユウトは正式に冒険者の一員となったのだ。
ダグラスは満足そうに頷くと、「リディア君、あとは頼んだよ」と言い残して奥へと戻っていった。
騒動が一段落し、冒険者たちの視線も少しずつ普段の喧騒へと戻っていく。
そんな中、リディアはユウトに向き直り、今後のことについて話し始めた。
「さて、これで目的は果たしたな。ユウト、よく聞け」
「は、はい」
「私は学院の講師という仕事がある。四六時中、お前の面倒を見てやれるわけではない。むしろ、多忙でほとんど付きっきりにはなれないと考えろ。」
リディアは厳しい口調で告げる。
「だから、当面の間、お前は冒険者として依頼をこなし、この街と実戦に慣れるんだ。それがお前にとって一番の訓練になるだろう」
「冒険者として…俺一人で、ですか?」
「当たり前だ。パーティを組むにしてもお前の力は不可思議だからな、いらぬ問題を起こさないためにもソロの方がいいだろう。だが、心配はいらん。何かあればこのギルドに駆け込めばいい。ここはお前のような者のための場所だ」
ぶっきらぼうな言葉の中にも、確かな信頼が込められているのをユウトは感じた。
「分かりました。やってみます」
「うむ。…と言っても、いきなり無茶な依頼は受けるなよ。まずはランクと内容をよく見て、自分にできそうなものから選ぶんだ。分からなければ、そこのミリアに相談しろ。」
そう言って、リディアはちらりとクエストボードの方へ視線を送る。
そこには、薬草採取からゴブリン討伐、隊商の護衛まで、様々な依頼が張り出されていた。
「では、私はこれで学院に戻る。お前は好きにするがいい。クエストも今日から受けられるし、まだ慣れてない様であれば街を散策してもいいだろう。また後日連絡する。」
そういって歩き出そうとしたところで、ふと足を止め、振り返る。
「そういえば、泊まっている宿を聞いていなかったな。………なるほど、「陽だまりの丘亭」か、そこなら知っている。では、何かあればそちらへ顔を出すか使いを出そう。私に用があるときは、学院の守衛に伝えろ。私がいる時ならば通すように伝えておく。」
「あ、ありがとうございました!」
ユウトが頭を下げると、リディアはひらりと手を振り、今度こそ一人でギルドを後にしていく。
一人残されたユウトは、手の中にある真新しいプレートと、活気に満ちた依頼掲示板とを、期待に満ちた目で見比べるのだった。




