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第30話:冒険者という道


 ―――翌日。


 ユウトはフィンに見送られながら陽だまりの丘亭を出ると、昨日と同じ道を通り、魔術学院の門をくぐった。


 衛兵は昨日の一件を覚えていたのか、それとも指示を受けていたのか、軽く一瞥しただけで何も言わずに通してくれる。


 リディアに指定された応接室へ向かうと、彼女は既に席に着いて待っていた。


 テーブルの上には、昨日と同じように二人分のお茶が用意されている。


「来たか。時間通りだな。」


 硬い表情と口調は相変わらずだが、昨日感じたような刺々しさはもうない。


 ユウトは促されるまま、彼女の向かいのソファに腰を下ろした。


「さて、あまり時間がないのでな、早速だが本題に入ろう。今後の身の振り方だったな。まず結論から言うが、お前を今すぐ学院の生徒として受け入れることはできん。」


 リディアはきっぱりとそう告げた。


 ある程度予想はしていたものの、ユウトの表情がわずかに曇る。


「…やはり、難しいですか…」


「当然だ。学院は魔術と学問を学ぶ神聖な場。家柄や推薦状、そして何より相応の試験結果がなければ、入学は許可されん。お前にはそのどれもないからな。」


 リディアの言葉は正論だった。


 ユウトとて、昨日今日来たばかりの少年が、いきなり大陸最高峰の学府に入れるなどとは思っていない。


「それに…」と、リディアは言葉を続ける。


「昨日の様子を見るに、お前のその力は、学院で教える魔術の体系とは大きく異なるようだ。下手に教えれば、お前の持つ本来の力を歪めてしまう可能性すらある。」


 彼女はユウトの掌に視線を落とす。


 まるで、昨日のあの光の防御障壁が見えているかのように。


「だから、お前にはまず、この街…いや、この世界で生きていくための『土台』を作ってもらう。」


「土台…、ですか?」


「うむ。一つは公的な身分。そしてもう一つは、その力で人を、社会を守るための実戦経験だ。」


 リディアはそこで一度言葉を区切り、ユウトの目をまっすぐに見据えた。


「ユウト。お前には、冒険者になってもらう!」


「冒険者…?」


 その言葉に、ユウトは思わず息を呑んだ。


(冒険者っていうと…、あれだよな!ギルドに登録して、パーティー組んで、張り出された依頼を受けて、ダンジョンとか潜って、伝説のお宝見つけたりして…。物語の中だけの、憧れの職業…!)


 危険な仕事であることは間違いない。


 だが、自分の力を試し、人助けをしながら世界を知る。


 なんと心躍る響きだろうか。


 ユウトの心は、リディアの予想とは裏腹に、期待に満ちて高鳴っていた。


『ほう、冒険者か。確かにこの街で生活をするのであれば効果的じゃな…』


 ポーチの中から、エルディオが感心したように声をかける。


『ギルドに登録すれば、身分証明にもなるし、金の工面もできる。それに、各地の情報を集めるのにも都合がよい。お主のような若者が力を示すには、うってつけの場所じゃろう…』


「エルディオも賛成なんだな」


『うむ。反対する理由がないな』


 エルディオからのお墨付きも得た。


 ユウトは顔を上げ、決意を込めた瞳でリディアを見つめ返した。


「やります。俺、冒険者になります!」


 ユウトの力強い即答に、リディアはわずかに目を見開いた後、満足そうにふっと口元を緩めた。


 彼女はすぐに立ち上がると、ユウトに向かって手招きする。


「よし、話が早くて助かる。善は急げだ。早速、今から登録に向かうぞ!」


「えっ!? い、今からですか!?」


 あまりの展開の速さに、ユウトは素っ頓狂な声を上げる。


 お茶を飲むどころか、まだ一口もつけていない。


「当たり前だ。”思い立ったらすぐにやれ!”という言葉を知らんのか? 案内してやるから、さっさと立て!」


「は、はいっ!」


 有無を言わさぬその迫力に、ユウトは慌ててソファから立ち上がる。


 こうして、ユウトの意思とは裏腹に、彼の冒険者への道は、あまりにもあっけなく、そして急かされるようにして幕を開けるのだった。


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