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第28話:力の証明と秘密の言葉


「……私の名を知っているということは、エルディオ殿のことも調べたということか…」


 リディアの纏う空気が、さらに冷たく張り詰める。


「どういうつもりでここへ来たのか、じっくり教えてもらおうか!」


 言葉が終わるか終わらないかのうちに、リディアの姿が掻き消えた。


 否、常人にはそうとしか見えないほどの速度で、彼女は再び踏み込んできていたのだ。


 対話の意思など、最初からなかったかのように。


「なっ……!?」


 話を聞くのではなかったのか。


 その思考すら、リディアの剣閃が許さない。


 本気の殺意を乗せた一撃が、ユウトの首筋めがけて迫っていた。


(まずい、避けられない!)


 死を覚悟した、その刹那。


 ユウトの眼前で、不可解な現象が起きた。


 リディアの剣の切っ先が、まるで何かに弾かれたかのように、ほんのわずかに速度が落ちたのだ。


 それは本当に些細な変化。


 だが、ユウトにとってそのわずかな変化は天の助けに感じられた。


(くっ、間に合え!)


 瀬戸際の意識の中、体は自然と動いていた。


 そのわずかに遅れた剣先に対し、逃げるでも防ぐでもなく、まるで迎え入れるかのように、一歩前に踏み出し半身をひねる。


 剣を握るリディアの手に片手を添えて、そのまま剣の勢いを受け流し、前のめりになったリディアの体勢を捉えた。


 そのまま、流れるような動作で彼女の腕を取り、背後へ回り込む。


(このままっ!)


 しかし、リディアは即座にユウトの手を振りほどくと、素早く距離を取った。


 その瞳には今までの静かな殺意よりも、強い困惑と、探るような光が浮かんでいる。


「……今のは何だ? 私の剣が、何かにはじかれたようだが。それに、その動き…ただの小僧ではなさそうだな」


 リディアの探るような問いに、ユウトは答えられない。


 自分でも何が起きたか分からなかったからだ。


 その時、ポーチの中からエルディオの声が響いた。


『危なかったのう。まさかいきなり本気でくるとは…。とっさに念動力で切っ先を少し遅らせられたが、次にまたうまくいくとは限らん。油断するでないぞ』


 エルディオの助けがあったことを知り、ユウトは気を引き締め直す。


 そして、今が好機とばかりに声を張り上げた。


「いや、ちょっと落ち着いてくださいっ!誤解です! 俺は、エルディオさんから頼まれてここに来たんです!」


「エルディオ殿に頼まれた、だと? ふん、そんな言葉が信用できるか。」


 リディアは鼻で笑うと、再び剣を構える。


「やはり、その体で語ってもらうしかないようだな!」


 リディアは再び地を蹴った。


 今度は単発の突きではない。


 右へ、左へ、上へ、下へ。


 風を纏ったような斬撃が、嵐のようにユウトを襲う。


 ユウトはエルディオの警告を胸に、全神経を集中させてその連撃を紙一重でかわし続ける。


 全力で集中しているせいか、かろうじて反応はできている…


 だが、相手の剣筋はあまりに速く、そして鋭い。


(くっ…速い…!)


 10回ほどの斬撃を躱せただろうか。


 ついに、リディアの剣速がユウトの反応速度を上回った。


 斬撃が右足を狙って来た…かのように見えて急に軌跡が変わり、右肩を狙う一閃。


 完全に虚を突かれ、体重移動が間に合わずバランスを崩す…


 迫る剣先。


 そしてリディアの勝利を確信した笑みが見えた。


(!?避けきれないっ!!)


 その瞬間、悪あがきのように、咄嗟に右の掌を剣の前に突き出していた。


 ――キィィンッ!


 甲高い金属音が、学院の門の前に響き渡った。


 ユウトの掌が、リディアの斬撃を真正面から弾き返したのだ。


 ユウトの手には、淡い光の膜のようなものが一瞬だけ浮かび上がっていた。


「なっ……!?」


 リディアが驚愕に目を見開く。


 自分の本気の一撃が、素手で、しかもいとも容易く弾かれたのだ。


(何だ、今の光は…!? 魔法障壁か?いや、確かにあの瞬間までなにも無かったはず…。急に現れたのか?一体、この小僧は――)


 混乱するリディアを前に、ユウト自身も自分の掌を見つめて呆然としていた。


(今…、何が起こったんだ?それに、手が、燃えるように熱い…!?)


『うむ、見事じゃ、ユウト!危なかったがな。この距離で見てようやくわかった。お主が使っておるあの力、あれは純粋な魔力じゃ。ただ、流れ方が普通と違いだいぶ異常じゃな。今の光は、お主の掌から異常に噴き出た魔力が高質化したものの様じゃ。それでリディアの剣劇を見事にはじいたようじゃな。さしずめ、局所的な防御障壁といったところじゃのう。』


「局所…防御障壁?」


 エルディオの説明に、ユウトの理解は全然追いついていない。


 ただ、掌からいまだに感じる熱い力の流動は確かな実感としてそこに残っていた。


 一方で、目の前のリディアの混乱も解けていない。


 彼女は剣を下げたものの、その視線はユウトの掌と顔とを交互に行き来している。


「その不思議な体術に、魔法とは異なる謎の力…。貴様、本当に一体何者だ?」


 問い詰めるリディアに対し、エルディオが最後の切り札を授ける。


『今じゃ、ユウト! わしの言う通りに告げよ!』


 ユウトはごくりと唾を飲み込むと、目の前のリディアに向かって、はっきりと告げた。


「”星降りの夜の、最初の焚き火”!」


 その言葉を聞いた瞬間、リディアの動きが完全に止まった。


 彼女の瞳から険が消え、信じられないものを見るかのように、大きく見開かれる。


「その言葉は…師と、我ら三人の弟子しか知らぬはず…。まさか、本当に…?」


 リディアは、ふぅ、と長い息を吐くと、完全に剣を鞘に収めた。


「…分かった、お前の話を聞かせてもらおう。立ち話もなんだ、場所を変えるぞ。ついてこい。」


 そう言って背を向けたリディアの横顔には、先ほどまでの敵意はもう、どこにも残っていなかった。


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