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第27話:門の前のひと悶着


 翌朝、陽だまりの丘亭で心地よい朝を迎えたユウトは、階下から聞こえる小気味よい包丁の音と、香ばしいパンの匂いで目を覚ました。


「おはよう、旅の方。昨日はよく眠れたかい?」


 食堂に下りると、女将さんが笑顔で迎えてくれた。


 挨拶を済ませ、簡単な朝食を済ませていると、昨日会った少年がテーブルにやってきた。


「お兄さん、今日も泊まってくのかい?」


「ああ、そのつもりだ。世話になるよ。俺はユウト。君は?」


「オイラはフィン!よろしくな、ユウト兄ちゃん!」


 元気よく自己紹介するフィンに、ユウトは苦笑しつつも頷く。


 準備を終え、宿を出る際に「行ってきます」と声をかけると、二人から「いってらっしゃい!」と元気な声が返ってきた。


 そのやり取りに、少しだけ心が温かくなるのを感じながら、ユウトは今日の目的地である魔術学院へと向かった。


---


 昨日とは違う、朝の清々しい空気の中を歩く。


 大通りから学院のある地区へ入ると、街の雰囲気が少し変わるのを感じた。


 古書のインクの匂いがする店や、杖や不思議な鉱物を並べたショーウィンドウ。


 そして学院へ向かうのであろう、分厚い本を小脇に抱えて議論を交わす揃いの制服に身を包んだ若者たちの姿が新鮮に映った。


『ほう、昨日あれほど気後れしておったのが嘘のようじゃな。随分とこの街にも慣れた顔つきじゃ』


「まあね、一晩眠ればなんてことないさ!」


 エルディオの軽口に憎まれ口で返しながら、ユウトは巨大な建物群を見上げる。


 昨日、遠目に見ただけでも圧倒されたが、間近で見るとその威容はさらに増して感じられた。


 天を突くような尖塔、精密な彫刻が施された壁、そして、何よりもその巨大さ。


 ここが、この世界の魔術と学問の最高府なのだ。


 正門と思しき場所では、厳めしい鎧をまとった衛兵が目を光らせ、出入りする人々をチェックしている。


 誰もが身分を証明する物を持っているのか、あるいは顔なじみなのか、咎められる者はいないようだった。


(さて、どうしたものか…)


 何の当てもないユウトは、門の前で立ち尽くす。


 正直にエルディオの弟子に会いに来た、と言って通してもらえるものだろうか?


 それともエルディオの名前を出したら入れてもらえるだろうか?


 そんなことを考えていると、不意に背後から鋭い声がかけられた。


「そこで何をしている。見ない顔だが、学院の者か?」


 振り返ると、そこに一人の女性が立っていた。


 歳は二十代後半だろうか。動きやすさを重視したであろう軽鎧は、所々に使い込まれた傷跡が見える。


 腰に下げた長剣も、華美な装飾はないが、柄の部分だけが手に馴染むように色濃く変色していた。


 何より目を引くのは、一切の無駄がない立ち姿と、その鋭い眼光。


 まるで獲物を品定めするかのように、ユウトの頭のてっぺんからつま先までを、じろりと見据えていた。


「あ、いえ、俺は…」


「ここは部外者がうろつく場所ではない。特に――お前のような、魔力の流れが異質な者はな!」


 女性の言葉に、ユウトは内心でぎょっとする。


 一目で見抜かれた驚きに、思わず腰につけたポーチをかばうように手を当てた。


 しかしその仕草を、女性の鋭い目が見逃すはずもなかった。


「その小袋に…何かあるのか?」


「えっと、これは…」


 ユウトが言葉に詰まっていると、ポーチの中から直接、脳内にエルディオの声が響いた。


『まさかこんなすぐ会えるとはな…。ユウトよ、落ち着いて聞け。こやつが探しておったわしの弟子の一人、リディアじゃ』


 エルディオからの突然のカミングアウトに、ユウトの思考が停止する。


 そして、驚きのあまり、思わず声が漏れた。


「えぇ!?この人が!?」


 その発言に目の前の女性ーーーリディアの眉がピクっと動く。


「なんだ?私がどうかしたのか?」


「いえ、その、えっと、…リディア…さん…で、お間違いないですか!?」


 その言葉に、目の前の女性――リディアの眉が、さらに険しく吊り上がる。


「…貴様、何者だ?なぜ私の名前を知っている?」


 しまった、とユウトは思ったがもう遅い。


 リディアの警戒心は明らかに最大レベルに達していた。


 剣に軽く手をかけ、警戒しながらじりじりと距離を詰めてくる。


 追い詰められたユウトは、助けを求めるように、リディアに向かって震える声で彼の名を口にした。


「あ、あの!エルディオという人物をご存じありませんか?」


 …その瞬間、リディアの纏う空気が、凍りついたかのように張り詰めた。


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