第25話:学問と術の街"ルメニア"
魔物が立ち去った後も、ユウトは油断せず様子をうかがっていたが、しばらくしてふぅと息を吐き構えを解いた。
魔物が倒されるのが見えたのか、しばらくすると馬車が引き返してきた。
「おぉい!あんた、無事だったか??」
「あの魔物を一人で!?兄さん、冒険者か?すごいな!」
「いやー、本当に助かりました、ありがとうございます。」
商人たちが馬車から降りて来て次々にお礼を言う。
御者も帽子を取って深く礼を述べた。
荷台の他の人たちも安堵の表情を浮かべている。
(守れてよかった…)
つられてユウトも安堵の表情を浮かべるが、ふと気になる表情を見つけた。
老婆の顔に安堵と礼の表情のほかに、少しの戸惑いと疑念の表情が見て取れた。
「その、この馬車には護衛みたいな方はいらっしゃらないんですか?魔物とかに襲われることって珍しいんですか?」
ユウトはその表情の意味に気づき、そのまま疑念を聞いてみる。
前の世界で読んだことのある物語では、冒険者などを雇って護衛してもらっていたからだ。
(…何か意図があるのか?)
少しだけ警戒心が生まれる。
すると商人は肩をすくめ、苦笑した。
「いやはや、お恥ずかしい。今回は小口の荷でしてね、護衛を雇う余裕がなかったんです。この道は普段は安全なものですから、つい油断を…。あなたがいなければ、大事な荷も命も、どうなっていたことか。本当にありがとうございます。」
商人は少しだけバツの悪そうに、それでも誠実に答えてくれたように見えた。
ユウトは、商人のその説明を受けて、少しだけ胸の疑念が晴れる。
助けられたことに対する申し訳なさと感謝が混ざった表情は、裏があるようには思えなかった。
「いや、いいんです。気にしないでください。ちょうど俺も同乗していますので、もしまた襲ってきても出来る限り対処します!」
ユウトは照れくさそうに答えた。
だが内心では、自分が無自覚に行った小さな動作が、誰かの生活を守る結果になったことを静かに噛み締めていた。
その後、馬車はユウトを乗せ再度出発した。
先ほどの一件の後、荷台の上で商人たちと色々な会話をすることができた。
彼らはこのままルメニアに向かうと言い、門を通るときに口利きしてやると約束してくれた。
旅の仲間意識が芽生えたように感じ、ユウトはわずかに笑みを浮かべる。
乗客たちの表情もさっきまでとは違い、どこかにこやかだ。
事件は小さかったが、旅路の後半はずっと居心地がよいものだった。
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それから二日後の朝、視界が開け、巨大な城壁が目の前にせり出してきた。
城壁の向こうには、尖塔や複雑に入り組んだ屋根、それを取り巻く独特の生命感のようなものがある。
城門の前は人と荷でごった返していた。その先には門番がたち、何やらやり取りをしている。
商人たちはユウトに笑顔で手を振り、門番へと歩み寄る。
短く言葉を交わすと、門番は「そうか」と頷き、特に問題なく通してくれた。
「ここが、ルメニア…」
ユウトは息を呑んだ。
村で見ていた世界とはまるで別の色をしている。
見たことのない屋台の形、知らない言葉の看板、路地から聞こえてくるさまざまな声。
胸の中にあったざわめきは、次第に期待に変わっていく。
『ようやくついたか…。ここが、学問と術の街、ルメニアじゃ。わしの昔の弟子らもおるし、お主にとって多くの学びがあるであろう。だが、決して油断するでないぞ。』
エルディオの声が、いつものように柔らかく響く。
ユウトは小さく笑い、馬車の縁に肘をついて城門を見つめた。
ざわめいていた胸の内が、ルメニアの熱気に触れて、静かな覚悟へと変わっていく。
(そうか、俺は…)
自分が助けられる人がいる。そのために、まだ見ぬ知識を、術を、この身に刻み込む。
目の前に広がるのは、ただの街並みではない。
未来の自分を作るための、巨大な学び舎そのものだ。
心の中で静かに決意を固め、ユウトは馬車の縁からそっと手を離した。




