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第16話:古き幽霊と異質な来訪者

※8/3 本の描写が一部不足していたので、加筆修正しています


 暗い広間に沈黙が落ちる。


 ユウトは息を整えながら、目の前の幽霊――エルディオを見た。


 恐怖はまだ消えていない。


 だが、先ほどまでのやり取りで、目の前の男が即座に自分を害するつもりがないことは直感でわかった。


「……その使命って、俺に話せることですか?」


 ユウトは恐る恐る問いかける。


 エルディオはしばし黙したまま石の床を見つめ、やがて低く深い声で答えた。


『わしの使命は……この土地の奥深くに眠る“ヤツ”の復活を防ぐためじゃ。かつて恐ろしい力で世界を脅かした存在の一片。もし封が破れれば、この村どころか、この一帯が壊滅することになるじゃろう。』


 重苦しい言葉に、ユウトの背筋が凍った。


 災いの復活――単なる村の問題ではない、もっと広い範囲に及ぶ危機だ。


 それは、自分が想像していたよりもっとずっと大きいものだった。


『わしはその封印を見守っていたが、うかつにも命を落とした。それでも魂を留め、せめてその”白き本”だけは守ってきたのじゃ。これが守られれば、ヤツの封印も簡単には解かれぬはずじゃからな。』


 エルディオの視線の先には、床に置かれた白い本があった。


『それにはこの地に眠るヤツの封印の理や対処法が記されておる。とても大事な物じゃ。本来ならそれは、邪な者には見えぬし触れぬ。わしが隠蔽さえしっかりしておけば安心できるはず、だったのじゃが、先ほどの件でわかった。わし一人ではもはや守りきれぬ。』


「……先ほどのって、俺が封印を、解いちゃった、こと?」


『そうじゃな。その本に触れられるということは、少なくともお主は邪な者ではないということじゃ。』


「…ううん、まぁ、自分で言うのもあれだけど、邪では…ない…はず?」


『……………………』


 エルディオがジトっとした目でユウトを見つめる。


 しばしの無言の時間に耐えられず、ユウトが口を開く。


「俺は、何ができる…かな」


 口から出た言葉は、悲観的ではなく使命感からくる言葉だった。


『うむ。お主は、その本を持ち帰り、わしの代わりに守ってくれ。』


「本を、守る…俺が?」


『そうじゃ。わしが新たに隠蔽の魔法を施そう。そうすれば普通の者には見えもせんし触れることもできぬ。お主の手の届く所なら、ここよりも安心できるじゃろう。』


 そう言うと、エルディオは手をかざし、低く何事かを呟いた。白き本が淡く光り、すぐに静けさを取り戻す。


『これで完了じゃ。そして、今わしが話せることも、もうない。まずは自身でその本を読んでみる事じゃな。』


 それ以上は語らないというように、エルディオは瞳を閉じた。


「………うん、わかった。預かるよ。」


 ユウトは深く息をついて、そして、本を持ち上げた。


 本からは不思議な感覚を感じる。


 そして、妙な重さを感じた。それはこの地の安全という責任の重みというものなのかもしれなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 小屋の外へ出ると外は夕闇に染まっていた。


 目を閉じ、すぅっとしめった森の空気を吸い込む。


 生きている世界の匂いが、少しだけ恐怖を和らげた。


「……村に戻ろう。いったん村長に相談してみようかな」


 自分に言い聞かせるように呟き、ユウトは小屋を後にした。


 村に戻ったころにはすっかり日も暮れ、村のあちこちから夕食の支度の匂いが漂ってきていた。


 ユウトは広場を通り過ぎ、その足で村長の家へ向かう。


 空腹感はあったが、今は先に村長と話しておいた方がよいと思い、ぐっとこらえて急ぎ足で向かった。


 扉を叩くと、すぐに村長が現れた。


「おお、守り人さま。どうされましたかな?」


「こんな時間にすみません。じつは、少し、お話ししたいことがありまして……」


 部屋に通されると、ユウトは最初に白い本をテーブルに置いて尋ねた。


「あの、これ、見えますか?」


 村長は首をかしげ、ユウトの手元をみて、ユウトの顔をみて答える。


「守り人さま?……何のことでしょう?」


(本当に見えていない!?隠蔽の魔法っていうのが本当に効いているんだ!)


 ユウトは驚きつつも心の中で頷き、そっと本を回収した。


「いえ、すみません、なんでもありません。ところで――」 


 ユウトは落ち着いた声を装い、話題を変えて、先日村人から聞いた古い小屋や魔法使いについて尋ねた。


 村の老爺から相談を受けたこと。


 小屋の鍵が開いていたこと。


 そして、小屋での出来事。


 ただし、エルディオのことや災いの封印については伏せた。


 幽霊がいたといっても見えないと言っていたし、災いの封印についても、ユウト自身がまだよくわかっていないため、いたずらに恐怖させてしまうと思ったからだ。


 その代わりに「古い研究資料が残されていて気になるので、引き続き調査したい」と説明した。


 村長は難しい顔で頷き、「そうでしたか……やはりあの小屋には何かあったのですな」とだけ言った。


「はい…あの、村長はあの小屋について何か知っていることはありますか?」


「ふぅむ…残念ながらわしもあの魔法使いとはほぼ面識がありませんでな。事件があったのは聞いておったのですが、それだけですじゃ」


「わかりました、ありがとうございます。その、調べてみないとまだ何とも言えないのですが、もしかしたら先日の魔物も関係するかもしれないので…。村の人たちには、あそこへ近づかないように、改めて伝えてもらってもよろしいでしょうか?」


「おぉ、それはもちろんですじゃ。そもそも誰も近寄らんと思っておったのですが、先ほどの話を聞く限り、今一度伝えた方がよさそうですな」


「はい、よろしくお願いします。」


 ユウトはお辞儀をして、村長の家を出た。


 くぅぅ……


 少し安心したからか、急に空腹感が主張しだす。


「帰ろう…」


 考えること、整理する事が山の様にあった。


 幽霊との出会い、この地に眠るという災いの封印、カギとなる本。


(情報量が多すぎだ……それでも、村の危険につながるかもしれないしな。しっかりご飯を食べて、それから、ゆっくり考えよう)


 前を向き、託された白い本を片手に、家に向けて歩くのだった。


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