はじまり
机の上のタバコを手に取りベランダの戸を開ける。
戸を開けた瞬間身体を抜けていく冷たい空気を感じながら外に出る。
やっぱり冬の夜は冷えるなぁ、そんなことを思いながらタバコの箱に手をかける。
がさがさと箱の中を漁ると残り一本になっていた。
家でしか吸っていないため、残りの本数など確認せず吸ってしまっていた。
「うわ、帰りに買って帰ればよかったな。」
スマホを開き時間を確認すると午前三時、明日のことを考えると、今からタバコのためだけに外に出るには惜しい時間だった。
しょうがない、今日は一本で我慢して明日絶対忘れないようにしよう。
箱の中の残り一本のタバコとライターを手に取り火をつける。
タバコを吸いふぅっと息を吐くと白い煙が口から出てきたが、すぐに風が煙をかき消していく。
その風にぶるぶるっと身体を震わせていると、
”冬のタバコは寒い中吸うのがいいんだよぁ”
と懐かしい声が頭の中に流れてきた。
”えー、なにそれ。って言うか寒いから早く閉めてよお”
自分の甘ったるい声も流れてきて思わずくすっとしてしまった。
何年前か、自分がこのタバコを吸うきっかけにもなったこと。
どうしてか冬の夜になると懐かしい思い出を振り返りたくなる。