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第1話 「ひゃあ」
斑目一角の斬撃ボイス。
ではない。
「ハエ(蝿)」という意味の名詞である。
だいたいの方言というものは『短縮』、もしくは口語としての『言いやすさ』によって成り立っていると思う。
その点、『ハエ→ひゃあ』の変化は、短縮でもないし、言いやすくもない。
謎変化である。
九州弁には、このような『謎変化』が多数存在する。
そして、ハエを見て“ひゃあ!”と呼ぶのは、なんとなくオビえているようで『かわいくない』。
──でも、九州のおじいちゃんやおばあちゃんは、ハエを見たら『素手でやる』。
これは頼もしい。
普段の行動からは想像もつかないような素早さで、飛んでいるハエを一瞬にして左右の掌で包み込み「バチーン!」とやる。まさか素手ではくるまい…と油断しているハエからしたら、まさしく突然の悪夢のような出来事であろう。
もしかすると、「ひゃあ!」はおじいちゃんやおばあちゃんからバチーンとやられた『ハエ自身の心の叫び』なのかもしれない。