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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ブラックな村は焼き討ちされていました。残された私は、幸せになりますので!!

作者: 家具付

わりと短編、そしてハッピーエンドです!

その小さな村は、村長の家だけが、薬を取り扱い、その品質の確かさから、何と王都の豪商から王宮医師までひっきりなしに訪れる、たいそう繁盛している薬問屋だった。

そして村長の家に、村人たちは丹精込めて育てた薬草を売りに行き、村長の家の人間が素晴らしい薬を作る。

そして、高額でも欲しいという人々に売って行くのだ。

それは村では当然の流れとなって久しく、村長の家にはたいそう薬を作るのが上手な妾さんがいるのだろう、という事になっていた。

実際村長は薬を誰が作っているのかという問いかけに対して


「うちで面倒を見ている居候に手伝わせているんですよ。はっはっは」


と笑っていたため、村の誰もがそんなものなのだと思っていたのである。

ところがとある夏の酷く暑い日に、村長の家はにわかに騒がしくなり、そしてあっという間にいつも通りの静けさを取り戻した。

どうやら居候が暑さにやられて亡くなったらしい。この暑さじゃしょうがないかもしれないね、うちも気をつけなければと、村人たちは噂しあった。

それから数日後。





その村は、素晴らしい薬を作る事に目を付けた隣国の兵によって、焼き落されたのである。





「……今回は……蘇生に三日かかったか」


私、はずきずきと痛む頭を押さえて、周囲を見回して、日付の経過が何もわからない地下の隠し牢屋という、自室兼仕事場を見渡した。


「だから死ぬほど働かせるなって言っていたんだけどな……いくら私が不死身の呪いがついているからって、村長もその家族も扱いが雑過ぎるんだよな……まあ、生き返っちゃうから反省もしないか」


言いつつ私は起き上がり、ぐらりと揺れた頭を押さえて、また周囲を見回した。


「……誰も様子を見に来た形跡がない……って事は急ぎの薬を作る仕事はないわけか……喉渇いたな……」


独り言ばかりなのは一人ぼっちで延々と、終わりが見えないくらい薬を作らされていたからで、独り言でも言っていないとやってられない人生だったからである。

とりあえず、カラカラに干からびたような喉を潤すため、私は地下牢を出なければならない。

様子を見にくる様子がないという事は、勝手に水でも飲んでいろと言われたようなものだからだ。

私は地下牢の通路をよろめきつつ歩いて、行き止まりにある井戸の木桶を水の中に沈めて、水をいっぱいに汲んだ。

そして行儀も悪いけど、容器なんていう気遣いにあふれた物はないから、直に飲む。

くう、冷たい水がおいしい。


「水呑むくらいの時間も許さないとか、だから私が死ぬんだろうが」


思うままに水を飲んでから、私は井戸の上の穴を見上げた。

この井戸は村の共有井戸で、地上につながっている。井戸の縄は私一人の体重くらいなら軽々受け止める頑丈さだと、経験から知っている。

前に、真冬に放置されて、死ぬほど寒くて、指が壊死しかけたから、抗議のために村長の仕事場に行くために、その縄をよじ登っていったものだ……


「それにしても……妙だな」


私は地上を見上げて違和感を覚えた。だってこの村はいつも、薬を求めて色々な商人とか医者とかが来ていて、にぎやかで活気にあふれた村だったのだ。

ゆえに井戸から地上の音に耳を澄ませると、色々な音が聞こえてきた物だというのに……今日はやけに静かだった。


「昼だから、誰もいないとかおかしいし……近くの村で結婚式でもあったのか?」


近くの村の結婚式とか、村の人が総出でお祝いに駆け付けるお祝い事である。

それかもしれないが、そういう時はお祝いとして万能薬を作らされるから、事前にいつも知っていた。

三日前に死んだ時、そんな話は聞いてなかったし、なんなら結婚式の予定とかは一月説が通り過ぎる前に、近隣の村に連絡が回るから、はやばやと知っていなければならない。

私はお祝いのための万能薬だの、新調する余所行きのための染料だのを作っていたから、そういうのがわかっていなくちゃおかしいのだ。


「妙というか変としか言いようがないのか……」


そう言いつつも、私は縄を登って地上に上がるという選択肢を選ばなかった。

この縄とても長いのだ。生き返ったばかりの体で、体力も回復していないのに、登りきる自信がなかったのである。


「まあ、明日まで待ってなんの音もなければ登るか。一日昼寝が出来るって最高」


いい方に物事を考えて、私は仕事場であり生活空間である地下牢の方に戻っていった。

戻っていって……地下牢と地上をつなぐ扉の前で、何かやけに騒々しい音が響くものだから、ぎょっとしてその辺の樽の陰に隠れると、かなり乱暴なやり口で、地下牢の扉が叩き壊されたのである。


何だか全く分からなかったから、息をひそめて身を隠して、様子をうかがう他のない私は、叩き壊した後に、ぞろぞろとやってきた人たちが、見覚えのない、村の人たちの格好と大違いの装束である事から、余計に出て行く勇気をなくして、静かにしていたのだが……


「この村で本当にあっているのか」


「違いない。この村で聖女が祈りを捧げて作る聖薬と同等か、それ以上の効果を持つ薬を作っていたはずだ」


「村長の家だけが薬問屋で、そこの家人が薬を作っているのは知られていても、在庫がどこにも見当たらないのはおかしな話だろう」


「確かに。だが聞こうにも村の住人は散り散りに逃げ出し、生きているかも定かではない。やっと見つけた村長の娘は、震えて話にならん」


「仕方あるまい、我々夜霧の国のふりをした盗賊たちが、薬を奪おうと村を丸焼きにしたんだ。同じ装束の我々相手に、なかなか心を開かないのは道理だろう」



「そりゃそうだが。……この部屋、怪しいぞ。今まで誰かがいたようだ」


「という事は、この地下牢に誰かが閉じ込められていたという事か?」


「通路は一本道だったぞ、探せば見つかるんじゃないか」


「確かに。その誰かは有力な手掛かりを持っているかもしれないな」


彼等はそんな事を言って、わらわらと誰かを……この地下牢にいたのは私一人だから、消去法で私だ……を探し始める。

私はじっと物陰に隠れて、息をひそめて冷や汗をだらだら流して、見つかりませんように、と祈りを捧げていたわけだが……あんまりかくれんぼうは上手じゃないので、物陰を見上げた男の人と、ばっちり目が合ってしまった。


「あ」


「ひっ」


私はその時樽を蹴りつけ、その人にぶつけて、転がるように走り出した。

なんかよくわからないけど、怖い物は怖いのだ。

でも、一本道の通路で、地下牢から出て行くための扉から階段を駆け上ろうとした時。

こんな環境に生きているせいで、走る速さなんて大した事のない私は、あっという間に腕を掴まれた。


「待て! 我々は君に話が聞きたいんだ!」


「ひっ、っ、えっ」


私は独り言は得意だし、頭の中で色々喋るのも得意だ。

でも対人の会話はてんでだめなのである。なんというか、口がもつれて喋れない。

それもこれも、口答えをするたびに、村長やその家族に鞭打たれてきた人生の結果だ……残念ながら。


「落ち着いて話を聞いてほしい」


「……」


その兵士は私の腕をがっちりと掴み、しっかりと目を合わせてそういう。

いきなり殺される可能性は……なさそうだった。

だから私は、こっくりと頷き、相手の話を待った。


「ここにいたのは君だけか」


「は、はい」


「君はここで何をしていたんだい」


「む、むら、村長に、言われてっ、薬の調合を」


「薬の調合? という事は君なのかい」


「わ、わからな……」


「おーい!! こっちの部屋に材料らしきものと、作りかけの薬が見つかったぞ!! ここで薬を調合していたんだろう。後はこの部屋の住人を……」


兵士が私にゆっくりと質問をしている途中で、私の部屋から別の兵士が現れて、そう言った。


「……そっちのえだっきれみたいな子が、この薬を作っている人なのか? がりがりにやせ細っているじゃないか。死ぬ一歩手前みたいな顔色だし……」


その兵士は疑わしいという顔でそう言って、私はあわあわと口を開いて閉じた。なんて説明すりゃいいのかわからなかったせいだ。


「彼女以外に人は見つからなかった、という事はこの子は何か知っているだろう。聞けば薬を調合していたという」


「そうか……君、とりあえず地上に上がろう。ここは空気が悪い」


兵士たちはそう言って、私はがっちり確保された状態で、およそ十年ぶり以上の久しぶりさで、地下牢から地上に上がる階段を上ったのであった。

地上に上がってすぐに、私は息切れを起こして座り込み、日差しでもかなり弱ってしまったので、すぐ兵士たちが使っている天幕の中に入れられて、水と流動食を用意されて、身の上話をする事になった。




私は記憶にないくらい昔に、旅の薬問屋だった両親に連れられて、この村に来て、両親が旅の間の傷を悪化させてあっという間に死んでしまったので、村長の家に奴隷として引き取られた身の上である。

ただ普通の奴隷と違うのは、両親の持っていた謎の力である、薬に関しての万能な知識と技術という物を、両親が死んだ結果受け継ぎ、地下牢で延々と、怒鳴られ殴られ蹴飛ばされ、食事も結構な頻度で抜かれ、しつけと称して死ぬほど暴力を受け……反抗を考えないようにさせられながら、薬を最大速度で作らされて、今日まで生きてきたのである。

……生きてきたと言うのは語弊があるかもしれない。

だって私は、過去に何度も死んでいる。でも生き返っているのだ。

それはたぶん、両親由来の力ではなく、村長が、私の薬に関する能力が発覚した時に無理やり飲ませてきたでっかい、真っ黒で真っ赤なまだら模様の毒々しい芋虫の力だろう。

その芋虫を丸呑みさせられたあと、私の髪の毛は茶色から真っ黒に変わり、茶色かった瞳は真っ赤になったらしいので。

村長は成功した、とにんまり笑っていたから、怖くてそれの中身なんて聞いた事ないけれども。

その芋虫の力は、私が何度過酷な環境で命を落としても、私を生き返らせてきた。

ぼろぼろに殴られて死んだ時も、食事を抜かれ過ぎて死んだ時も、夏の暑さにやられ過ぎて死んだ時も、私は生き返ってきたのだ……


という話を、兵士たちに話すと、何故か泣かれた。泣かれる理由がわからなかったけれども、彼等はこう言った。


「お嬢ちゃんひどい目にあってきたんだな、でももう大丈夫だ! うちの王様はそういう環境にいた子供にやさしいお人だから!!」


「お嬢ちゃんの実力が本物なら、王様はきっと手を尽くしてくれるさ!」


「なくても大丈夫! 王様が作った孤児院でゆっくり人生やり直せるさ!」


と皆言う物だから、私はそういう物なのか、と頷いた。

そして彼等は、目的の物というか、欲しかった人間というか、そんな物を確保したという事で、私がずっと暮らし続けてきた、もはや焼け跡の村を、私を連れて出発した。








王様の前に行く前に、試しに何か薬を作ってくれ、そう言われて私は素直に、手っ取り早い薬を作った。それはびっくりするくらい効果があったみたいで、すげえな、お嬢ちゃん、と兵士たちは頭を撫でてくれた。

殴られる以外で頭を触られた事はないので、結構身構えたのだけれど、それは杞憂だったのだ。


「ほう……薬を作っていたのがこんな小さな女の子だったとはな」


初めて前にした王様は、威風堂々と言う感じで、怖い顔で大きくて、村のどんな男よりも強そうだった。

強そうだけど、暴力は振るわなさそうな人間性を感じたから、私はすぐ警戒を解いた。


「死んで継承される薬の知識……という事はおそらく、両親は薬神の一族出身だったのだろう。あそこは死ぬ時、持ちうる知識を全て継承者に強制的に渡すというからな。そして飲まされた毒々しい芋虫は……不死身の術を持つ芋虫だろう。あのあたりで百五十年に一度見つかる、特別珍しい芋虫だったはずだ。蝶々になるまでどんな手段を用いても死なない芋虫で、生きたまま丸呑みにするとその不死身の力を手に入れられるというからな」


王様は静かな目で私を見て、そう言った。あんまりよくわからなかったけど、両親の持っていた知知識って奴があったから、なんとか少しだけわかったのだ。

くすりがみっていう物はわからない。不死身の芋虫もなんかすごい事しかわからない。

でも、色々な物が重なって、死んでも生き返る私になったのだ、という事はわかったのである。


「お前はこの城の預かりとする。知識もそうだが、死なないとわかればどこの馬鹿がお前を悪いように利用するかわからんからな」


そんな事を言って笑った王様は、あ、この人やさしいんだ、となんとなくわかる表情をしていた。






それから私は、色々な事をしたし、経験もした。毎日ご飯を食べられるっていう贅沢を覚えたし、体を綺麗にするっていう人間的だけどとーっても贅沢な事も覚えた。

王様のために、薬を色々作った。徹夜が当たり前だった毎日だから、その感覚で作っていたら、強制的に布団に入れられて、布団の上からぽんぽん背中を叩かれて、寝入ってしまう事も経験した。

王様は、記憶にないお父さんみたいな人だった。

村の人たちの行方は分からないし、私は知ろうとは思わない。もう関係ないし。

王様は、薬を作る事以外何にも知らない私に、色んな事を教えてくれた。そのための先生もつけてくれて、どうしてここまでするんだろうって思っていたけれど、先生が


「あなたの無知はあまりにも目に余るものですから、王はこれからのために、あなたに徹底的に知識を与えるんですよ」


と優しい声で教えてくれた。確かに、無知ではあるだろう。薬を作る事と、いかに暴力を受け流すかって事くらいしか、身につかない人生だったわけだから。

テーブルマナーと言われるものも知っちゃかめっちゃかで、なんでも手づかみの私に、王様は根気よく食器の使い方を教えてくれた。口の開け方まで教えてくれて、おかげでこぼさないでものを食べられるようになった。

王様は散歩が好きで、私があまりにもがりがりひょろひょろだから、ある程度体を動かさなくちゃいけないって事で、私を散歩に連れ出して、町を歩いてくれた。

噂によれば、村長の娘はこの国ではなく、村を領地としていた朝露の国の王子様に見初められて、お嫁に行ったらしい。

確かに評判の美人だって、村長自慢してたもんな……と思いつつ、私は王様のために、薬を作っているのである。

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