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メンタル・ヘルズ―Mental Hells―  作者: 蒼黄紅
目的
5/10

05話 目的-01

「続いてのニュースです。本日未明、東京都新宿区でビルの倒壊がありました。」

「なんかー、遠くから見てたんですけどー?

 急におっきい音がしてー、ドーンって聞こえたんですよー? そしたらこのビルが倒れ始めてー?」

「この事故により怪我人は3名、幸い死亡者は今のところ確認できていないようで……」

 

 自室のベットの上で毛布に包まりながら聞いていた。

 正直に言って怖かった。

 怖くて震えていた。

 夜中の出来事はビルの倒壊はニュースで事故として報道されている。

 

 ――現実は違う。

 

 夛湖と僕が戦い、その結果ビルが倒れ――

 そして夛湖を僕が殺した。

 夛湖の声が脳裏に蘇る。

 

『はははははは……これでお前も俺と一緒だ…! この……人殺しがァァァ!』

 

 数時間前に起きた出来事なだけあって、鮮明に思い出した。そして僕は、人が死んでいく様、夛湖の最期の言葉、人の焼ける匂い、それらを思い浮かべただけで――

 

「うっ……!」

 

 僕は毛布を投げ捨て、部屋を飛び出しトイレへ駆けみ嘔吐した。

 

(やれやれ……高々人間一人殺したぐらいで震え上がりやがって……

 安心しろよ餓鬼、昔見た映画で言ってたじゃねぇか。

『ボディを透明になっちまったらなんにも分からない』って、死体をバラして燃やしてたろ?

 奴を灰にして殺したのはそのためじゃねぇのかァ?)

 

 違う……そんな事は考えてなかった。

 単純に……殺そうとした。それだけだ。

 殺人がバレるかバレないかは正直どうでもいい。

 ただ、僕がこの手で夛湖を殺したという事実に対して恐怖しているんだ。

 

「おぇぇぇぇ…!」

 

 それからしばらく――トイレから出る事が出来なかった。


(おい……いくつか質問があるから答えろ)

 

 僕は落ち着いてから自室に戻ってゲーミングチェアに座り、頭の中で頭痛へ問いかけると、間の抜けた声で頭痛は応答した。

 

(あぁ? お前とは長い付き合いだが、こうしてお前から話しかけられたのは初めてだなぁ)

 

 当然だ、こいつが頭の中で喋る度に、僕は声と同時に頭痛にも苦しまされるのだから。

 

(そんな事はどうでもいい。

 僕が聞きたいのは夛湖の事……悪魔の事だ。アレは一体なんなんだ)

(知ってるじゃねぇか、お前が言っているように悪魔だ、あれは)

(ふざけるな、悪魔って一体なんなんだ)

(あの()()()()()に書いてある通りだろォ?

 まぁ厳密に言えば地獄の住人だ。地獄に居るものは皆総じて悪魔になる)

 

 忌々しい本って聖書の事か? いや、今はそんなことよりも……

 

(その悪魔がどうして夛湖に取り憑いていたんだ?)

(そりゃ人間界で悪事を働く為だろう? 悪魔は言わば精神体の様なものだ。

 人間と悪魔が契約する事で、人間は悪魔の力が使えるようになる。

 お前がボコされてる時も教えてやったが、悪魔と契約した人間は悪魔憑きと呼ばれる)

(力……か……)

 

 あの夛湖の姿は悪魔の力を使ったという事か。

 そして、おそらく僕もだろう。

 

(あぁ、そうだ。悪魔憑きの《大量の血液と感情》を代償に人間に力を与える)

(感情…?どういうことだ?)

(あー、面倒だな…感情は感情だ。人間の思う気持ち、思考を指す。悪魔の力の行使にはそれが必要だ。

 悪魔によって要求する感情は異なる上に、場合によっては他のものを要求する事もあるがなァ)

 

 僕が質問を繰り返す度に頭痛の態度は悪くなる。僕だってお前が喋る度に頭が痛むんだ。大人しく応えろ。

 なんて言うと、より頭痛の態度が悪くなる事は、火を見るより明らかだったし、まだ分からないことは沢山あるからここは慎重に……

 

(……もっと詳しく……教えてくれ。)

(飲み込みの悪い餓鬼だなァ……だからあの『ダゴン』と契約していた奴で例えると、必要なのは《痛み》だ。

 ダゴンは痛みと血液を引き換えに、あの餓鬼に力を与えていたんだよ)

 

そういえば、夛湖は確か痛みがどうとか言っていた様な……

 

(お前が石を投げた事によって《痛み》と《血液》の2つの条件を達したんだ)

 

 なるほど。

 あの時僕が石を投げつけなければ、夛湖はあの姿にならなかったかもしれないって事なのか。

 最も、自分でやろうと思えばあの姿になっていたかもしれないけど。

 それこそ夛湖の場合は条件が簡単だ。痛いという気持ちと、夛湖自身の血液があればいいのだから。

 あの時僕が石を投げつけなくても、夛湖自身が持っていたカッターナイフで自傷行為を行えば、それだけであの姿になれる、という訳か。

 

(悪魔の力を行使した後、人間は契約に使う感情を無にされる。ダゴンの餓鬼の場合、《痛み》という感情がリセットされる。と、言ったところだ。

 最も、痛みというものは()()()()()()()()だがな。

 詳しく言えば()()()()()()()()がトリガーって事だ)

 

 なにかの本で読んだことがあるが、痛みも感情として考えられていた時代もあったらしい。そんな事は今はどうでもいいか。

 

(じゃあ、どうしてその感情はリセットされるんだ?)

(代償にした感情を使い切らなければ、力の使用後は人間の身体は元の身体へ戻る。

 力を使い過ぎて感情の残量が少なければ、負った怪我は中途半端に回復される。

 身体を回復させて余った分は悪魔の餌になるって事だ)

 

 僕は頭痛に文字通り悩まされながら、スマホのメモ機能に打ち込む。さながら事情聴取だ。

 

(悪魔は何故人間界で悪事を働くんだ?)

(そりゃあ、悪魔だからだろう?)

(真面目に答えろ)

(偉そうにしやがって。ダゴンの餓鬼も言っていただろう? 《地獄の玉座》だ)

 

 そういえば夛湖はそんな事を言っていたな。

 

(その、《地獄の玉座》って……一体なんなんだ?)

(想像力のない餓鬼だ…字の並びの通りだ。地獄の王の椅子だ。そいつに座れる悪魔は()()()()()()()()()()だ。

 他の悪魔達を力でねじ伏せるか、人間界で悪行を行う事でその存在を認めさせる事が出来る。

 そうした結果として、玉座に座るって事だ。

 玉座に認められていない悪魔が玉座に座ろうとすると、その悪魔は消滅する)

 

 玉座には意思があるようだ。じゃあ――

 

(地獄の玉座に座った悪魔は何を得られるだ?

 悪魔憑きにはなんのメリットがあるんだ?)

(いっぺんに質問攻めしやがって、面倒だなぁ。

 玉座に座った悪魔は悪魔の頂点に立ち、全ての悪魔を絶対服従させる。

 その悪魔と契約している悪魔憑きは、人間界の理を変えることが出来る)

 

 悪魔の方のメリットは何となく想像していた通りだったけど、悪魔憑き、つまりは悪魔と契約した人間は人間界の理を変えるとは、スケールのデカい話だな。

 夛湖はあの時こう言っていた……

 

『俺は地獄の玉座を手にし、人間に嘘を付けなくする!

 そうすれば騙す事が出来なくなるからねェ!』

 

 ……夛湖の目的は『人類が嘘をつけなくする事』だったってことか。

 あいつはあいつなりに、何かに葛藤し、その方がいいと思ったのだろう。

 そんな事になれば人類は数日も経たずに破滅するだろけれど。それでも、夛湖なりに考えた結果だったのだろう。

 僕は自分の中で整理をつけた後、再び頭痛に問いかける。

 

(悪魔の事はだいたいわかった。

 じゃあ……お前もあのダゴンとか言うやつと()()()()なのか?)

(おい……俺様をあんな人間以下の屑共と並べるな。

 次に俺を悪魔と言ったら……殺すぞ。餓鬼が)

 

 頭痛は今までで1番恐ろしい声で僕に囁いた。

 

(……だけど、同じように悪魔の力を使えるんだろ?)

(……俗称としては《悪魔》になるが、奴らと並べられる事が気に食わない。

 それに俺様は特別な存在なんだよ。

 俺様は悪魔が嫌いだ、覚えておけ)

 

  要はこいつも悪魔だけど、他の悪魔と並べて考えられる事が嫌だ。って訳か。悪魔のくせに。めんどくさ。

 

(わかったよ。ただ、分からない事がまだある。

 僕はお前と契約した覚えがない。

 悪魔の存在だってさっき知ったばかりだ。

 何故、僕も悪魔の力が使えるんだ?)

(だから俺は特別な存在って言っただろう?

 お前の同意など要らない。お前に憑いてるのは間違えないがなァ)

 

……理不尽すぎる……

 

(じゃあ、お前の場合《血液》と、何を代償にして僕はあの力を使ったんだ?失った物が分からないのは気分が悪い。

 それにまた悪魔憑きに襲われた時、トリガーが分からないと力を使う事だって出来ないだろ?)

(それもあの時言ったはずだ。俺とお前の場合、《他人を見下す心》だ)

 

 なるほど。全て理解した。

 僕はあの時――

 

『こんな…社会のゴミにごときに……!』

 

 夛湖の事を蔑んで見下していた。

 そして力を使った今、僕は夛湖を見下していない。

 対等、もしくは人間として自分より上だとすら感じている。まぁそれでも、あいつがクズな事に変わりないけれど。

 それでも夛湖なりに目的を果たそうとしていたんだ、と落ち着いて考えられる。これが悪魔の力を使った後の感情のリセット、という事か。

 

(んで?お前は何のために玉座を狙いに行くんだ?)

(え?)

(当然だろォ? 人間を思うがままにできるんだぜ?

 お前は何を望むんだ?)

 

 僕は……

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