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外伝② 芯遍平野の戦い

『魏国四大龍』の初戦です。

 紀元前420年7月、『四大龍』任命式から約一ヶ月後。ついに大きな戦いが起きようとしていた。

魏成(ぎせい)どの、私一人を呼び出すとは、何用でござるか?」

 突然、魏国王都安邑(あんゆう)に急遽呼び出された李克(りこく)は、さらに呼び出されたのが自分だけだと気づき困惑した。

「これより李克どのには、他の『四大龍』より一足先に前線に入ってもらいたくてな」

『四大龍』任命式以降、どの敵国も魏国に攻める気配を見せないので、現在『四大龍』は、皆安邑にて悠々自適に生活している。

「ついに、戦ですか?」

 李克は怪訝そうな表情と声で魏成に尋ねた。

「うむ。敵が攻めてくる気配は依然無いのだが、先手必勝じゃ。韓に攻め入る!」

「兵数は?」

「貴殿の兵6万と、南部最前線の各城から兵を集めて、総勢8万」

「予想される敵の兵数は?」

「10万」

「韓のどこを攻めるので?」

「韓国の北部重要都市・芯遍(しんへん)

 李克は大胆な戦略に驚くとともに、自分の任務の重大さを理解し、武者震いした。芯遍は魏韓国境付近で最大規模を誇る城で、この城を取るか取らないかで周辺の情勢が大きく変わるほどの都市である。

「早速難しい任務となりそうだが、貴殿なら出来ると確信しておる。『魏国四大龍』としての初陣だ。鮮やかに勝利を掴み取れ!」

「承知」


 一ヶ月間、熟考に熟考を重ね、やっと李克の頭の中に芯遍攻略の具体的な策が立った。8月7日、李克は自軍と国境付近の各城に出兵を命じ、自らも王都安邑から南部最前線へ馬を走らせた。8月14日、李克軍8万は魏韓国境を超え、韓国に侵攻を開始。芯遍へ向かった。

 一方の韓軍は、8月7日の魏軍出陣の報をきき、翌8日に芯遍一帯に緊急徴兵令を敷いた。そして芯遍への兵糧運び込みや軍備を整えたのち、万全の状態で芯遍に待機。魏軍の侵攻を待ち構えた。

 8月17日、周辺の城を電光石火の勢いで陥落させた李克軍はついに芯遍城へ向けて移動。それを知った韓軍は芯遍城から打って出て、芯遍城手前の芯遍平野に陣取った。

 8月18日、李克軍も芯遍平野に布陣し、両軍がついに対峙した。

 その日の夜、韓軍第二陣にて二人の兵士が話していた。一人は齢60の経験豊富な老兵、もう一人は齢20の血気盛んな若者であった。

老翁(ろうおう)、一つ()せんことがあってべ」

 なかなか眠りにつけなかった若者が老兵に話しかけた。

「なんじゃ?」

「あっしらは芯遍城が狙われているから救援に参ったんだベーさ。なして城からではったべ?」

 老兵はしばらく考え込んで、おもむろに話し始めた。

「これはあくまで小生の考えだが、おそらく敵の数が少ない上に、総大将の能力にも差があるからかのう。まあ、野戦で勝つ見込みがあるから、城から打って出たんだと思われる」

「確かに…。こちらは10万で相手は8万だべし、敵総大将も『四大龍』と言ったって文官上がりの将軍だべな」

「そうだ。こちらの総大将は巡淵(じゅんえん)将軍だからな」

 若者は大きく頷いた後、少し躊躇(ためら)ってから老兵に尋ねた。

「…そういえば、これも疑問に思っとったんだべが」

「何だね?」

「巡淵将軍ってそんなに強いんべか?」

 老兵は呆れたような顔を浮かべながら、これまでの巡淵の活躍について語った。

「芯遍はここら一帯で一番大きい城だ。だから周囲の城の城主は世襲だが芯遍城主は中央から派遣されるのだ。巡淵将軍は史上最年少でその芯遍城主になった逸材だ。そして近いうちに大将軍になるだろうという下馬評だ。巡淵将軍の強みは『いかなる場合も冷静沈着で、常に的確な判断を下す』ことだろうな。簡単そうに聞こえるが、これを実践するのはかなり難しい。戦は命のやりとりの場だから、判断を下す将軍には幾千幾万の命が肩にのしかかっており、とても重圧だ。まあ、巡淵将軍にはその重圧を跳ね退ける自信と才能があるのであろう。感心感心」

 若者は初めは真剣に聞いていたが、だんだん眠気が出てきて、途中から話を聞いていなかった。老兵がやっと話終わったことに気づくと、適当に相槌を打った。

「そして此度は、第一陣に忠遜(ちゅうそん)将軍が入っておられる」

 老兵は思い出したかのように再び語り始めた。

「忠遜将軍は剛勇無双、韓随一の武闘派将軍だ。普段は後詰(ごづめ)として各戦線を周り、敵を粉砕している」

「ふ、粉砕ィ!?」

「とにかく突破力に優れており、今まで獲った武将首の数は100を余裕に超えているという」

「ってことは、とっても強いんべ?ならば第二陣の出番は無しだべ。やったべ」

「うむ。だから若者よ、安心して眠りにつけ」

「そうだべな。少し肩の力が抜けたべ。おやすみだべ」

 

 8月19日早朝、ついに決戦の火蓋が切られた。忠遜軍3万が魏軍第一陣、李覚軍に一斉突撃を敢行し、韓軍が押しまくっていた。

「やったべ。押しまくってるべ。ひょっとして本当に第二陣は何もしなくても勝てるべか?」

 若者が有頂天になって老兵に尋ねた。

「そうだな。さすがは忠遜将軍。全く、『四大龍』も初戦の相手が悪かったな。早くも出鼻をくじかれる形になった」

 老兵も気分を高揚させて答えた。その後も老兵と若者はたわいのない会話をして楽しんだ。

「さて、そろそろ敵が撤退したかのう」

 三時間ほどが経過し、老兵が呟いた。すると丁度その時、韓軍本陣から法螺(ほら)の音がした。

「あれ、この音は…。全軍緊急撤退の命令だべ」

 若者が青ざめて言った。老兵も血の気がひいた顔をした。

 やがて、二人の後方から金属音が聞こえ、土煙が立った。それを見た二人も反転して駆け足で退いた。


 「愚か者どもめがまんまと退きやがった。さて、追撃するか」

「ははっ!全軍出撃!敵の背を追うぞ!」

魏軍総大将、『魏国四大龍』李克の作戦とは!?

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