激動の春秋戦国 秦国 〜商鞅伝 外伝〜
少々脱線して、ここからしばらく魏国四大龍について書こうと思います。
紀元前420年6月26日、王都安邑にて、魏国の軍事に関わる重要な儀式が行われようとしていた。
「これより、『魏国四大龍』の任命式を行う!」
宰相、魏成が威厳のある声で言った。大広間の緊張感は最高潮になった。
「事前に、『魏国四大龍』なる制度を作り、四人の大将軍にそれぞれ東西南北の軍の指揮権を与えると告知しておったが、本日はその四人の大将軍を発表する!」
集められた各地の将軍たちは皆真剣な顔で魏王、文侯の方を向いている。
「では、文侯直々に『魏国四大龍』に名を連ねる大将軍を発表していただきます。では文侯、お願い致します」
魏成が予定通り文侯に振った。文侯は姿勢を正して
「うむ。『魏国四大龍』第一将は、楽羊!」
大きな拍手が場を包んだ。楽羊は起立して一礼し、御前へ進んだ。
「貴殿を『北の大龍』に任命し、北部の指揮権を授ける。持ち前の能力を遺憾なく発揮し、対中山・趙前線を押し上げよ」
「謹んでお受けいたします!魏国の勢力拡大に、微力なれどお力添えできるよう頑張ります!」
楽羊は力強い声で、慣例の感謝の辞を述べた。
「続いて第二将は、西門豹!」
先程には若干劣るものの、大きな拍手が沸き起こった。
「貴殿を『東の大龍』に任命し、東部の指揮権を授ける。以下同様」
「有難き幸せにございます。国のため、民のため、東部の長き戦乱を終わらせることに尽力いたします」
西門豹は、感謝の辞にも『民』の言葉を使うなど、彼らしい挨拶をした。
「続いて第三将は、李克!」
大広間がどよめきに包まれた。集められた将軍の中では、もう貧乏揺すりしている者も見受けられた。文官の李克が『四大龍』に入るとは予想していなかったのだ。
「貴殿を『南の大龍』に任命し、南部の指揮権を授ける。以下同様」
「承りました。文官出身で、個人の武力にも優れておりませんが、他の将軍の方々からご鞭撻を賜り、更に精進していく所存」
李克は、周囲の将軍達から来る殺気をひしひしと感じたので、その将軍達の面子も立てながら、良い感じで感謝の辞を述べた。この語彙力と知識力、そして臨機応変なところは、流石文官といったところだ。
「うむ。良い辞であった。続いて、第四将は……」
文侯はわざと溜めた。集められた将軍たちは、我こそはと願った。そして周囲もその空気を察して、緊張していた。
「第四将は、呉起!」
今日一番の拍手喝采と唸り声、悔しさの余り床を叩く音などが聞こえた。
「貴殿を『西の大龍』に任命し、西部の指揮権を預ける。持ち前の能力を遺憾なく発揮し、対秦前線を押し上げよ」
「承知仕りました!秦の山猿共を平地から追い出してみせましょう!」
「ははは。勇猛果敢な言葉は見事じゃ。では、任命式はこれで終わりとする。皆、ご苦労であった。惜しくも『四大龍』になれなかった者も、諦めずに精進を重ねれば、5人目の大龍になれるかもしれぬ。今後の活躍を期待するぞ」
魏成が上手く場を締め、解散となった。
魏成はもう登場しない予定だったんですが、結構いいキャラになったんで登場させようかなと思います。