表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

②魏国王都

王刮、田蒼、田耳は架空の人物です。

「それにしても、安邑(あんゆう)は広いですな〜」

 衛鞅(えいおう)の小姓、王刮(おうかつ)が感嘆の声をあげた。

「それはそうであろう。大国、()の王都だぞ。しかし、こういう景色を見ると、祖国の衛がどれだけ小さい国であったのか思い知らされるな」

 衛鞅も、安邑の余りの大きさに呆気にとられていた。

「いやー、懐かしいのう。あ、まだあの酒屋は潰れていなかったのか!けしからんな」

 田蒼(でんそう)は、ある酒屋を見て青筋を立てていた。

「田蒼どの、あの酒屋になにか因縁でもあるのか?」

 衛鞅が田蒼に尋ねると、田蒼は興奮冷めやまぬ様子でまくし立てた。

「若い頃、秦国と戦うために儂は徴兵されて安邑へ向かったのですがな、出陣の前日のことです。儂が仲間とともに酒を飲みに来たら、慢性的な酒不足とか何とか、それらしいことを言って、酔った儂らから大量の金を取っていったのです」

 今すぐ怒鳴り込まんとする勢いの田蒼を宥めつつ、衛鞅は今後どうするべきか思案した。

(とりあえず、父上から頂いた(いん)を見せて、魏国の権力者に仕官しようかのう。仕えながら、この国の内情や田耳の行方を調べても何も問題ないはず)

 しかし、魏国の権力者がわからなかったので、衛鞅は田蒼に尋ねた

「そうじゃのう。儂も田舎におるので、そういうことには疎いのです…」

「うーん、参ったのう。何か打てる手はないのか…」

「恐れながら、魏国の権力者というのは、魏国の宰相と言い換えられるのでは?」

 王刮は、衛鞅に怒られると思いながらも、恐る恐る進言した。しかし、衛鞅は怒るどころか、満面の笑みを浮かべて王刮の頭をなでながら言った。

「確かにお主の言うとおりじゃ!全く俺としたことが、肝心なことを考えてなかったわ!感謝するぞ」

 尊敬している主から褒め言葉を頂いたため、王刮は有頂天になった。

「確か、今の魏国の宰相は公叔痤(こうしゅくざ)だったかな」

 大国、魏の宰相の名くらい、知ってて当然だと衛鞅は考えていたが、隣を見ると王刮がキラキラした目で尊敬の眼差しを向けていた。

「いかにも。彼は相当な『やり手』ですから、平身低頭を心がけて用心に付き合わなければ、『あの御方』のようになってしまいますからな」

 一方の田蒼は、険しい表情をしてこう進言した。衛鞅も大いに共感できたので、大きく頷いた。

「恐れながら、『あの御方』とは誰のことですか?」

 王刮は、二人が共通認識している『あの御方』が誰か分からなかったので、正直に尋ねた。

呉起(ごき)大将軍のことです」

 田蒼がしみじみと噛みしめるように言った。本人は冷静を装っているつもりだが、明らかにいつもと雰囲気が違う。

 この雰囲気で尋ねて良いのか王刮は迷ったが、田蒼をこの表情にさせるような人とは、一体どんな方なのか気になり、その欲望に打ち勝てず尋ねた。

「呉起とは、誰ですか?」

「………」

「………」

 二人とも呆れて言葉を失ってしまった。やがて、衛鞅の顔が呆然とした表情から怒りの形相へ徐々に変化した。

「そなたの無知さは昔から知っておったが、流石に酷すぎる!ましてや、田蒼どのが沸き起こる怒りを抑えて話しているというのに。空気を読まんか!」

「まあまあ、そこまで怒らなくても」

 衛鞅の激怒する姿を見て我に返った田蒼が、衛鞅を宥めた。

「今からたっぷりお話しましょう。呉起という稀代の大将軍の一生を!」

 田蒼が満面の笑みを浮かべながら言った。やはり尊敬する人のことを他人に話すというのは愉快らしい。王刮も共感できる部分があった。自身も衛鞅のことをよく友人に話しているからだ。

次回は田蒼の懐古録ということで、呉起の一生を描きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ