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第03話 仲間が増えてしまいました

 次の日、学校に行くと、クラスメイトの水元(みなもと)さんが私を怪しむような目でじっと見つめてきました。

 どうしたんでしょうか。


 あっ、そういえば一昨日おととい業魔の鎧に操られていたのが水元さんです。

 でもその時の記憶はメイドさんたちに封印されているはずなので大丈夫ですね。


 私は落ち着いて鞄から教科書を出します。


 ばさばさばさばさ


 手の震えが伝わった教科書が音を立てました。

 がんばって机の中にしまいます。


 水元さんがこっちに歩いて来ました。


 ひょわわわわわわわわわ


 逃げたいですけどブルブル震える足は立つこともできません。


「ねえ」


「ひゅう」


 話しかけられて変な声が出ました。

 もうダメなのでしょうか。


「ホームルーム始めまーす」

 ここで担任の先生が教室に入って来てくれました。


 水元さんは私の顔をじっと見つめてから、自分の席に戻って行きました。


 助かりました。

 もう少し生きていられそうです。

 昼休みまでくらいは何とか。


 人生でやり残したことなどを数えつつ、ホームルームも授業も上の空で過ごしてついに昼休みです。


 水元さんが机をガタガタと引きずってこちらに来ました。


「塚原さんは弁当?」

「ははははははい」

「そ。私も弁当」


 机をくっつけて水元さんが座ります。


「話は放課後にしよっか。昼休みは短いしね。尋問には時間をかけないと。今は食べよう」


 放課後までは生きていられそうです。


 緊張の中、お弁当を食べます。

 こんな時でもご飯は美味しいです。

 今という瞬間を大事に生きなければなりません。

 味わえるうちは味わいましょう。




 午後の授業も終わって、いよいよ放課後です。

 大丈夫です。時間を置くことで落ち着きました。私が何か悪いことをしたわけでもありません。命までは取らないと思います。


 それにしても話というのは昨日の出来事についてなのでしょうが、記憶の封印はどうなっているのでしょうか。

 カラーコンタクトの取り忘れのことを思い出します。

 メイドさんたちはあまりきちんと仕事を遂行する人たちではないのかもしれません。


 空き教室で水元みなもとさんと向かい合います。

 何を訊かれようと落ち着いて対処しましょう。




「記憶はおぼろげなんだけど、塚原さん、私のことすっぽんぽんにしなかった?」


「ひょわ!?」


 思わぬ方向から攻められて動揺します。

 冷静に対応するつもりでしたが守っていないところを攻められてはどうしようもありません。


「やっぱりしたのね! 私のことをすっぽんぽんに! すっぽんぽんに!」


 してません。

 いえ、しましたね。


 業魔の鎧を封印したとき水元さんはすっぽんぽんになってしまいました。

 そこだけ切り取ってみれば私が水元さんをすっぽんぽんにしたのだと言うことができてしまいます。


 事実が真実を表しているとは限らないという好例ですね。


「どういうわけで私をすっぽんぽんにしたの! 理由を言えい!」


 中途半端に記憶があるせいであらぬ誤解を受けています。全部忘れているか全部覚えているかどちらかにしてほしかったです。


「ひょわ、ひょわ、ひょわわ」


 どう答えていいか分からず、変な声ばかりが口から洩れます。


 ガラリ。


 そのとき、私たちがいる空き教室の戸が開きました。




「ぐるあー」




 業魔の鎧さんがそこにいました。


 紫色にゆらゆら揺れる光を立ち上のぼらせて、あちこちに痛そうなトゲトゲがついた、とっても危なそうな鎧さんです。


「な、なにあれ……なんなの、あの着て暴れると楽しそうな鎧は!」


 水元さんが目を輝かせて叫びます。

 こんなにキラキラした目は初めて見ました。


「ぐるあー」


 業魔の鎧さんがゆっくりと近づいてきます。


 尋問されて処理能力の限界まできていた私は動くことができません。


 バサッ。


 私の鞄から魔法少女回数券が自動的に飛び出してきました。

 空中に浮いて、点滅しながらテレレッ、テレレッ、とアラームを鳴らします。


「これを引けばいいのね!」


 止める間もなく、水元さんがユニバーサルデザインの矢印に従って魔法少女回数券を1枚ちぎり取りました。


 そして投げろ、というアイコンに従って回数券を投げます。

 おおきく振りかぶって。


「死ねえええええ!!!」


 業魔の鎧さんに向かって投げつけてますが攻撃アイテムではないのですけど。


 そんな投げ方でも回数券はちゃんと機能を発揮して、扉が8個、水元さんを囲むように現れました。


 扉が開いてメイドさんたちが出てきます。


「魔法少女メイド隊、参上(つかまつ)りやした。変身シーン参ります! そーれすっぽんぽん!」


 この間と同じく、拘束係、音楽係、エフェクト係、お着替え係に分かれて、変身シーンの始まりです。


 水元さんがあっという間にすっぽんぽんにされました。


「なるほど! こうやって私をすっぽんぽんにしたのね! こうやって!」


 違います。


 それにしてもメイドさんが言った通り、リボンや花びらで肝心な部分は見えないんですね。


 テキパキと魔法少女コスチュームが着せられていき、水元さんは黄色いカラーリングの魔法少女姿になりました。

 私のとデザインが違うんですね。


 最後に黄色い宝石が装着されます。




「ぬうううう!」




 体に電流が走るような衝撃に思わず出てしまう声が、なんだか男らしいです。

 表情は色っぽいんですが。


「魔法少女名の登録をお願いしやす」


「そうね、さっきのお札が回数券みたいだから、魔法少女カイスーケン!」




『その魔法少女名はすでに使われています』




 そっけないアナウンスの声が響きます。


「なにーっ! どこのどいつが! おのれ、草の根分けても探し出して目に物見せてくれる!」


 ひょわわわわわわわわわわ


「じゃあ、とりあえず、魔法少女マッハケン! なんか最後がケンで終わるのしか出てこなかった!」


『はい、マッハケン、登録されました』


 ビシッとメイドさんの補助なしでポーズを決めて、変身終了です。


「私は黄色かー。おっぱい大きいと黄色が似合うもんね」


 似合ってますね。ぐぬぬ。


「では黄色いアネさん、ちょっと待ってておくんなさい。オラァ! ぶち殺したるわ!!!」


 メイドさんたちが業魔の鎧さんに襲いかかります。


「そいつボコすの? 私もやるー!」


 黄色い魔法少女姿の水元さんが業魔の鎧さんに殴りかかります。

 パイプ椅子を振り上げる水元さんの姿はとっても楽しそうです。躍動感というものを感じます。


「魔法少女衣装着て暴れるのたのしー」




 やがて、業魔の鎧さんはあちこちがベコベコに凹んだ鎧さんになって動かなくなりました。


「さ、封印なさっておくんなさい」


「こうね!」


 水元さんが黒い宝石に手を当てると、鎧が砕けて宝石に吸い込まれていきます。


 後にはすっぽんぽんの女の子が残りました。


「死んでるの!? 私は知らなかったから無罪! 早く埋めよう」




「死んでねーよ。とにかく助かった。おまえ水元か? ひでー格好だな」

 すっぽんぽんの女の子が起き上がりました。


「ああ? 似合うでしょ! 黄色!」


 驚いたことに、業魔の鎧の中にいた人は意識があったようです。髪を金色に染めた女の子がメイドさんにジャージを着せてもらいます。


「なんだ、クラスのぼっち不良じゃん。鎧着て暴れるとかどうかしてるね」


 この間鎧を着て暴れてた人が何か言っています。


「うっせーな、操られてたんだよ。これでもなるべくものを壊さないように壁とか殴ってたんだぞ」


「操られてたんなら無罪なんだから好きに暴れればいいのに」


 水元さんより不良さんの方がいい人みたいです。


 不良さんは私たちと同じクラスで、名前は肘川ひじかわさんといいます。

 金髪にピアスで、いつも一人で不機嫌そうな顔をしている人でしたが。


「悪いな、塚原。怖かったろ」


 私のことを気遣ってくれます。

 いい人みたいです。


「ところが塚原さんって、おとなしそうな顔して私をすっぽんぽんにするような人なんだよ!」


 水元さんよりはずっと。


「アネさんがた、お茶淹れましたんでとりあえず落ち着いておくんなさい」


 いつのまにかメイドさんたちがお茶とお菓子を用意してくれました。


「その前に、ちょっとガラスとか割っちゃったから片付けねーと」


「あっしらがやっておきますから。そういう始末もあっしらの仕事でさ。アンリアルスペース作ってありやすから、急がなくて結構ですんで。ささ、お座りください」


「そっか、あんがとな。あんたらも座れよ」


「優しい! 産休中の姐さんとは大違いだ」




 そんなこんなでみんなでお茶です。

 お茶しながら、昨日私も聞いた設定をメイドさんが説明してくれました。


「じゃあ塚原も魔法少女なのか。意外だな。水元といっしょじゃ大変だろ」


「いっしょってわけではないんですけど」


「まあこれからはいっしょに魔法少女活動するわけだし、よろしくね!」


 これからはいっしょに活動するんでしょうか。

 いつ決まったんでしょう。


「さっき業魔の鎧とかいうのを着せられたわけだし、設定だとオレも魔法少女になれるってことか?」


「そうでやすね。魔法装備との親和性ができてるはずです」


「じゃあオレもやるよ。魔法少女。水元といっしょじゃ塚原がかわいそうだ」


 助かりますが、いいんでしょうか。増やしてしまって。


「かまいませんでさ。きっと姐さんも言ってたんじゃないですか。『思うようにやりな。あんたは自由だ』みたいなこと」


「よーし、それじゃ魔法少女ユニット結成ー! とりあえず二人とも変身しなよ」


 私と肘川さんが魔法少女回数券を一枚ずつちぎり取ります。

 矢印に従って投げると、それぞれ8人のメイドさんたちが新たにドアから出てきました。

 水元さんが呼んだのと合わせて24人のメイドさんで空き教室はいっぱいです。


 そして変身です。

 またすっぽんぽんです。


 メイドさんたちが魔法少女コスチュームを私たちに着せていきます。


「塚原さんはピンクかー。おっぱい小さいから似合うね!」


 ぐぬぬ。


「魔法少女ハッピーアーム!」


 肘川さんが名乗りを上げます。




『はい、ハッピーアーム、登録されました』




 私と水元さんの魔法少女コスチュームは、ふわふわひらひらしたいかにも魔法少女らしい衣装ですが、肘川さんは白銀の鎧を女性らしくアレンジした、戦乙女といった感じのコスチュームでした。


 とってもかっこよくて綺麗です。


「鎧なデザインか。できれば黒が良かったけど業魔の鎧とかぶっちゃうからな。まあ白も悪くない」




「それじゃあこれから毎日業魔の鎧をボコボコにしようね! そうだ、下の名前で呼び合おう。私は水元みなもとみなと! みなとって呼んでね!」


「オレは肘川ひじかわこゆみ。フツーにこゆみと呼んでくれ」


「私は塚原つかはらもみじです。もみじと呼んでください」


 こうして仲間ができました。一人で魔法少女をやっていくのはちょっと不安だったのでありがたいです。


 こゆみさんはいい人みたいですし。


「えー! 魔法少女名って後から変えられないの!? なんてこったい、マッハケンって。マッハケンって。それもこれもカイスーケンのせいだ! 目に物見せてくれる! べしっ! べしっ!」


 みなとさんが私にチョップを寸止めしながら口でべしべし言っています。


 こゆみさんはいい人なんですけどね。




 これからは三人です。


 みなとさんはやる気満々だし。こゆみさんは頼りになりそうです。

 私も頑張りたいと思います。




 ちなみに、こゆみさんの変身の最後に宝石が装着された時に出てしまった声は、『きゃん!』というかわいいものでした。


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