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第02話 説明回でした

 メイドさんにすっぽんぽんにされて魔法少女になる夢を見ました。




 いえ、夢ではありませんね。目が覚めると見慣れないジャージを着ていました。

 起きあがって机の上に置いてある眼鏡をかけます。


 グラッ、と目眩めまいがしました。

「あれ?」

 ちょっと気持ち悪くなって眼鏡を外します。

「どしたんだろ……あれ?」

 眼鏡を外してもはっきり見えます。

「なんで……あ」


 鏡に映った私の瞳がピンク色です。


 カラーコンタクトをつけたままでした。

 度も入ってるんですね。

 メイドさんが外し忘れたのでしょう。


「これはどうやって取ればいいんでしょうか……」

 

 パソコンを開いて検索して見ます。


「コンタクトの取り方……こうですか。ちょっと怖いですね」


 目に指を近づけた時点で、怖くてその先までできませんでした。

 魔法少女装備を自分で外していいのかどうかもわかりません。


「メイドさんに取ってもらった方がいいかな。こんなことで呼び出してもいいんでしょうか……」


 呼び出す前にとりあえずお茶の用意をしておきましょう。部屋を出てキッチンに降りて行きます。




「お姉ちゃんおはよー。なんでジャージ? あれ、その目どうしたの?」


 キッチンに妹がいました。


「おはよ。魔法少女関連でちょっとあって。昨夜ゆうべうるさくなかった?」

「別にー? なんかあったの? 気づかなかったけど」


 結構騒がしくしていたと思うんですが、気づかないものでしょうか。


「湯呑みって8人分あったっけ」

「そこの棚にあると思うよ。お湯も沸かす?」


 話が早くてありがたい妹です。


「うん。このポテチときのこ、もらっちゃっていいかな」

「いいんじゃない」


 かつて存在したというたけのこは戦争に負けてこの時代には絶滅しています。たけのこの冥福を祈りましよう。なむなむ。




 沸かしたお湯をポットに詰めて湯呑みと急須とお菓子とお茶葉とをお盆に乗せて私の部屋に戻ります。


 お茶の用意をして。

 回数券を一枚ちぎり取って投げました。


 扉が8つ出てきたらこの部屋はぎゅうぎゅうです。

 大丈夫でしょうか。


 と思ったら出てきたドアは一つだけでした。


「状況に応じて融通きかせるくらいはわきまえてまさ」


 扉を開けて出てきたメイドさんが言いました。

 一つの扉からぞろぞろと8人出てきます。


「それでは変身いきやすね!」

「あ、変身はしなくていいんですけど」

「問答無用でございます!」


 問答無用ですっぽんぽんにされました。

 例によってBGMと背景演出がつきます。今回は鎧さんを拘束しなくていいので着替えは4人がかりでした。


「変身バンクはためぞ〜 男性視聴者それとも作画〜」

 また変な歌を歌っています。


 メイドさんが私の目を見て、あれっ? という表情をしました。カラーコンタクトの取り忘れに気づいたようです。


「魔法少女カイスーケン!」


 名乗りを名乗って変身終了です。

 メイドさんたちが私の前にひざまずきました。


「魔法少女メイド隊、参上(つかまつ)りやした。して御用のおもむきは?」


「まずはお茶をどうぞ」

「えっ」


 お茶をすすめてみると、メイドさんたちが大きく目をみはり、それからハラハラと涙を落とし始めました。どうしたんでしょう。


「やさしい! なんてやさしいアネさんなんだ!」

「前のあねさんときたら掃除はさせるわ酒買いに行かせるわ……!」

「誰かに淹れてもらうお茶なんて何年ぶりだろう……」


 苦労していたようです。


 前の姐さんというのは産休を取った綺麗なお姉さんのことでしょうか。

 思い出してみると、失礼ですが確かにそういうことをしそうな人に思えました。


「まずは一杯どうぞ。お菓子も」

「いただきやす。くう〜、沁みます、体に心に」




 しばらくもぐもぐ飲み飲みして落ち着いてから。


「今回お呼びだてしたのはですね、コンタクトを取ってもらおうと思ったんです。自分では取れなくて。それと色々説明していただければと思いまして」


「取り忘れて申し訳ありやせん。変身解除する時忘れずに取りますんで。アネさん、説明書読むタイプなんですね。いいと思いますよ」


「あっちの姐さんときたら突然パソコン買ってきてあっしらにセットアップ丸投げしたりでしたからねえ。いえ悪い人ではないんですが」

「マイナポイントの申請もやらされましたっけねえ。悪い人ではないんですけど」

「車のバッテリーが上がった時も呼ばれやしたねえ。悪い人じゃないんですけど」


 悪い人ではないようです。


「そんな姐さんも去年ようやくツンデレを克服してずっと好きだった幼馴染の男と結ばれやしたからねえ。よかったよかった」

「ハラハラしながら見守ってた甲斐がありやしたね」

「あっしらに自慢げな顔してくるのがウザいですけどねえ。悪い人ではないんですが」


 なるほど、あの綺麗なお姉さんは幼馴染さんと結ばれて、こここっここ子供ができたという訳ですね。

 ひょわわわわ。


「おや、こちらのアネさん顔が真っ赤ですよ」

「子作りの想像しちゃったかな?」

「かわいーですねえ」

「まだお若いですもんねえ」


「あぅあわわ」

 動揺しやすい私です。


「ではアネさんのかわいいところを見れたところでご説明に入らせていただきやすね。まずあっしら魔法少女メイド隊についてですが、これは変身シーンに新機軸をもたらそうってんで生まれてきたものになりやす」


「変身シーンに新機軸」


「へい。そこらの魔法少女の変身シーンって、衣装や装備が自動的に装着されるじゃないですか」


 色々な魔法少女ものの変身シーンを思い浮かべてみます。確かにそうみたいです。


「どっかから飛んできたりとか、光がまとわりついてからポンと衣装に変わったりとか、そんな感じのやつですね。とにかく変身シーンってのは魔法少女ものの醍醐味、売りになるところなわけですけど」


 ちょん!


 メイドさんの一人が拍子木を打ちました。

「これは長いセリフを区切って読みやすくするもんでやす」


「それで、その魔法少女の変身シーンを人力で着せ替えやったら新しいんじゃないかってのがあっしら魔法少女メイド隊のコンセプトでやす」


 ちょん!


「作画が大変でやすけどね」


 ちょん!


「変身シーンを擬人化したもんって感じです」


 ちょん!


「ちなみにあっしらメイド隊は」


 ちょん!


「全員で意識を」


 ちょん!


「共有した」


 ちょん!


「集合体」


 ちょん!


「です」




 区切りすぎではないでしょうか。




「次に世界観 ((誤用))の説明ですが、まずあの業魔の鎧ですけど、あれはこことは別の世界、【魔法異世界マギワルド】から追放された反逆の狂魔術師マッドマジシャンが魔法少女コスチュームを魔改造したものになりやす」


 あまり魔法少女の衣装と似てませんけどずいぶん改造したものです。


「狂魔術師は人々にむりやり業魔の鎧を着せて暴れさせるという迷惑行為を繰り返して、マギワルドから追放されたんす」


 ちょん!


「それで性懲りも無くこっちの世界にの住人に業魔の鎧を強制的に着せようと侵入してきたわけです」


「はあ、狂魔術師マッドマジシャンさんはなぜそのようなことを?」


「趣味だそうです」


 なるほど迷惑ですね。


「それが10年前くらいでやすかね。よその世界に迷惑かけちゃいけねえってんで、マギワルドから追っ手が派遣されたんでやすが、別世界での活動にはちょっと規制がありやして、うまく対処できやせんでね」


 ちょん!


「それで業魔の鎧を着せられた最初の被害者の女の子(当時)に魔法少女になってもらって、狂魔術師に対抗することになったんす。それが昨日アネさんもお会いしたあねさんでやす」


「それで、その産休取ったお姉さんの代理に私が選ばれたのはどうしてなんでしょうか」


「それはですね、魔法少女コスチュームってのはマギワルドの住人の標準装備なんでやすが、本来こっちの世界の住人には装着できないんすよ」


 ちょん!


「それが業魔の鎧の方はこっちの住人にも強制的に装着させることができやしてね、そしていったん業魔の鎧を装着されると、こちらの人間にも魔法装備への親和性ができて、魔法少女コスチュームも装着できるようになるんす」


「え? じゃあ私、前に業魔の鎧さんを着たことがあるんですか?」


「そうでさ。業魔の鎧に取り憑かれていたアネさんをあちらの姐さんが助けたんでさ。1年前くらいでやすかね。姐さんが結婚する直前のことでしたから印象に残ってたんですねえ」


 ちょん!


「業魔の鎧を着た人は普通好き勝手に暴れるんですけど、そのときアネさんは暴れる代わりにひたすら雪かきしてやしたねえ」


 ちょん!


「性格が出たんでしょうねえ、雪かきも見方によっては破壊活動と言えなくもないですしねえ」


 ちょん!


「業魔の鎧着てても人の役に立つ破壊活動をするアネさんはいい子ですねえ」


 ちょん!


「あちらの姐さんも自分家の前の除雪してもらえて助かったって言ってましたねえ」


 褒められて少しむず痒いです。


「その時のことを覚えてないのはどういうわけなんでしょう」


「業魔の鎧はそれを知ってる人間が多いほど現れる確率が上がるってな設定になってるんです。なのでその時の記憶は封印させてもらいやした」


 ちょん!


「そろそろ拍子木がうっとうしいですね、やめにしやしょうか」


 ちょんちょんちょんちょんちょんちょん!


「アネさんも魔法少女になったわけですし、記憶の封印を解除しましょか。はい!」


 ガチャリ。


 何かが頭の中で開いた感覚がして、『そのとき』の記憶がよみがえりました。




 部屋で勉強しているところに窓から業魔の鎧さんが入ってきて、ぐるあ、とうなりながら私の服を脱がします。

 すっぽんぽんにされた私にガシャンと開いた業魔の鎧さんがかぶさって、私は業魔の鎧を着た人になってしまいました。

 そしたら無性に暴れたくなりましたが、周りの迷惑になるといけないのでちょうど積もっていた雪をどかすことにしました。


 むにゃむにゃ、鎧着て雪かきするの楽しー。


 だいぶ雪かきが進んだところで、かわいい魔法少女の衣装をつけた綺麗なお姉さんがやってきて、「やっておしまい!」と言うと、メイドさんたちが襲いかかってきました。

 拘束されてボコボコにされて、最後に綺麗なお姉さんに業魔の鎧を封印されて、また私はすっぽんぽんです。

 それからジャージを着せてもらって、私の部屋まで運ばれて、ベッドに寝かせてもらいました。




 なるほどこういう成り行きだったんですね。

 そういえばいつだったか知らないジャージを着て目が覚めたことがありました。


「それで業魔の鎧を着せられて魔法装備への親和性ができた人間の中から魔法少女として活動してくれそうな人を選んで、それがアネさんだったってわけです」


「なるほど、私が選ばれた理由はわかりました。魔法少女の代理のお仕事、がんばりますね」


「ありがとうございやす。他に何か疑問とかありませんか?」


「そうですね、昨夜は結構うるさくしてたと思うんですが、家にいたはずの妹が気づいていなかったのはどういうわけでしょう」


「魔法少女に変身中は『アンリアルスペース』っていう異空間を形成するようになってんです。よくある設定すね。この中の出来事はリアルワールドに伝わらないようになってやす」


「便利なんですね」


「業魔の鎧のことが世間に知れ渡るとまずいって設定になってやすからね。こういう配慮がいるわけす」


「今のところ思いつく質問はこれで全部です。ありがとうございました」


「いえいえ。では変身解除いたしやすね。そーれすっぽんぽん!」


 またすっぽんぽんです。

 恥ずかしいのには慣れません。


「いつまでも羞恥心を忘れずに! その方が売れやす!」


 今度はちゃんとコンタクトも取ってもらって、メガネもかけてもらいました。

 ジャージ姿に戻ります。


「それではまたお呼びください。お茶とお菓子ごちそうさまでした」


 メイドさんたちがそろって頭を下げて、順番にドアに入って行きます。

 最後の一人が入ると、ドアは光って消えました。


 消える時はこんなエフェクトなんですね。


 ドアのあった所に、使用済み印が押された回数券が落ちていました。

 拾ってクリアファイルに挟みます。

 記念に取っておきましょう。

 リビングのどこかにも昨日の分が落ちてるのかな?

 あとで探してみましょう。




 綺麗なお姉さんの産休が明けるまで、私は魔法少女です。


 ちゃんとやれるかわかりませんが、メイドさんたちもついてくれています。




 がんばろうと思います。


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