第四十三話
シャルと悪魔達が姿を消した後ノクトは後ろを振り返って歩き出す。
「ノクト。どこに行くんだ?」
ラザフォードは横を通るノクトに話しかけた。
「すみません。少し一人にしてもらえませんか?」
横を過ぎたノクトはラザフォードと顔を合わせずに氷漬けになった村の路地を歩いていく。
ノクトが歩き進み姿が小さくなるとラザフォードは小さくため息を吐いた。
「まさか悪魔側の女と知り合いだとは」
仮面の少女がシャルと判明してシャルに思いをぶつけている時は堂々としていたが、シャルの姿を消してラザフォードの横を通り過ぎる瞬間、表情に陰りが見えたノクトにラザフォードは掛ける言葉がなかった。
「獣人のおじさん。先生どこに行くんでしょうか?」
「分からんがノクトが言ったように少し一人にしてあげた方が良いだろうな」
ラザフォードの後ろに立っているホホはノクトの戦気を尋ねたがラザフォードにも見当がつかない。けれどラザフォードの左目を使えばノクトの魔力をすぐ見つけられる。ラザフォードはノクトの気持ちが整理を付けるまで一人にするようにホホに伝える。
ノクトは目的地を考えずにただ歩いていると氷漬けの村から出て今日の昼間に修業をしていた場所まで足を運んでいた。
ノクトは地面に仰向けに寝転んだ。
「何で嫌な予感が当たるんだよ……」
ノクトは仰向けのまま左腕で目元の上に添えた状態で呟いた。
悪魔達の襲撃の後シルフィーから仮面の少女の話と実際の姿を魔石で確認した時、ノクトには分かっていた。仮面の少女は二年前消息不明だったシャルだと。
最初は悪魔達が連れ去ったアンリの姿をした悪魔だと考えようとした。けれど実際に仮面の少女の正体がシャルだと判明した事でノクトの淡い期待は砕かれた。
正真正銘シャルが仮面の少女としてこれから立ちはだかる敵として対峙していかないといけない相手である事実を一人になって頭の中を整理して改めて認識した。
認識した途端、どうしてこんなことになってしまったのかとどうしようもできない事で悔やむ。
二年前シャルがいなくなる前に家に戻っていればこんな事態にならなかったなどと過ぎてしまった事を考えても仕方ないとノクト自身分かっているのに悔やみきれずにいるのが今の現状だ。
どこで間違ったのか。どうしていればシャルが敵として戦わずにいられたのか。シャルが辛い思いまでして平和を求めるのか。考えても話ksらない事を延々と考えてしまう。
ノクトは目元を隠していた左腕をどけると目に映る空はいつの間にか夜の帳に覆われていた。
「もうこんな時間か」
目元を隠して考えている内に時間があっという間に過ぎてしまったようだ。
時間があっという間に過ぎたというのにノクトの頭の中は整理がついていなかった。
「先生」
地面に寝転んでいるノクトはその呼び方と声に誰が呼び掛けたのかすぐ気づく。
「何の用だホホ」
ホホがノクトの傍に立っていた。
「獣人のおじさんから先生が個々にいると教えてもらいました」
「なるほど。道理でホホが俺の居場所を知ってるわけだ」
ラザフォードにはノクトの魔力を目視できる力がある。ホホはラザフォードからノクトの居場所を聞いたのだ。
「先生はあの女の人とはどんな関係なんですか?」
「ラザフォードさんから聞いて来いと言われたのか?」
ホホが悪魔側にいたシャルとの関係を尋ねるとノクトはホホが尋ねた内容を指示したのがラザフォードなのか質問した。
「気分を害してしまってすみません」
「大丈夫だ。結局悪魔に巻き込まれたホホにも言わないといけないことだ」
ホホはノクトが踏み入れてもしくない話題に足を踏み入れたと感じて咄嗟に謝るがノクトは気にしなくていいと伝える。
「俺と悪魔側にいた女、シャルロットは二年前まで一緒に暮らしてた家族なんだ」
ノクトからシャルとの関係を聞いたホホは驚いた表情を一瞬見せるが、その後曇った表情に変わる。
ノクトはその後、シャルロットとの関係や二年前に起きた事を口頭で伝えた。
ノクトが悪魔を生み出した魔王の子孫である事。
悪魔に養父のエドワードを殺された事。
悪魔の手によってシャルの双子の姉であるアンリが攫われた事。
家に戻るとシャルが消息を絶った事。
魔王の子孫であるために処刑されそうになった事。
勇者の紋章を持っていた事で命拾いした事全てをホホに話した。
ノクトから二年前に起きた事を聞いたホホは無言のまま涙を流していた。
「なんでホホが泣くんだよ?」
ホホが涙を流した途端ノクトは少し驚いた。
「だって……先生、それだけ辛い事が起きたのに目をそらしてないから、すごいと思ったんです」
ホホは涙声でノクトが目の前の辛い事態に立ち向かってきた事実に心打たれていた。
「実際、目を逸らしたかった時もあった。けど今の師匠が言った言葉なんだが、目を逸らしたところで事態は何も変わらない。目を逸らす時間があるなら目の前の事態を解決する策を考えろって言われたんだ」
ノクトはレイノスに弟子入りした直後に言われた言葉を口にしていた。
「けど、今日の出来事にはとても目を逸らさないでいられなかった」
ノクトは自分でも無意識のうちに本音を吐露していた。それに気付いたのは自分が吐露したすぐ後だった。
「情けないところを見せたな。忘れてくれホホ」
ノクトは体を起こして地面に座った状態になり無意識で口にした事を聞いていたホホに忘れてほしいと言った。
「良いじゃないですか。情けなくたって」
ホホはどこか落ち着いたような声音で言葉を紡いだ。
「人間誰だって頑張れば疲れます。辛い状況に立ち向かって頑張り続ければ疲れるのは当たり前です。あたしだって先生から与えられた宿題をこなすのに頑張って疲れました」
ホホは地面に膝を付けてノクトと同じ目線になった。
「先生はあたし以上に辛い状況に立ち向かって頑張り続けたんです。少しくらい情けないところがあるくらいでいいと思います」
ノクトは話をしているホホを見ると、ホホは安らかな笑顔でノクトを見ていた。
「この数日魔法薬を教えて下さった先生はあたしにとって憧れの存在です。だから頼みに来ました」
ホホは言葉を発した直後座ったまま地面に手を付けて頭を地面すれすれまで下げた。
「お願いします!あたしに先生の旅の道中で魔法薬についてこれからも教えて下さい!」
お疲れ様です。
tawashiと申す者です。
本日も読んで下さり誠にありがとうございます。
明日も用濾しますので良ければ次話も読んで下さい。