第三十八話
ノクトの目の前に映るのは王宮内の地下室。二年前ノクトが魔王の子孫という事で処刑の審判が下るまで放り込まれていた独房の一つに一人の男がいた。
その男は先程悪魔達が手足をへし折ってノクトが記憶を読んでいる男だった。
男が入ってる独房に誰かが近付く足音が聞こえてくる。足とを聞こえた男は独房の外を格子越しに見た。
男が格子越しに見えた人物は聖母教徒が共通する法衣を羽織っている。法衣を羽織っている人物は顔からベールを被っているせいではっきりと人相が確認できない。
「死刑囚ダリル。まだ生きていたか」
ベールの人物は目の前の独房にいる男——ダリルに話しかけた。
「あぁ、あんたらが毎日クソ不味い飯を恵んでくれているおかげでな」
ダリルは目の前のベールの人物に嫌味たっぷりな表情を向けて返答する。
「私はここで長話をしたくない。なので単刀直入に話す」
「そんなのいつものことじゃねえか」
「ある条件を呑むならお前をここから出してやる。しかも今までの罪は不問に期すだけではない。ここから出た後の生活も保障してやる」
ベールの人物がダリルと交渉をするための入り口として話を始めた直後、ダリルは目の色を変えてベールの人物の方を見た。
「その様子だとさぞやここから出たいようだな?」
「当たり前だろ!ここにいたとしてもいつか処刑されるんだ!こんなクソった麗奈場所から出られるならなんだってする!」
ダリルは相当この独房から出て自由の身になりたいらしい。
「この王都から南南東に位置する村を丁度一週間後に誰にも見つからないで村の建物すべてを放火するんだ」
ベールの人物から聞いた条件はかつて金銭的に高価な品を盗むために王都の建物を放火し人気がなくなった時を狙い盗みを働いた事でダリルが捕縛されて収監された犯罪を再び行うというものだ。
ベールの人物の話を聞いたダリルは再び犯罪に手を染める罪悪感でもなく何も咎められる事なく放火魔として悪事を働ける爽快感でもなく、ベールの人物——聖母教徒ですら人の住む場所や最悪人の命を奪う事すらいとわない事への嫌悪感だけだった。
「やっぱり聖母教徒も俺達犯罪者と何も変わらないんだな。人の命を弄ぶ事に罪悪感も爽快感も感じない。ただの作業として人の命を奪うだけの人間だ」
「死刑囚如きが勘違いするな。お前の犯した事は犯罪だが私達聖母教徒が行うのは世界を救うための天啓だ」
ダリルは心の中で自分と目の前で語る聖母教徒がする事に何の差があるのか理解できなかった。
「けど一週間後に村を焼き払えば俺は釈放されてこれからの生活を保障してくれるんだよな?」
「村を焼き払う理由について尋ねないのは殊勝な事だ」
「聞いたところで俺には何の関係もない。俺はただ自由になれればそれでいい」
どれだけ道徳的に反しようがダリルは自分が自由になるためならなんだってする人間である事がベールの人物との一連の会話で大体理解できた。ベールの人物もそれを理解していたからダリルを使った。
「それでは一週間後誰にも気づかれずに村を放火するのだ。それがお前を自由にする条件だ。失敗すればどうなるかは理解できるだろう?」
ベールの人物が最後に言った言葉はダリルも理解できている。
失敗すれば口封じとして即処刑される。つまりベールの人物の依頼を拒否しても失敗してもダリルに未来はない。ダリルは話を持ち掛けられた時点で理解できているから何も問う事なくベールの人物の依頼を即決して受けたのだろう。
「分かってるから早くこのクソったれな場所から出してくれ」
ダリルの頼みを聞いたベールの人物は独房の鍵を開けて扉を開ける。
独房の扉が開くとダリルは即座に独房から飛び出して地下室から出て行く。
お疲れ様です。
tawashiと申す者です。
本日も読んで頂き誠にありがとうございます。
これからも燈越しますので気が向いたら読んで下さい。