第三十一話(表裏)
飛び込んできた仮面の少女が斬りかかる大剣をファルコは構えた聖剣で受け止めた。受け止めたファルコは前回の経験と今の仮面の少女自身の背丈に近い大剣を軽々と振り切れる技量を見て鍔迫り合いを避けるために聖剣で受け止めた大剣を払った。
大剣を払われた仮面の少女は構えている大剣で再び斬りかかる。斬りかかる仮面の少女の大剣をファルコは聖剣で真っ向から受け止めるのではなく大剣を横から聖剣で斬り込み受け流す。
大剣と聖剣の剣戟を繰り広げている仮面の少女とファルコに悪魔達は展開した魔法陣を向けた。
剣戟を繰り広げている二人に向けた悪魔達の魔法陣から光の弾丸が連射された。連射された光の弾丸は真っ直ぐに二人の元へ高速で飛んでいく。
仮面の少女には黒の外套で攻撃を防ぐ事が可能であるのはファルコもシルフィーも知っている。これもまた仮面の少女との剣戟で防ぐ事も躱す事もできないファルコに必中させるための策であろう。
連射された高速で進む弾丸は剣戟で手一杯のファルコに命中する寸前、光の弾丸はファルコに被弾する前に見えない何かに弾き返されてファルコを守った。
悪魔達が剣戟を繰り広げている二人の後ろを見ると光を纏った聖剣をファルコに向けているシルフィーがいた。
シルフィーの聖剣術による見えない盾で悪魔の攻撃は全弾防がれた。
「やはり勇者様の聖剣術は厄介ですね」
悪魔の魔術を全て防いだ聖剣術を使用したシルフィーに対して仮面の少女は吐き捨てるように言った。
悪魔達は次に展開した魔法陣をシルフィーに向けた。シルフィーに向けた魔法陣から光の弾丸が高速で連射された。シルフィーを狙った攻撃を放った時にはシルフィーの姿が消えていなくなっていた。
消えたシルフィーの姿を探している屋根の上の悪魔達の一体の背後にシルフィーは移動していた。
シルフィーの勇者の力である移動速度の急激な向上を使用して悪魔達の魔術を全弾躱した上悪魔の一体の背後に回り込んだ。背後に回り込んだシルフィーは聖剣を悪魔に向かって斬りかかろうとする。
シルフィーの聖剣の聖剣術には一切攻撃性能がない。しかし聖剣自体で悪魔を斬りかかれば悪魔にとって致命傷になる。つまりシルフィーの高速の移動速度と聖剣術の盾があれば攻撃から身を守る事ができて、高速の移動速度と聖剣があれば悪魔を着実に滅する事も可能だ。
悪魔一体の背後で斬りかかったシルフィーの聖剣が悪魔に触れる直前、ナイフのような刃物がシルフィーと悪魔の間に飛んできてシルフィーの斬りかかった聖剣とぶつかりシルフィーの斬りかかった聖剣の軌道を変えた。悪魔の背後を狙った聖剣の斬撃が突如飛んできたナイフに軌道を逸らされ空を切ってしまった。
シルフィーに背中を見せた悪魔は聖剣が空を切った直後シルフィーから距離を取った。
シルフィーは聖剣の軌道を変えたナイフが飛んできた方向を見た。シルフィーの視界に入ったのは片手で大剣でファルコと剣戟を続けている仮面の少女がいた。おそらくファルコを相手にしながら背後を取られた悪魔を守るため魔術によって生成しナイフを投擲したのだろう。
仮面の少女はナイフを投擲したであろう手をシルフィーに向けた。
「っ!どこでもいいから走れ!勇者シルフィー!」
ファルコは剣戟を繰り広げている仮面の少女がシルフィーの方に伸ばした手を見て咄嗟に今いる場所を離れるよう大声で告げた。しかし遅かった。仮面の少女が伸ばした手に勢いよく吸い寄せられるようにシルフィーの体が仮面の少女の手に向かって引き寄せられた。
シルフィーはなぜ仮面の少女がこちらに向けた手に引き寄せられているのか咄嗟に理解できないまま踏ん張りの利かない空中で成す術もなく引き寄せられる。
しかし仮面の少女の手に引き寄せられたシルフィーが引き寄せられた仮面の少女の手に捕まえられる前にシルフィーの体が空中で停止した。
仮面の少女は引き寄せているはずのシルフィーが空中でいきなり停止した事に目をやった。
シルフィーは聖剣術の盾をシルフィーと仮面の少女の間に展開して咄嗟に足場を生み出し仮面の少女の引き寄せる力に対抗した。
仮面の少女の引き寄せる力は聖剣術の盾で足場を作り対抗しているシルフィーに体に凄まじい引力を体感させる。足場を作り仮面の少女に捕まる事はないが引き寄せられる引力に足場の盾に片膝を付いている状態だ。
そんな状態のシルフィーに悪魔達は展開した魔法陣を向けた。悪魔達の魔法陣から光の球が生成されて身動きの取れないシルフィーに向けて射出された。
射出された光の球はシルフィーへ真っ直ぐ飛んでいく。しかしシルフィーに着弾する前に見えない何かに阻まれ途中で爆散した。シルフィーは仮面の少女の引力で身動きが取れない状態で自身の周囲に聖剣術の盾を展開していた。
「甘く……見ないで下……さい……!」
シルフィーは引力で体に相当負荷のかかっている状態で仮面の少女に言った。
悪魔の魔術を全弾防いだシルフィーに一瞬気を取られた仮面の少女にファルコはシルフィーを引き寄せる手に向かって聖剣で斬りかかる。
ファルコの聖剣を躱すため仮面の少女はシルフィーを引き寄せていた手を引っ込めた。ファルコの聖剣は空を切ったがシルフィーに負荷をかけていた引力が消えてシルフィーの体は軽くなった。
シルフィーは即座に展開した盾を解除して地面に降りる。
着地したシルフィーは再度仮面の少女から距離を取った。
仮面の少女も剣戟を繰り広げたファルコと距離を取った。
「さすがは勇者様。一度見せた手には引っ掛かりませんか」
仮面の少女はシルフィーが引き寄せる力に咄嗟の機転で対策舌事を称賛した。
一方称賛を受けたシルフィーは仮面の少女が次に何を仕掛けてくるか警戒していた。
悪魔達は魔法陣を展開してファルコとシルフィーそれぞれに光の弾丸を連射した。
ファルコに飛んでくる光の弾丸はファルコに着弾する前にシルフィーの聖剣術の盾に防がれる。シルフィーに飛んでくる光の弾丸は勇者の力で高速移動して躱すシルフィーを捉え切れず全弾全弾命中しなかった。
知るf-の聖剣術の盾で守られている間ファルコは右手に意識を集中させた。ファルコの右手に勇者の紋章が浮かび上がりどんどん輝きを増していく。右手の紋章の輝きに呼応するようにファルコの構える聖剣が輝きを増していく。聖剣の輝きは徐々に切っ先に収束していき聖剣の切っ先に光の球が生成される。
ファルコは聖剣の切っ先に生成された光の球を勢いよく上空へ投げ上げた。
ファルコが投げ上げた光の球は村の建物の高さを余裕で越えて上空で停止する。停止した光の球から悪魔達と仮面の少女に向けて光線が多方向に照射される。
仮面の少女は構えていた大剣を縦にして身を守るが照射された光線に成す術もなく悪魔達に命中した。悪魔達に命中した光線は悪魔達の体をつらに気建物の屋根に穴を開けた。
ファルコは悪魔達に致命傷を与えたと確信したその時悪魔達の体が急に透けていった。
実際に悪魔を滅したラザフォードやノクトの情報だと勇者の力で悪魔を滅した時悪魔の体は煙のように変わり跡形もなくなると聞いている。しかし今のファルコの聖剣術を受けた悪魔達は体が空けていくだけだ。
透けていく悪魔達の体は最終的に消えるように見えなくなった。
「どういうことだ⁉」
情報にない悪魔の消え方にファルコは声を出した。知るf-も情報にない悪魔の消え方に驚いていた。
「勇者様達が相手していたのは私の魔術で造った幻影です。幻影が発動した魔術も私が遠隔で発動した魔術です」
仮面の少女はファルコとシルフィーの方を見て今まで戦っていた悪魔達が幻影である事を告げた。
「足の速い勇者様に私の幻影の背後を取られた時も、まだ幻影と気付かれてはいけなかったのでナイフを投げて阻止しました」
「つまり時間稼ぎというわけですか?」
「その通りです」
道理で悪魔達がよほどの事がない限り動かなかったわけだ。
遠隔で魔術を発動させるには高度な技術がいる。しかも遠隔で複数の箇所から発動するのはとてつもない集中力も必要だ。剣戟を継ぐ蹴る中幻影の動きに合わせて魔術を発動するには幻影が移動していては幻影と魔術の発動箇所のずれに気付かれる可能性がある。
シルフィーが悪魔の幻影の背後を取って聖剣で斬りかかった時に他の悪魔が魔術で応戦しなかったのも、もし幻影に魔術が命中して透けてしまう危険を避けるためにあえてナイフを投擲して幻影と悟らせないためだ。
「なぜそのようなことをする必要があるのですか?」
「言ったじゃないですか?時間稼ぎって。私達の欲しかったものは手に入れました」
シルフィーの質問に答えた仮面の少女の横から突然黒い炎が立ち上がり小さな体躯の人型に変わった。
「十分時間稼ぎをしてくれたおかげで目的の物の一つは手に入ったぞ」
人型の黒い炎は黒い外套を羽織った悪魔へ変貌した。仮面の少女の横に現れた悪魔の手には一冊の本を手にしていた。
「それでは勇者様私達の目的の物は手に入ったのでこれで失礼します」
シルフィーとファルコに会釈する仮面の少女は隣の悪魔と地面に突然浮かび上がった魔法陣から放たれる光の柱に呑み込まれて光の柱が消えると同時に姿を消した。
お疲れ様です。
tawashiと申す者です。
今回も読んで頂き誠にありがとうございます。
明日も投稿しますので良ければ次話も読んで下さい。