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第二十九話

 ホホがノクトの指南を受けて一級耐幻術薬を調合した後、ノクトはコンの淹れたお茶を飲んでいた。


「このお茶美味しいですね」

「そうじゃろ?わしゃのお気に入りじゃからな」


 ノクトがお茶を飲んでいる向かいでコンも自身が淹れたお茶を飲んでいた。

 ノクトから一級耐幻術薬の調合の指南を受けたホホは昨日から徹夜でノクトが課した宿題を片付けていた疲れが相まって調合室の机に頬を付けて眠ってしまった。

 寝ているホホは何を言っているか分からないくらい呂律の回っていない寝言を発している。


「それにしてもあんさんはホホに魔法薬の教え方が厳しいの~」

「俺が魔法薬を教わった時はもっと厳しかったです。それに比べたら優しい方です」

「ホホにあれだけ厳しいあんさんより師と聞くと、あんさんに魔法薬を教えた師はあんさん以上のスパルタじゃの~」


 コンはノクトの話を聞いて朗らかな笑みを浮かべながらノクトの後ろで寝ているホホを見た。


「そうですね。俺に魔法薬を指南した師は俺にわざと間違った記載がされている手順書プロトコルだけを渡して一日で手順書の間違った記載を理由も含めて述べるのが日課が当たり前だった時もありました」

「期限を守れなかった場合はどうなるんじゃ?」


「一日期限を守れなかった分だけ魔法薬調合の下準備を一人でやらされました」

「ほっほっほ。確かにそれはあんさん以上のスパルタじゃ」


 ノクトの師の教え方に笑いを零したコンを見たノクトはお茶を啜った。


「俺の師は厳しい人でした。できるのは当たり前。失敗すれば一方的に怒鳴ることもありました。しかも到底一日じゃ終わらない量の課題を出すような人で何度殴ってやろうと考えたか数えきれないくらいです」


 お茶を飲み干したノクトは自分に魔法薬、魔術を教えてくれた師——養父であるエドワードの事を思い出す。

 ノクトが幼少期の頃、エドワードはノクトに魔法薬の全てを叩きこむためにノクトがこなしてきた厳しい魔法薬の課題や魔術の修業を平気でノクトに課すような人だった。


「けど俺に色々教えてくれた師はとても偉大な人でした」


 ノクトはエドワードから教わったもの全て大変な事もあったが今では身になったものばかりだ。


「あんさんの師はよっぽどあんさんが大切じゃったのでしょうな」

「そんなもんなんですかね」


 ノクトは飲み干したお茶の湯飲みを目の前にある机に置いてコンの言葉に返事をした。


「そうじゃとも。そうでなければ教え子に頑張らせる事はしないはずじゃ」

「その話ですが、コンさんはなぜホホに記載漏れだらけの手順書を渡したのですか?」


 ノクトは気になっていた。どうしてコンはホホに記載漏れのある手順書一冊だけを渡したのか。ホホも失敗が続けば手順書に不備がある可能性が頭によぎるはず。それをコンに聞いてくるはずだ。それなのに記載漏れのない手順書を渡さなかった理由が気になった。


「ホホは本を一回目を通すだけで全て暗記する素晴らしい才能がある。手も器用な方じゃ。しかしホホはその才能に頼りきりでいてほしくなかったんじゃ」

「今のホホに足りないもの。必要な正しい情報を効率的に見つける力…ですか?」


「鋭いの~あんさん。ホホと二日しか会っていないのによく見ておるの~」

「一応ホホの先生みたいなんで」


 朗らかに微笑むコンにノクトはホホの言葉を借りて返事を返した。


「あんさんもそれに気付いたから昨日それを試すためにの宿題を出したんじゃろ?」

「お見通しでしたか」


 ノクトがコンに見抜かれた事に返事をするとコンも湯飲みを机の上に置いた。


「同じ調合手順で一つだけ異なる試料はその代用品として用いられる試料。それで効能の高い手順はどちらか理由まで答えるには普通なら一通り魔法薬を教えた後に出題するような問題じゃ。魔法薬を学び始めた人間が一日で答えるには必要な情報を正しく効率的に探すセンスが必要じゃ」


「確かに一通り魔法薬を覚えた者や必要な情報を効率よく探せる探せる者だと半日で百点の解答出せる宿題です。けれど初心者のホホがその宿題を出せば俺に魔法薬を教わることを諦めてくれると思ってました」


「さすがはわしゃの教え子じゃ。努力家なところはわしゃ譲りのようじゃな」

「それを自分で言って恥ずかしくないですか?」


 一通り話を終えた二人は新しくコンが淹れたお茶を飲み始めた。


 湯飲みを取ろうとノクトは机の上に置いた湯飲みの方を見るとノクトが机に置いた湯飲みの近くに一冊の小さな本が置かれていた。

 小さな本にはノクトが見た事のない文字が表紙に書かれている。


「この本は何ですか?」


 ノクトは机の上に置かれた読めない表紙の小さな本についてコンに質問した。


「その本か?その本は幼かったホホを拾った時、ホホが持っていた本じゃ」

「随分と変わった言語で書かれていますね」


「ホホを拾った事は驚かないんじゃな」

「そんなの見れば分かりますよ。ホホは見た限り純血の亜人です。そしてコンさんは純血の人間です。家族として暮らすところを見るにホホがコンさんに拾われたのは可能性として高いと思ってました」


 ホホの亜人族特有の毛並みや耳と尻尾は亜人族と人間の混血ではなく純血の亜人族のものだ。純血の亜人族が純血の人間と暮らす事は夫婦でない限りどちらかが孤児で拾われたケースが多い。


「あんさんはもうちょっと年寄りのユーモアに乗る事を覚えた方が良いぞ」

「すみませんがあまり面白くないユーモアだったんでスルーしてしまいました」

「それにあんさんはもうちょっと年寄りに対しての言い回しも考えた方が良いと思うぞ」


 ノクトの直球な言葉にコンは人生の先輩としてノクトの言い回すに注意した。


「ホホが幼い頃にこの本を持っていたんですか?」

「そうなんじゃ。ホホがまだ物心がつくかつかないかの頃にホホと出会った時ボロボロじゃったホホが唯一所持していた本じゃ」


 コンの話を聞いたノクトは再び机に置かれた本を見た。

 ところどころ土か泥が汚れとして付着していて表紙は擦れた傷跡が見て取れた。


「ホホも幼かったからかこの本についてうろ覚えのようで家にあった本としか覚えていないみたいじゃ」

「そうなんですか」


 コンから本の事を聞いたノクトは新しく淹れたお茶が入った湯飲みを手に取りお茶を啜りながら飲んだ。

 お茶を飲んでいるノクトが店の外を見ると外が暗くなり始めていた。


「……うっ、はぁぁ……ねてた……?」


 机に頬をv付けて寝ていたホホは目を覚まして机から顔を上げて大きくあくびをした。


「よく眠っておったのホホ」


 目を覚ましたホホにコンは寝起きのホホに声をかけた。


「……オジジ。あたしいつから寝てた?」


「俺と魔法薬の調合を終えてから数分後には何喋ってるか分からない寝言を言いながら寝てたぞ」

「あたし寝言言ってたの⁉……恥ずかしい」


 ホホはノクトから寝言を言っていた事を聞いて羞恥で顔を赤くしていた。


「明日も同じくらいの時間帯に来るから机の上に明日までにまとめておく宿題をメモしたからしっかり読んで提出できるようにしておけ」

「わ、分かりました先生!」


 湯呑に入ったお茶を飲み干したノクトはホホに宿題について話すと店の出入り口の扉に向かった。


「それと今日みたいに徹夜すると寝不足で魔法薬の調合をする時に支障が出るから少しでも睡眠はとれ」

「分かりました!しっかり睡眠も取ります!」


「もれでは今日はこれで失礼します」


 薬屋の店主であるコンに会釈をしたノクトは店の扉を開けて店を出る。


「明日もよろしくお願いします!」


 店を出るノクトにホホは大きな声で挨拶した。

 ノクトが店を出た後ホホはノクトが宿題のメモを残した机に向かった。


 ホホは机の前に着くとノクトがメモをした宿題の内容が書かれている紙を手に取って読んだ。

 ノクトはメモに残した宿題の内容は五冊の手順書の本の題名が書かれていて“メモに書いた本から一級回復薬として収量が一番良い手順書をその理由と共に記述しておけ”と書かれていた。


「昨日の倍以上の量の本を宿題に出すとか。先生本当に寝かす気あるのかな……」


 出された宿題の量にホホはぼそっと呟くように本音が漏れた。

お疲れ様です。

tawashiと申す者です。

今回も読んで頂き誠にありがとうございます。

明日も投稿しますので良ければ次話も読んで下さい。

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