第二十七話
初めてラザフォードと勇者の力を修業した翌日の昼前、勇者の力を使いこなすためノクトはラザフォードと共に昨日と同じ村の外れの崖近くの場所に来ていた。
「眠そうだなノクト?」
「ラザフォードさんのいびきがうるさいせいでラザフォードさんが起きるまで眠れなかったんですから」
「ハッハッハ。それはすまなかったな」
ノクトはラザフォードのいびきが原因で眠れなかった事を話すとラザフォードは笑いながら謝った。
ノクトはラザフォードが起きてから眠りについたが外は太陽が昇っていて辺りが明るいせいで十分に睡眠できていない。そのせいか顔の血色もいつもより若干悪くノクトの目の下に隈ができている。
「それじゃあ修業を始めるぞ」
「分かりました」
「やる事は昨日と全く同じ。右目の第二開放状態に聖剣術の追尾能力があるか確かめる」
昨日と同じ内容の修業をするとラザフォードから聞くとノクトは腰に携えた聖剣を鞘から引き抜き構える。右目に力が集中するイメージを描いて右目に勇者の力を収束させる。
ノクトは昨晩の修業の後に感じた今までにない脱力感は現在感じなかった。勇者の力が回復しきったのだろう。
ノクトの右目から勇者の紋章が浮かび上がって徐々に浮かび上がった紋章が輝き出す。
「その調子だ。もっと力を集めて蓄えるイメージだ」
ラザフォードの助言を聞いたノクトはより右目に力を収束するイメージを描いた。
右目の紋章の輝きはどんどん増していき昨晩修業した時と同じくらいの輝きになる。
すると突然ノクトは右目に蓄えていた力が一気に分散して今まで溜めた力が跡形もなく消える感覚を覚えた。ノクトがその感覚を覚えたと同時に右目の輝きを増していく紋章が突然輝きを失い紋章が見えなくなった。
「昼間の修業はここまでだ」
輝きを増していたノクトの右目の紋章に輝きを失い見えなくなった事を確認したラザフォードは昼間の修業の終了を告げた。
ノクトは右目の力を不発に終わらせた反動で昨晩の修業の後と同じ全身に脱力感を感じていた。
「まあ、二度目で成功するくらいなら自力で第二開放状態を習得できてるか」
「せっかく修業を見てもらっているのにすみません」
ノクトは勇者の力を見てもらっているラザフォードに時間を取らせてしまっている申し訳なさを感じてつい口から謝罪を述べていた。
「気にするな。それより右目に力を集めて蓄える時、具体的にどんなイメージを描いてるんだ?」
「具体的なイメージですか……」
ラザフォードの質問にノクトは言葉を考えるのに少し時間を使った。
ノクトは少しの時間の後ノクトが立っている地面を見た。地面には細い枯れ枝が落ちていた。
ノクトは地面にかがんで枯れ枝を拾った。ノクトは拾った枯れ枝をペン、地面を紙のようにして地面に絵を描き出す。
ラザフォードはノクトが地面に描き出した絵の近くに歩み寄る。
「俺はこんなイメージで右目に力を集めてる感じです」
ノクトが地面に書き終わった絵を見ると、絵の中心に人の目が簡略的に描かれ、その目に対して四方から真っ直ぐに矢印が向いている。
「中心に描いたのが右目で、矢印が集めている力のイメージです」
ノクトが地面に力を集めて蓄えているイメージを簡単に描いた。
「確かに言葉だけより絵の方がノクトのイメージが伝わり易くていいな」
ラザフォードはノクトの絵を見てノクトがどういうイメージで右目に力を集めているか目視で確認できた。
ノクトが頭の中でイメージしていた内容を確認すると、ラザフォードもノクトの近くで地面にかがんで落ちていた枯れ枝を拾った。
「確かにノクトが右目に力を集めて蓄えるイメージは把握できた。けど右目に力を集める方向が良くない」
ラザフォードはノクトが地面に描いた絵の矢印にバツを上から描いた。
ノクトが描いた絵の隣にノクトと同じ中心に簡略化した人の目と簡略化した目に矢印が四方から向いている。そこまでは同じだった。違っている点は力が集まる時の方向を表す矢印だった。
「第二開放状態で力を集める時、俺はこんな風にイメージしている」
ノクトが描いた矢印は目に向かって四方から直線的に矢印が描かれていた。一方ラザフォードの描いた矢印は曲線で弧を描きながら目に矢印の頭が向いている。全体像を見ると目を中心に矢印達が渦を巻きながら四方から中心の目に向かって収束していた。
「紋章に向かって渦を巻くように力を集める方が力が集まりやすい上に溜めている力も安定する。次に修業する時はこんなイメージで右目に力を集めてみろ」
「分かりました」
ラザフォードから目に力を集める時のコツを聞いたノクトは返事をした後聖剣を鞘に納めた。
「ラザフォードさんは第二開放状態の力を習得するのにどのくらいの時間を使いましたか?」
「俺はノクトに教えたコツを教わってから二週間で習得した」
「たった二週間で⁉」
ノクトはラザフォードが第二開放状態の力を習得するまでの機関の短さに驚いた。
「二週間って言っても俺もコツを教わるまで半年も無駄に時間を使った」
「半年ですか」
勇者として長いラザフォードでも第二開放状態を習得するには時間を要する事をノクトは理解した。
「ラザフォードさんにコツを教えてくれた人って誰なんですか?」
ノクトはラザフォードに勇者の力の使い方を指南した人が気になり質問した。
「俺に勇者の力を教えてくれたのは先代の右目に紋章を宿した勇者だ。つまりノクトの前任者の一人だ」
ラザフォードは自身に勇者の力を指南した人物をノクトに伝える。その時ラザフォードは空の方を向いてどこか遠くを見ているようだった。
ノクトはレイノスから聞いた事を思い出した。勇者の紋章は勇者の死後血統など関係なく不特定多数の人の中から選ばれる。しかも選ばれる時期も不明で伝承では勇者の死後すぐに次の勇者が見つかった事もあれば数年経って勇者が見つかった事もあるらしい。
けれどノクトの右目に紋章があるという事は先代の右目の紋章の勇者はすでに他界している。
「その人のおかげで俺は左目の力を使いこなせるようになった。感謝しきれないくらいの恩がある」
ラザフォードはノクトの方を見て先代の勇者に対する思いを告げた。
「ラザフォードさんが右目に紋章がある勇者の下で教えてもらっていたってことはラザフォードさんは右目の力を知ってるんじゃないですか?」
「もちろん知ってる」
「だったら右目の力を教えて下さい。その方が修業するのには効率的です」
「教えてやりたいのはやまやまなんだが、勇者の能力は同じ場所に紋章があっても全て同じ能力が使えるとは限らないんだ」
「どういうことですか?」
ラザフォードが少し困ったような様子で話すとノクトはどういう事なのか聞いた。
「前に話した左目と右目もそうなんだが共通する能力は世代が変わると稀に今まで共通しなかった固有の能力が共通の能力になる場合がある」
ラザフォードの話が本当なら、確かに共通する能力が異なった場合それを重点的に教える事が無駄な可能性のあり得る。
「けどそれだと勇者の共通する能力がない場合もあり得るじゃないですか?」
もし勇者の力が固有の力のみが次の世代に継承された場合、世代によっては共通する能力がない勇者が生まれる可能性もある。
「不思議な事にそのケースは今まで一度もないらしいんだ」
稀に起こる事だから今までそのケースに当たらなかったのだろう。もし意図的に決めているのならそれができるのは神々くらいのものだ。
「まあいくら考えても分かる事じゃないし、ノクトもあと約半日湯者の力は使えない。力が回復するまで解散するか」
「そうですね。それと交代の時間ですラザフォードさん」
ノクトは服のポケットから魔石を取り出した。ノクトとラザフォードが交代で管理している魔王の魔力が封印された魔石だ。
「そうだな。次の交代は明日の夜でいいな?」
「大丈夫です。次の管理お願いします」
ノクトは手に取った魔石をラザフォードに手渡した。
「次の修業は昨日と同じくらいの時間からでいいな?」
「分かりました。俺は一度村に戻ります」
ノクトはラザフォードに村に戻る事を告げると村へ歩いて行った。
お疲れ様です。
tawashiと申す者です。
今回も読んで下さり誠にありがとうございます。
今回二話連続投稿をしますので良ければ次話も読んで下さい。