第二十話
ノクトとラザフォードと別れたシルフィーとファルコは北東へ続く道を進んでいた。
「勇者シルフィー少しよろしいでしょうか」
「何でしょうか勇者ファルコ?」
「あの魔王の子孫と随分と仲の良いように見えますが何かあったのでしょうか」
「ノクトとですか?特にお伝えする程の事は何もありませんよ」
「その呼び方です。魔王の子孫以外の勇者には“勇者”という敬称を付ける貴女が奴には名前で呼び合う事が気になるのです」
「ノクトが呼び捨てで呼んでいいと言っていたのでそうしているだけです。私もそれに肖ってノクトに呼び捨てに差せているのです。深い意味はありません」
「しかしながら一国の王女である貴女が魔王の子孫と四時捨てで呼び合う仲と思われれば他の人間は余計な勘繰りをする者が増えると思います」
「何が言いたいのですか?」
ファルコの回りくどい話にシルフィーは言葉尻が強くなっていく。
「勇者としても一国の王女としても魔王の子孫などに絆されてはならないという事です」
「それはノクトを勇者と認めていないという事ですか?」
「その通りです」
シルフィーが単刀直入で尋ねた言葉にファルコは直球で返した。
「奴はただ勇者の紋章を二つ持つだけで魔王の子孫という事実は変わりません」
「勇者ファルコ。なぜあなたはそこまでノクトを敵視するのですか?」
「魔王と魔王の血族を滅ぼす事こそが世界の平和に繋がると聖典に綴られているはずです。ですから奴の存在自体があってはならない悪なのです」
ファルコは真剣な表情で聖母教の聖典に綴られている魔王の血族についてシルフィーに語る。
「貴方が聖典の内容に則ってノクトを悪というのであれば勇者の紋章を持つ勇者こそが世界を平和へ導く者だと綴られているはずです。ノクトは私達の同じ勇者の紋章を持つ勇者で世界を平和へ導く同志です」
シルフィーはファルコが語る聖典に綴られているもう一つの事実を語りファルコに反論する。
「今はそう見えるだけです。奴がいつ僕達を裏切り魔王側に着くか分かりません。だからこそ警戒するのは当然です。なんといっても奴は魔王の子孫です。いつ裏切ってもおかしくありません」
「……分かりました——」
ファルコの意見を聞いたシルフィーは先程まで言葉尻が強かったのが嘘のように落ち着いた声を発した。
「——勇者ファルコ。貴方とはこの議論で決して和解する事はないでしょう。それが分かって良かったです」
シルフィーはファルコに微笑んで優しく答えた。しかしシルフィーの微笑みはファルコへ怒りと拒絶を感じさせる絶対零度の微笑みだった。
「僕も貴女の答えを聞いて説得する事は不可能だと思いました。この議論は永遠に平行線のままです」
ファルコもシルフィーを諭す事が不可能と感じたようでこれ以上語る事はしなかった。
「私達が議論した事で何も変わりません。それに今回の私達の使命は所持している魔王の魔力を悪魔達から守る事です。これ以上貴方と空気を悪くして連携が取れなくなるのは本末転倒です」
「そうですね。この議論はなかった事にしませんか?」
「私も同意見です。お互い今回の議論は忘れましょう」
シルフィーとファルコは互いに顔を見ず北東の道を進みながら今回の議論を忘れる事を了承した。
お疲れ様です
二話連続投稿の二話目です。
明日も洋行していきますので気が向いたら読んで下さい。