第六話
ノクトが魔法陣から放たれた光が消えると視界に入る景色は王宮の大広間から草原に変わっていた。
目の前に広がる地平線に茜色の夕陽が沈む寸前の茜色の空に夜空の彩りが染まりつつある暗がりの空にはうっすらと月や星が見える。
ノクトはそんな空を見て改めて王宮の中での時間の経過を感じる。
当初の作戦通りノクトは魔王の魔力が保管されている祠を目指す。
王宮魔術師の話では転移魔術を設置した近くに魔王の魔力が保管されていると言っていた。
ノクトは周りを見回すと広大な草原の一角に不自然に積まれた岩の建造物があった。
「あれが魔王の魔力が保管されている祠か」
ノクトは草原に建っている岩の建造物——祠へ歩いた。
岩の祠の目の前に着いた。祠は見る限り王都の一軒家より一回り小さく高さはノクトの背丈より若干高いくらいだ。一見ただ岩が不規則に積まれただけのオブジェに見える。
するととノクトは右目に集中して魔力を右目に集める。するとノクトの右目に今まで見えなかった神秘的な力を感じる文様が浮かぶ。
ノクトはレイノスとの修行で勇者の力を制御する修練を積み、戦闘以外の時は勇者の紋章を不可視化する事が可能になった。
ノクトには勇者の紋章が左手と右目に宿っている。右目に宿った紋章の力の一つ、不可視化された魔術や魔法陣、術式を見通す事のできる力で岩の祠を見た。
岩の祠には立体魔法陣が何重にも展開されている。王宮の人間が言っていた、かつて魔王を討った勇者達が魔王の復活を恐れ魔王の魔力を数多に分散させた。そして分散した魔力を勇者達が仕掛けた罠によって魔王の眷属である悪魔達から守っている。
その悪魔達から守ってきた立体魔法陣はノクトから見ても想像以上の完成度だった。
立体魔法陣の外層の魔法陣には特定の者以外は侵入を拒む結界を展開する魔法陣が展開されている。
外層の内側にある中層の魔法陣には侵入を拒む結界を無理やり破壊した時、破壊した者に体中に激痛を奔らせて拷問する魔法陣が展開されている。
中層の内側にある内層の魔法陣には外層の魔法陣を破壊せず中層の魔法陣を通り抜けた者を認識して精神とリンクして魔王の魔力を持ち出そうとする意思のある者を幻術をかけて精神を破壊する魔法陣が展開されている。
そして立体魔法陣の中心の核には破壊された魔法陣を瞬時に修復する他、魔王の魔力が持ち出されると外層、中層、内層の魔法陣を起動させ侵入者を攻撃するように魔法陣が組まれていた。
これではどんな者でも勇者の仕掛けた罠にかかり侵入したが最後命はないだろう。しかしその高度な勇者の罠すら掻い潜り魔王の魔力を奪った者が存在する。明らかに只者ではない。
しかし聞いた話では勇者の力は悪魔にとって致命傷になる。かつて悪魔がこの立体魔法陣の中にある魔王の魔力を奪おうとして外層の魔法陣すら掻い潜る事も出来ず致命傷を受けたと聞いた。
エドワードと一対一で互角に戦い合う事のできるあの悪魔でも太刀打ちできないこの立体魔法陣を誰が掻い潜ったのだろう。
そんな事を考えているとノクトの耳に付けている魔法具が点滅する。
『皆様。全員作戦通り魔王の魔力が保管されている箇所へ各自転移させました。魔王の魔力が保管されている場所に着いた人は私達王宮魔術師の方へ念話で通知して下さい』
王宮魔術師が魔法具による念話で全員が配置に着いたか連絡をしてきた。
『こちら勇者ノクト。魔王の魔力が保管されている祠へ到着』
ノクトは念話の魔法具を使って王宮魔術師に目的地に到着した事を報告する。
『ノクト様報告ありがとうございます。全員の報告が終わるまで少々お待ち下さい』
報告をしたノクトに念話越しで王宮魔術師が次の連絡まで待つように言う。
ノクトが王宮魔術師の連絡を待っていると草原の北から湿った風が吹いてきた。
ノクトは吹いてくる風の風上を見ると黒い雲が北の空に浮かんでいる。
「雨雲か」
この様子だと北風に乗って雨雲がこちらへ来て雨が降るだろう。
こんな時に雨が降るなんて運がないとノクトは心の中で思っていた。それと同時にノクトはこの嫌な黒い雨雲を見てその事とはまた違う嫌な予感が頭によぎる。
お疲れ様です。
tawashiと申す者です。
今回も読んで頂き誠にありがとうございます。
今回は二話連続投稿しますので良ければ次話も読んで下さい。