第一話(裏)
二年後——
「戻ってきたのですね。シャルロット」
炎とも煙とも見て取れる黒い外套を羽織っている異形の存在——悪魔が目の前にいる少女に声をかけた。
絹糸のように美しい金色の長髪に目鼻立ちが整った顔。円らな瑠璃色の博美はどこまでも澄んでいる。二年の歳月で身長だけではなく女性らしいシルエットに成長した。着ている黒のワンピースの上からでも引っ込むところは引っ込んでいて主張するところは主張している。そして目の前にいる悪魔と同じゆらゆらとうごめいている黒の外套を肩にかけていた。
「無事奪還してきたわ。ユプシロン」
目の前の少女——シャルは片手に宝石のように輝く魔石を手に掴んでいた。
シャルが手に掴んでいる魔石には異質な魔力が宿っていた。
「はい。今回奪還してきた魔力よ」
シャルは手にある魔石を目の前にいる悪魔——ユプシロンに手渡した。
「確かに受け取りました。私は魔王様に奉納しますのでシャルロットはゆっくり休んで下さい」
「そうするわ。流石に十日連続で魔力を奪還するのは疲れた」
ユプシロンに魔石を渡した後、両手を組んで腕を伸ばした。
腕を伸ばした後シャルは踵を返して自分の部屋に進んだ。それと同時にユプシロンは別方向の通路を進んだ。
シャルが黒い壁の通路を進むとこの二年間見慣れた黒塗りの扉の前に着いた。とびらのとってを掴み扉を引くとこの二年間過ごしている部屋に入った。
部屋に入ったシャルは肩にかけていた黒の外套を手に取った。手に取った外套は途端に炎のような挙動を示し掌に収束して外套の形杖から火の玉に形状が変化する。掌にできた黒い火の玉は掌に吸われていく。吸い込まれた火の玉は掌の上には跡形もなくなった。体内に黒い炎を取り込んだ後、シャルは部屋の中にある浴室へ向かった。
浴室は部屋の外のような黒い壁や天井と対照的で清潔感のある白い壁と天井が広がっていた。
シャルは浴室の脱衣所で身にまとっている衣服を脱ぎ棄て一糸纏わぬ姿となった。脱ぎ捨てた衣服は綺麗に畳んだ。ここに来る前に暮らしていた時の癖がまだ残っていて脱いだ衣服を畳む動作が染み込んでいた。
衣服を畳んだ後シャルは浴室に足を踏み入れた。シャルはシャワーの蛇口をひねりシャワーから熱めの温水を出す。
熱めのお湯を浴びて体中に滴る。シャワーのお湯で長い金髪も濡れて女性らしい体のラインに張り付きシャワーの熱でわずかに上気した肌と相まってとても艶っぽい。
「……やっと三分の一」
シャワーのお湯を頭から浴びてシャルは呟いた。
シャルが悪魔アルファとオメガの力を受け取って肉体が力に順応してから約一年。
シャルは悪魔達から悪魔の魔力と神聖力の使い方を学びながら、勇者達が分散し封印した魔王の魔力を奪還してきた。
元々悪魔達が分散された魔王の魔力の大半を回収したが、かつての勇者が生前施した罠により残りの魔王の魔力を回収できずにいた。
そこに悪魔の力に適合するシャルが現れた。悪魔二体の力を譲り受け悪魔の力が順応した一年後、悪魔から力の使い方を教わった。十分に使いこなせるようになってシャルが勇者の罠が仕掛けられたところへ出向き勇者の罠を掻い潜り魔王の魔力を奪還している。
そして今回の魔王の魔力の奪還で悪魔達が手を付けられず回収できなかった残りの魔王の魔力を三分の一回収した。
一年かけて両手の指で数えきれる数しか回収できなかった。そう考えると今いる空間の部屋に埋め込まれている分散された魔王の魔力の途方もない数を考えると悪魔達も千年近くかけて回収したのも納得がいくとともにシャルはすさまじい執念と感心してしまう。
シャルはそんな事を考えながらシャワーの蛇口をひねってお湯を止めるとすでにお湯が溜まっているバスタブに指の先で触れた。丁度良い温度と確かめた後シャルは足からバスタブに溜まったお湯に入れていき、体を伸ばしながら浸かっていく。肩まで浸かると体中に溜まった疲労が解けていく感覚が全身に広がる。
最近は根を詰めて魔王の魔力を奪還していたのでシャルはいつも以上に疲れが溜まっていた。
ゆっくりとお湯に浸かってリラックスしていると頭の中に声が聞こえてきた。
『全員に報告する。至急いつもの部屋に集まるのだ。最優先で全員に通達する事がある。以上』
シャルは悪魔の力を得た事により悪魔同士の意識や思考記憶が共有できるようになりいつでもどこでも悪魔と意思疎通ができるようになった。
「何でこのタイミングなの……」
しかしタイミングまは選べないので今のシャルのように浴室でリラックスしていても関係なく意識が伝わる。
シャルは渋々バスタブから立ち上がった。体に付いているお湯が滴り落ちていく。バスタブから上がり急いでバスルームから出ていつもの部屋に行く準備をした。
お疲れ様です。
tawashiと申す者です。
二話連続投稿の二話目です。
明日も投稿していきますので気が向いたら読みに来て下さい。