第四話
ノクトは王宮の建物から出て外の空気を吸いに来た。
レイノスは上級騎士との策の詳細な練り合わせをしているためノクトは一人で外に出た。
「策なんて言うからどんなものかと思えばボロボロすぎて愚策にも程がある……」
ノクトは溜息をついて今回の策について愚痴っていた。
策を立てているのはおそらく聖母教皇のサイグリューだろう。聖典に書かれた今後の行方を知っている聖母教徒の頂点に君臨する聖母教皇は聖典に書かれた未来を知る者の代表として魔王討伐の策を企てる策士としてレイモンド王から任命されている。
サイグリューには策士としての素質はない事は客観的にみて明らかだ。不幸中の幸いか国の経済を取りまとめている人間は有能であるため、国民は圧政を強いられることなく暮らしている。
ノクトがそのと空気を吸って落ち着いていると後ろから歩み寄ってくる足音が聞こえる。
「勇者ノクトですね?」
ノクトは透き通った声が聞こえる方を振り向くと視界に入ったのはノクトと同世代くらいの容姿の少女だった。
銀細工のように美しい長髪を後ろで一つに束ねている。目鼻立ちは整っていて凛々しい翡翠色の瞳はノクトの方を見ている。女性としては比較的身長が高く、女性らしい丸みがあるところとながらしなやかな手足や腰回りは髪の色とよく合う純白の衣装の上からでもよく修練を積んでいる事が一目で分かる。そして少女の腰には聖剣を携えている。
「何のようでしょうか?勇者シルフィー」
ノクトは目の前の銀髪の少女——勇者シルフィーがノクトに声をかけて歩み寄るとノクトは問い返した。
「名前を覚えていただき光栄です。改めまして私はシルフィー・オルタ・ヒストリニアと申します。勇者同士これからよろしくお願いします」
「ヒストリニアtって……」
「ご想像の通りだと思います。私は国王の娘でヒストリニア王国の第八王女です」
シルフィーはスカートの端を摘み会釈をする。
ノクトはシルフィーのフルネームを聞くと即座にレイモンド王の顔が浮かんだ。
「そうですか。どうぞよろしく。では俺はこれで」
ノクトはそう言うと歩み寄るシルフィーから離れるように歩き出した。
「待ってください。私は貴方と話したいことがあります」
「俺には貴女と話すことがないので、これで失礼します」
「だから待ってください!」
シルフィーは必死に呼び止めるがノクトはそのままこの場を立ち去ろうとする。
ノクトは王宮の庭園まで歩いていく。
庭園には様々な植物の花が綺麗に咲き誇り、花だけでなく茎や葉一つ一つまで手入れされていて庭園全てが芸術のようだった。
そしてノクトは後ろを向いた。振り向いた視界にはシルフィーがこちらに向かって歩み寄ってくるのが見えた。
ノクトは再び前を見て歩き出した。先程よりやや速足で歩いて王宮の中庭へと進む。ノクトの歩く足音と同じリズムで後ろから足音が聞こえる。
ノクトは中庭に着くと後ろから聞こえてくる足音の方を振り返る。
「だから俺はあんたに話すことなんてないって言っただろ⁉」
振り返った先にはこちらに歩み寄るシルフィーが目に映った。
ノクトの目に映るシルフィーは速足でノクトの目の前まで歩み寄った。
「私には貴方に話すことがあると言っているんです!話を少し聞くぐらいできないのですか⁉」
「だから俺はあんたの話を聞く義理はないって言ってるんだよ!」
ノクトと知るf0は中に刃の中心で喧嘩口調で口論を始めた。
「お礼の一言も聞けないなんて器の小さい人ですね!」
「は?お礼?」
シルフィーの言葉にノクトは突然ぽかんとする。
「そうです。貴方が集会の間でレイモンド王が会議を終了しようとした時教皇の策について抗議した時のお礼を言いたいだけです」
「それだけのことでここまで追い付けて来たのか?」
「それだけのことではありません。おかしい事があれば異議を唱えるのは当たり前です。貴方が異議を唱えたおかげであの場にいた人々は教皇の企てた策の杜撰さをはっきり認識したはずです」
「認識したところで何か変わるわけでもないだろ」
「認識することが大事なのです。人は間違いを認識しなければ、それが正解と間違った認識のまま動いてしまいます。貴方の言動は正しいです」
シルフィーはその事を伝えるためだけのために煙たがるノクトの後についてきた。見た目通りの律儀な人だとノクトは思った。
「それに私を王族の一人として煙たがっていても貴方は最後には話を聞いてくれると思ってました」
「それはあんたがしつこく後を付いてくるから」
「それでも話を聞いてくれました。ありがとうございます」
シルフィーはノクトにお辞儀をするとノクトは深く息を吐いた。
「あのクソ国王の娘だっていうのに全然似てないな。魔王の血族の俺にお礼を言うなんて」
「確かにあなたは魔王の血族です。けれどその前に貴方は勇者です。同志として接するのが普通です」
シルフィーがそう言うとノクトはくすっと笑った。
「やっぱりあんたは変わってるよ。俺のことを勇者として接する王族なんて」
「その言葉はいささか失礼です」
ノクトの言葉に頬を膨らますシルフィーの前に右手を差し出した。
「それと俺にはノクトって名前があるのは知ってるだろ?これからは貴方じゃなくて名前で呼ぶんだな。シルフィー様」
「呼び捨てで構いませんよ、ノクト。同じ勇者なのですから」
シルフィーもくすっと笑いノクトが伸ばした右手に握手をした。
お疲れ様です。
tawashiと申す者です。
二話連続投稿の二話目です。
明日も投稿しますので気が向いたら読んで下さい。