第三話
「一つよろしいでしょうか?」
「何だ?」
レイモンド王の会議の終了に口を挟んだのはノクトだった。
終了を遮ったノクトにレイモンド王はいぶかしい表情をした。
「なぜ近々悪魔の襲撃がある事をご存じなのか教えていただけませんか?」
ノクトはレイモンド王に跪いたまま疑問を問う。
「簡単な事だ。王宮の予見者が近々魔王の魔力を奪いに悪魔達が襲撃することを予見した」
ノクトの問いにレイモンド王の隣にいるサイグリューが答えた。
「しかしながら、その予見の精度はあまり良いものとは思えないのですが?」
「何だと⁉」
「例えばですが精度の高い予見であれば、わざわざ魔王の魔力が保管されている場所すべてに人を配置する必要はないはずです。それ程制度の低い予見であれば悪魔達が襲撃してくる時間も正しいものか疑わしいものです。しかも——」
「口を閉じるのだ勇者ノクト!我らの立てた策に問題があるというのか⁉勇者という立場である事に感謝するのだな!貴様は本来魔王の血族という重罪で処刑されているのだからな!」
ノクトの忠告をサイグリューが怒声で遮ってそのままノクトへ侮蔑の言葉を淀む事なく話す。
聖母教の教皇だけあってノクトの存在はとても忌々しい事がやり取りで分かる。
それに対してノクトは侮蔑の言葉を聞いても顔色一つ変えなかった。
「——会議の終了を遮ってしまい誠にすみません。これからは自重しますのでお許しください」
ノクトは本当はサイグリューの策の概要にもっと物申したかったがサイグリューの怒り具合から議論をしても無駄と感じてノクトは謝罪してこの場をやり過ごす。
「分かれば良い。これからは自分の立場をよく考えて行動したまえ」
サイグリューは声を落ち着かせてノクトに釘を刺した。
「それでは今回の魔王討伐会議は終わりとする」
再びレイモンド王が会議の終了を伝える。
レイモンド王は玉座から立ち上がり集会の間に来た時と同じ通路へ歩いていき集会の間から姿を消した。レイモンド王が見えなくなるとサイグリューと元老院も集会の間から出ていく。
集会の間からレイモンド王とサイグリュー、元老院が立ち去り集会の間には王宮に招集された者達のみとなった。
「ノクト。今回もギリギリ危なかったぞ。これ以上は自分のためにも絶対にやめてくれ」
「すみませんレイノスさん。だけど、制度の低い予見を信じて動くのはあまりにも危険だ」
「やはり聖騎士様の弟子だ。聖母教皇様の策を聞いただけで私達が予見した未来が制度の低いものと当ててしまうとは恐れ入ります」
レイノスとノクトの会話に王宮予見者のポーセインが話に入ってきた。
「すみませんポーセイン卿!そんなつもりで言ったわけでは——」
「気にしないでくださいノクト殿。私達王宮予見者達もこの予見は制度の低いものと聖母教皇様達にお伝えしておりますので気に病む事はありません」
ノクトはポーセインに謝罪すると、ポーセインはノクトに優しい微笑みで気にしていない事を伝えた。
ポーセインはノクトが勇者として王都に来てから知り合った人の中で数少ないノクトの理解者だ。
レイノスはノクトに注意を言うを王宮魔術師の方へ歩み寄る。
「それで王宮魔術師達はこの策を知っていたというわけか?」
レイノスは王宮魔術師の方へ歩み寄ると策を知っていた事を尋ねた。
「お伝え出来ませんですみません、聖騎士様。聖母教皇様からこの会議が終わるまで内密にするよう仰られておりましたので」
王宮魔術師の一人はレイノスに頭を下げて事情を説明した。
「謝る必要はない。それも聖母教皇の考えなのだろう。それで詳しい策は王宮魔術師に知らされているのか?」
「その通りです。まず勇者様四人の内三人が先に聖母教皇様の仰られたライエール伯爵家別邸へ私達の転移魔術で転移します。次に残りの勇者様一人を魔に王の魔力が一番多く封印されている所へ、他の魔王の魔力を封印した場所には聖騎士様も含めた上級騎士様達の順に各々転移させます」
王宮魔術師はサイグリューから伝えられた作戦の詳細を話し始まる。
「しかし私達が施した転移魔術は一度一斉展開すればいつでも転移が可能ですが一度展開するためには時間がかかる上に一度に転移できる人数も限られています。ですので転移を開始するのは本日の夕刻まで待ってもらう事になります」
今はまだ昼間だ。夕刻までしばらく時間がある。
「ですので夕刻まで自由時間という事です。皆様には念話するための魔法具をお渡しします。これで悪魔達の襲撃を報告して下さい。私達の転移魔術の準備ができ次第魔法具の念話によりお伝えします」
王宮魔術は懐からイヤリングの形をした念話用の魔法具を取り出し、この場にいる人間に渡していく。
全員に魔法具が行き届くと王宮魔術師が口を開いた。
「この魔法具には念話機能の他に展開された転移魔術に呼応して事前に設置した転移魔術の下へ身に付けた者を転移させる機能も付けております。ですので今この場でお渡しした魔法具が正常に起動するか確かめますので皆様、魔法具を身に付けてください」
王宮魔術師が伝えると魔法具を持っている人達は片耳に魔法具を身に付けた。
全員が魔法具を身に付けると魔法具を渡した王宮魔術師は目を閉じた。
『今魔法具を通じて念話をしています。念話できている人は手を上げて下さい』
頭の中から語り掛ける声が聞こえると集会の間にいる人全員が手を上げた。
「魔法具は全て正常に起動するようですね。それでは我々王宮魔術師の準備ができ次第念話でお伝えしますのでそれまではご自由にして下さい」
お疲れ様です。
tawashiと申す者です。
今回も読んできた抱き誠にありがとうございます。
本日二話連続投稿いたしますので良ければ次話も読んで下さると幸いです。