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第一話

 二年後——



 王都の診療所から夜空を思わせる漆黒の瞳と髪を持つ少年が出てきた。


「やっと退院だ」


 診療所から出てきた少年——ノクトは瞳と髪の色とお揃いの黒を基調にした衣服を着ている。

 ノクトが診療所を出て門のところまで歩くと門の前に一人の男性が立っていた。


「今回は退院に時間がかかったな」

「一般人なら一生入院するくらいの大怪我だと担当医が言ってましたよ。レイノスさん」


 門の前に立つ紺色の瞳と髪、外套を羽織った男性——レイノスはノクトの退院を待っていた。


「それに毎回入院するような大怪我してるから担当医に呆れられてもう何も言われなくなったんですよ」

「その方が色々詮索されなくて楽だろう?」

「そりゃそうですけど」


 ノクトは二年前、レイノスに弟子入りとした。それ以来レイノスの下で修業している。修業での大怪我はこの二年で三十回は超える。


 その都度診療所に入院している。最初の方は怪我の治りが異常に速い事をしつこく聞いてきたが、中盤から何度も入院する事に自分の身を大事にしろと注意喚起を受けた。十五回目の入院から担当医は呆れ始めしつこく注意喚起をしなくなった。今では注意喚起をする事が無駄と感じたのかノクトが入院しても何も言わなくなった。


 ノクトは魔王と呼ばれるかつて世界に反旗を翻し世界を掌握しようとした者の血を引く。幸か不幸か、その恩恵で普通の人間より負った怪我が格段に速い。その事について訊かれなくなった事は正直助かっている。入院するたびにこの体質について訊かれてごまかすのに難儀していたから担当医が先に折れてくれてノクトはほっとした。


「午後は王宮に招集がかかっている事は知っているな?」

「知ってますよ。あのクソ野郎どものところへ行くことぐらい」

「その言葉遣いは王宮の中では絶対するなよ。お前は良くても俺の命がいくらあっても足りない」


 ノクトは二年前の王宮での一件以来王宮の人間を毛嫌いしている。

 これも幸か不幸か、ノクトにはかつて魔王を討った勇者達の証——紋章を身に宿している。聖母教徒の王宮の人間には勇者を手に掛ける事は許されない。そのため勇者の紋章を持つノクトには王宮の人間から直接危害を被る危険はない。


 しかしノクトの周りの人間となれば話は別だ。勇者以外の者であれば最高権限を持つ王宮の人間の指一つでどうにでもなる。その事を分かってレイノスはノクトに釘を刺した。


「分かってますよ。王宮では我慢します」

 ノクトは渋々レイノスの注意に了承した。


「だが招集がかかっている時間まで時間に余裕がある。ノクトはどうする?」

「俺は入院してた時に寄れなかったところがあるから先にそっち寄るよ」


「そうだったな。俺はこの前立ち寄ったから今日はノクト一人の方がいいだろう」

「それじゃ行ってくる」


「王宮の門前で集合だぞ」

「分かりましたー!」


 ノクトは駆け足で寄るところへ向かった。

 ノクトが駆け足で進んでいくと王都の中央からどんどん外れていき王都郊外との境近くまで来た。


 ノクトの目の前には文字が彫られた石が並んでいる。石に彫られているのは人の名前と日付だ。

 ノクトが訪れたのは墓地だ。ここに並んでいる名前が彫られた石は全て墓石である。


 ノクトは墓石の列を進んでいく。そして一つの墓石の前に止まった。

 エドワード・エレンザークと掘られた墓石の方を向いた。


「遅くなって悪かったな。ジジイ」


 ノクトは墓石の前で呟いた。

 ノクトが入院中にエドワードの命日が過ぎた。本来なら命日当日に訪れたかったがレイノスとの修行で大怪我を負ったノクトはエドワードの命日に入院していて外出現金だったため当日に訪れる事ができなかった。


「レイノスさんもここに来たのはホントだったんだな」


 エドワードの墓石の周りは綺麗に手入れされていて、墓石自体も土埃が付いていない。


「腐れ縁の割には墓の手入れするなんてレイノスさんも律儀な人だ」


 本来ノクトがするべき事なのだろうが入院していて手入れができなかったノクトの代わりにレイノスが手入れをしたのだ。後でお礼を言うべきだろう。


「ジジイのおかげで今までなんとか生きてこれたよ。それにレイノスさんに厳しい修業を付けてもらって強くなっているのを感じてる。天国で見てるなら安心してくれ。俺がアンリとシャルを見つけ出して子どもの頃みたいに楽しく暮らすよ」


 ノクトはエドワードの墓の前で目を瞑って祈りを捧げるように呟いた。

 この二年でノクトも成長した。背丈や体格も大きくなり大人の男性に近づいてきている。もう少しでレイノスの背丈を超えそうな程成長した。


 精神的にも二年前より成長したところもある。この二年間で王宮に招集する事は何度かあった。そこでノクトは周りの人に迷惑が掛からないよう王宮の人間に対し大人の対応をする事を覚えた。


 しかし変わらない事もある。二年前レイノスに弟子入りする時の試練で言ったエドワードの敵を討ってアンリを助けて行方不明のシャルを見つける。この願いは変わらぬまま、この二年間レイノスの厳しい修行に耐え自分を磨いてきた。

 そのおかげで自身でも力がついてきている事を実感できている。


「今日はそれだけを伝えに来たから、俺はこれで戻るよ。またなジジイ」


 そう呟くとノクトは目を開けて墓地の外に向かった。



お疲れ様です。

tawashiと申す者です。

今回も読んで頂き誠にありがとうございます。

これから第二章が始まりますので気が向いたら読んで下さい。

今回は二話連続投稿なので次話も良ければ読んで下さい。

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