プロローグ4
地下魔法薬学実験室の上には魔法薬に必要不可欠な植物が植えられている畑があり、その傍でアンリとシャルはエドワードと神聖術の訓練をしていた。
「お養父さん遅いね」
「ノクトのところに行って様子見てくるって言ってたけど、それにしても時間かかってるわね」
アンリとシャルは休憩前に訓練していた摘んだ花の蕾を自身の神聖力のみで開花させ、実を付けるまで成長させる訓練の復習をしていた。
花は基本、茎から摘めば根や葉からの栄養を断つことになるので成長せずただ枯れていくだけである。
しかし神聖術の原動力である神聖力は生命の神秘に触れる力として生物の傷を癒したり成長させる力を有している。
もちろん神聖術で蕾を開花させ実を付けるまで成長させることはできるが、神聖術で蕾を開花・就実させるまでに消費する神聖力は単に神聖力のみで開花・就実させるより神聖力を多く消費する。
しかし神聖力の消費は抑えられるが神聖力のみで開花・就実する方が技術がいる。
その細かい神聖力の制御を身に付けるためアンリとシャルは摘んだ花を開花・就実させる訓練をしている。
アンリは花壇から花の蕾を摘み、花壇の前に広げたテーブルの上に蕾を置く。
そして摘んだ蕾に神聖力を流していく。
すると、摘まれた蕾は神聖力の淡い光に包まれて、根と葉に繋がっていないにも関わらず蕾が徐々に膨らんでいき、花が開花して青色の花を咲かせた。
その後しばらくして花弁が散っていき、花の蕚には大きな緑色の実が実っていた。
アンリは神聖力の制御に成功した。
シャルも花壇から花の蕾を摘み、テーブルの上に置き神聖力を蕾に流していく。
摘まれた花の蕾は神聖力の光を纏い徐々に膨らんでいく。しかしもう少しで開花するところで蕾が膨れるのは止まった。シャルは集中力を高め神聖力を多く流していく。
しかし蕾は開花することなく徐々に枯れていった。
神聖力のみで花の蕾を開花・就実させるためには三ヵ所神聖力の質を切り替えるポイントがある。
第一のポイントは蕾から花を開花させるまでの流れ。
第二のポイントは開花した花から花弁が散っていくまでの流れ。
第三のポイントは花弁が散ってから就実させるまでの流れ。
そこで神聖力の質を切り替える必要がある。
切り替えるタイミングや神聖力の量を間違えると花は成長せずすぐ枯れてしまう。
今のシャルの失敗は神聖力を流す量を見誤って蕾が開花しなかった。
シャルは今の失敗を参考に新しく摘んだ蕾に神聖力を流していく。
蕾が淡い光を纏い蕾が大きく成長していく。そして先程と違い大きくなった蕾は青い花を開花させた。しかしその花もつかの間、開花した花は全ての花弁が散る前に枯れてしまった。
今度は神聖力の質を切り替えるタイミングを見誤ったのだ。
生物の治癒や成長に影響する力だけあって神聖術師でも細かい制御が難しいとされるこの訓練。一朝一夕で習得できるものなど天才と言って差し支えない。
アンリは今日初めてこの蕾を開花・就実させる訓練を受けて小一時間エドワードに手解きを受けて自分の力のみで成功させた。
シャルは双子の姉のアンリとは違い小一時間でこの訓練をモノにできなかった。
シャルはアンリが今日の訓練で蕾の開花・就実の訓練を成功させて笑顔になっている横で表情に暗がりが見えた。
「アンリ、シャル。遅くなってすまない」
そこにエドワードが戻ってきた。
「見て養父さん!これ。私蕾から実るところまでできるようになったよ!」
エドワードに満面の笑みで神聖力で実った実を見せる。
「おぉ。立った小一時間教えただけでもうこの技術を身に付けたか!すごいなアンリは」
エドワードはアンリの頭に手を置き髪を優しく撫でる。
シャルは無言で再び蕾を摘み神聖力を流す。
蕾は徐々に大きくなるが開花することなく萎み枯れていく。
シャルは奥歯を噛み締めた。
「シャルはどうだ?」
シャルが自身の才能のなさを悔やんでいるとエドワードが様子を訊いてきた。
「花が咲くところまではできたけど……」
アンリとは違い苦戦している悔しさで声が小さくなっていくも質問に答えるシャル。
そしてシャルの目の前にある萎んで枯れた花を見るエドワード。
「これは神聖力の質を切り替えるタイミングと神聖力を流す量が一定じゃないから蕾が拒絶反応を起こしてるな。でも、小一時間でよくここまでコツをつかんだ。今度は俺が言ったタイミングで神聖力の質を切り替えてみろ」
「分かった。お養父さん」
シャルは新しく蕾を摘みテーブルの上に置いた。そしてシャルは神聖力を流す。
「よしその神聖力を今の量のまま流し続けるんだ」
エドワードの指示通り神聖力を一定量キープしながら流し続ける。
蕾は先程と比べ蕾が膨らむのに時間がかからずスムーズに成長している。
「今度は花が開いた瞬間、神聖力の質を切り替えるんだ」
そして数秒後。花が開く。その瞬間神聖力の質を切り替えた。
先程まで咲いた花が散る前に枯れてしまったのがエドワードが指示したタイミングで切り替えると花弁がすべて散っていく。
「花弁がすべて散って茎全体が茶色を帯びてきたら神聖力の質をまた変えるんだ」
花弁がすべて散って蕚と茎が茶色を帯び始めてきた。シャルは花に神聖力の質を変えて流し込んだ。
シャル一人では今までできなかった蕾から就実する一連の流れができた。
「やった!ありがとう。お養父さん!」
今までできなかったことができた喜びに舞い上がるシャル。
「俺は神聖力の質を変えるタイミングを教えただけだ。蕾から実らせたのはシャル自身の実力だ」
シャルの頭に手を乗せ頭を撫でるエドワード。
シャルは今日一の笑顔を見せた。その笑顔はアンリの満面の笑みとはまた違う屈託のない笑顔だった。
お疲れ様です。
tawashiと申す者です。
今日は筆が進みましたので二話投稿しました。
読んでくださりありがとうございます。