第十八話(裏)
「それにしてもこの空間ってどこに繋がってるの?」
シグマの後を追い自室を案内してもらうシャルはシグマに質問した。
「この空間は我らの主と我ら悪魔の力がないと出入りができない。つまり今のシャルロットやアンリエットではこの空間から出られない」
道理でシャルを拘束しなくても良かったわけだ。この空間にある部屋に施された通路を開閉させる仕掛けは悪魔か悪魔の力に適合できる者しか開閉できない。この空間から出ようにも悪魔の力がないとこの空間から出入りできない。つまりシグマの言った通り悪魔の力がない者にはこの空間に入ったが最後、出る事ができない。
「あなた、シグマっていう名前よね?」
「そうだ」
「なら、シグマ。アンリのいる部屋に寄ってもいい?」
シグマの名前を呼んだシャルはシグマにアンリのいる部屋に寄って良いか尋ねた。
「アンリエットがいる部屋はシャルロットが通路を開閉してきた部屋と違い、悪魔の力がないと入る事のできない特別な部屋だ。シャルロットだけが入れる部屋ではない」
シグマがアンリのいる特別な部屋の仕組みをシャルに説明した。
「だったらシグマについていけばアンリのいる部屋に行けるってわけよね。お願いシグマ。アンリに会いたい。せめて顔だけでも見たいの。変なことしないかシグマが監視してもいいから」
シャルがシグマに頭を下げて懇願した。
「わ、分かった。アンリエットの部屋に寄るが五分だ。五分経ったらアンリエットの部屋から出ていく。それで良いな」
シャルの懇願に少し困惑したシグマだが制限時間付きで了承した。
「ありがとう。シグマ」
「礼などいらぬ」
シャルのお礼をシグマは断るがシグマは何か少し照れ臭そうにしているように見えた。
そんなシグマは進んでいた通路の壁に手を触れた。
シグマの手が降れたところから壁が渦状に流動していき中心から徐々に穴が開いていく。その穴が次第に大きくなっていき、渦状の流動が止まる頃にはシャルも通る事ができる程大きな穴が開いていた。
「この穴の先がアンリのいる部屋に繋がっている」
シグマがそう言うとシャルは速足でシグマの開けた穴を潜った。
シャルが穴を潜るとそこには星のように輝く宝石が照明代わりになっている黒い部屋だった。シャルが見てきたこの空間の部屋より一回り小さいが部屋の中に家具や寝具が揃っている分生活感があった。そして寝具のベッドの上に見慣れた金髪の少女が寝ていた。
「アンリ!」
アンリが寝ているベッドにシャルは駆け寄った。
アンリはベッドの上で心地よく寝息を立てて寝ていた。
「ノクト様の魔術で寝ているだけだ。ただ封印された力を解放したばかりだったせいか効力が強すぎてしばらくは寝たままだろう」
「無事でよかった……」
シグマの説明にシャルは安堵の息を漏らした。
シャルはアンリの寝顔を見ると微笑んでアンリの手を握った。
数十秒そのまま手を握った後、シャルは握った手を離した。
「この部屋から出るわ」
シャルはシグマに部屋を出る事を告げた。
「まだ二分も経っていないが?」
「アンリが無事だってことが分かれば良かったし、心地よく寝てるのに起こすのも悪い気がするから」
シグマが制限時間を余らせているシャルに経過時間を伝えたが安否を確認できたから十分とシャルは言った。
シャルはアンリの寝ているベッドから離れシグマが開けた穴を潜る。
シャルが穴を潜り元の通路に戻ると後からシグマが穴を潜って出てきた。元の通路に戻った後シグマは穴を開けた壁に手をかざすと時間が巻き戻されるように壁に開いた穴訃音の壁が中心に向かって渦状に侵食していく。そのまま渦を描きながら壁が穴を塞ぎ始め十秒もしないうちに元から穴など開いていなかったかのように壁は元通りになった。
「では、シャルロットの部屋へ案内する」
穴を塞いだシグマは再び通路の先へ歩みを進める。シグマの歩みにシャルはついていく。
しばらく進んでいくとシャルはこの空間に来て二度目の扉を見つけた。魔王の部屋の前の扉と違い金属製の堅牢な扉と違い黒塗りの木目のある普通の扉だった。
「この扉の先がシャルロットの部屋だ」
シグマはシャルの部屋まで案内すると踵を返した。
「案内は終わった。我は戻る。食事は悪魔の誰かが運んでくるから心配するな」
「分かったわ。ありがとう」
案内をしてくれたシグマにシャルはお礼を言った。
シャルのお礼を聞くと返事をせずそのまま元通った通路を進んでいく。
シャルは戻っていくシグマを見送ると黒塗りお扉の取っ手を掴み扉を開けて部屋の中に入った。
シャルが入った部屋にはアンリがいた部屋と同じように部屋の壁や天井に埋め込まれた宝石の輝きが照明代わりになっていて黒い部屋を照らす。部屋の大きさもアンリのいる部屋と同じくらいで家具も寝具もアンリのいる部屋と瓜二つだった。
「……疲れた」
シャルは部屋にあるベッドに直行してベッドに倒れ込んだ。
この空間に来てからあまりにめまぐるしい出来事が起き過ぎて緊張感が解けた途端どっと疲労感がシャルの心身に襲い掛かった。
そしてベッドに倒れ込んだシャルはいつの間にか寝息を立てて眠っていた。
お疲れ様です。
tawashiと申す者です。
今回も読んで頂き誠にありがとうございます。
明日も投稿していくので気が向いたら読んで頂けると幸いです。