第十四話(裏)
「魔王?」
シャルはタウの言った単語を繰り返した。
悪魔達を眷属として生み出した悪魔の王。現在知られている聖典の教えに絶対悪として登場する世界の反逆者。
その存在が人間のシャルに話があるのには何かある。
「そうです。ですので私の後についてきてください」
タウはそう言うと床に手をかざして魔法陣を展開する。
魔法陣が展開すると床が沈み込んでいき地下へ続く階段が作られる。
作られた階段にタウは進んでいく。タウの後ろに続いてシャルが階段を下る。
階段を下っていくと徐々に星空のように輝く宝石が埋め込まれた壁に変わっていき、先程より明るくなり通路の奥が見えてくる。
タウとシャルが階段を下り通路の奥を進むと壁に埋め込まれた宝石が光を発して先の通路をより明るく照らし出す。
「この通路は悪魔の力がない者には絶対に通る事ができないんです。だから儀式の後まで貴女を魔王様は待ってました」
「…………」
「魔王様が人間である貴女に話があるとは、貴女は魔王様に気に入られたようですね」
「…………」
「……あのちょっといいですか?」
「…………」
「私にだけ会話しないのはどういうことですか?さっきから話を振っているのに無視して。それだと私が独り言を声を張って話しているようで悲しくなります」
「……あなたと会話する気なんて全然ない」
「それは貴女方の養父であるあの男の命を絶った私が憎いからですか?」
「…………」
「その無視は肯定という事で受け止めますね」
タウが一方的に会話の糸口を掴もうと話しかけるもシャルはエドワードを殺したタウには悪魔の中でも特に憎悪を抱いている。そんなタウに話すつもりはないと無視して自分の意志を伝えた。
タウもその態度で自分と無駄な会話をする気がないと伝わった。
「ではここからは独り言として聞いてくれればいいです」
タウは妥協案として自分の話を聞いてくれれば大丈夫という意味を込めてシャルに伝えた。
シャルは無言でうなずきもしなかった。逆に反論をしなかったという事は聞くだけなら許容するとタウは認識する。
「この空間に数多の宝石が埋め込まれていますよね?」
タウはシャルや悪魔がいるこの空間の壁や天井に埋め込まれている宝石の話を始める。
「貴女も実際に見て分かったと思いますが宝石一つ一つに魔力が宿っていましたよね。この宝石に宿った魔力の元の持ち主って誰だと思いますか?」
タウの質問にシャルは頭の中で考えた。部屋の壁や天井に埋め込まれていた宝石一つに宿っている魔力は微量だったが、その宝石がこの空間全ての悪魔達が集会していた部屋を除く部屋全てに埋め込まれていた。宝石全てに宿った魔力をまとめれば膨大な魔力になるだろう。特級魔術師でもそんな魔力総量はないとシャルは概算する。
考えられる存在として思い当たる者がシャルの頭に浮かぶ。
「おそらく貴女の考える方で正解です。この空間の宝石に宿る魔力の持ち主は魔王様です」
やっぱり。シャルは心の中で呟く。
「この宝石は昔、勇者達との死闘で魔王様が討たれた後勇者達が魔王様の魔力を幾重にも分散させるため壁に埋め込まれている宝石に移して世界中にばらまきました」
勇者達は魔王が死してなお魔王の力を危惧して魔力を幾重にも分散させるとは、それだけ勇者にとって魔王という存在が恐るべき者であった事が伝わる。
「しかし私達悪魔は長い年月をかけて魔王様の魔力が宿った宝石の大半を回収しました」
長い年月——魔王が勇者達に討たれたのは千年前。その間悪魔達が魔王の分散された魔力を回収していた。人間では一生かけてもできない果てしない所業だ。
「けれど長い年月をかけても全て回収することができませんでした」
それだけ大量に分散した勇者の努力にも感心する。
「私達は残りの魔王様の魔力の在処を見つけ出しました。しかし——」
タウは途端に異形の顔でも分かるような苦虫を噛み潰した表情を見せる。
「残りの魔王様の魔力を宿した宝石はかつての勇者の血族が厳重に保管しています」
確かに勇者の血族が保管しているのであれば厄介だろう。しかしシャルは疑問に思った。
悪魔は灰にされようとも贄があれば復活できる。そこまで行動を躊躇う程の事ではないように思えた。
「もう少しで魔王様のいる部屋に着くのでもうちょっと我慢してください」
シャルがそう考えている内に目的地に近づいていたようだ。そしてしばらく両者無言のまま先を進んでいく。
通路を進み宝石がより強く光り出す。タウとシャルは進んでいる通路の奥に金属製の堅牢な扉が見えてきた。
「この扉の奥に魔王様がいます」
タウはシャルに伝えるとタウが堅牢な扉に手を触れた。
タウが堅牢な扉に触れた途端、扉がゆっくり開いていく。
扉が開き切るとその先は真っ暗で先にある部屋の中が全く見えなかった。
「中に入れば部屋の中が見えるのでそこまで警戒する事はないですよ」
タウがそう言うと真っ暗な部屋に足を踏み入れた。部屋に足を踏み入れた途端タウの姿が見えなくなった。まるで暗闇に丸ごとタウが呑み込まれたように消えた。
シャルも恐る恐る暗闇の部屋に足を踏み入れた。
暗闇の部屋に全身が入ると目の前には今までの部屋とは根本から違った空間が広がっていた。
壁や天井、床という物がなく、シャルだけでなく先に部屋に入ったタウもこの空間に浮いている。
シャルとタウが浮いている空間に広がる無数の星の輝きを放つ魔力が宿った宝石がこの空間中に漂っている。まるで宇宙空間に漂っている錯覚を覚える。
「お待たせしました。魔王様」
タウは膝を付いて頭を深々と下げた。
今までシャルに話すような雰囲気と全く違った。
するとシャルとタウの目の前に漂う無数の宝石の魔力が漏れ出て徐々に収束していく。
収束していく魔力は炎のように揺らめきながら人型の形状に収まった。
『ご苦労だった。タウ』
炎のように揺らめく人型の魔力から声ではなく頭に直接言葉が伝わった。
『この娘が例の?』
人型の魔力はシャルの方を向き頭の中に言葉を伝える。
「はい。魔王様のお考え通り、アルファとオメガの力を全て取り込みました」
タウの人型の魔力に会話する様子は忠誠を誓った主に対しての対応だった。
「あなたが魔王?」
シャルは声を絞り出して人型の魔力に話す。
『そうだ。我が魔王だ』
人型の魔力——魔王はシャルの質問に答えた。
『この空間内に埋め込まれている魔力を通して見ていたぞ。よくぞここまで来た。流石我の見込んだ娘だ』
魔王はシャルに優しい口調で話しかけた。
「私にはシャルロットっていう名前があるの。ここにいる悪魔達もそうだけど、私は娘でも貴女でもない」
シャルは魔王とは違い少々不機嫌な様子だった。
「それと私は魔王や悪魔達の考えには賛同するけどそのためにお養父さんを殺した事は許してないから」
シャルはここに連れてこられてからの悪魔達の会話での自分の呼び方が気に入っていなかった事、エドワードを殺した事への憎悪を魔王に伝えた。
「まっ、魔王様にそんな無礼な言葉で話すな!」
タウは今までない口調と怒声でシャルを叱る。
『タウ、静かにするんだ。すまなかったシャルロット。気に障ったようだな。我と我が眷属の数多くの無礼、誠に申し訳なかった』
魔王は深々と頭を下げてシャルに謝罪した。
「別に謝ってほしいわけじゃない。私をここに連れてきた理由を教えて」
シャルは魔王にこの部屋へ連れてきた理由を単刀直入に尋ねた。
魔王は頭を上げてシャルの方を向いた。
『シャルロットに頼みたい事がある』
魔王は真剣な口調でシャルに話す。
「それって悪魔に任せられないことなの?」
『そうだ。シャルロットでなければできない事だ』
シャルの質問に真摯に答える魔王。シャルはその言葉に嘘偽りのない本当の言葉に感じた。
魔王はシャルにしかできない頼み事を話し始める。
お疲れ様です。
tawashiと申す者です。
今回も読んでくださり誠にありがとうございます。
今回二話連続投稿しますので良ければ次話も読んで頂けると幸いです。